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「運ぶこと」以外に新たな価値提供=ヤマトHD山内社長が講演

2018.05.31

ヤマトホールディングス(本社・東京都中央区)の山内雅喜社長(写真)は25日、ヤマト運輸労働組合の中央研修会で講演し、昨年9月に策定した新中期経営計画(2017~19年度)の方向性を改めて示した。山内氏は「ヤマトは『運ぶこと』で世の中に貢献してきた」ことを再確認する一方で、「環境は大きく変化し、宅急便だけでは世の中からの期待に応えきれなくなっている。我々が持つお客様との接点を強みに、これからはITやロジスティクスといった『運ぶこと以外にも喜んでいただける価値』を皆で提供していきたい」と強調した。

顧客との接点から集まる情報を活かす

『運ぶこと以外の価値』について山内氏は、「地域の活動や生活そのものを支えるとともに、企業が新たな付加価値を見つけるお手伝いをする」と表現。具体的には、「全国で毎日約200万㎞走っている宅急便車両とSDによる地域との接点から集まる、生活や企業活動に関する多様な情報をデータベース化し、AIなどで分析して、効率と利便性を高める新しい提案をしていく」と説明した。

一例として、静岡県浜松市と共同で取り組む、ヤマト運輸の集配車による路面調査プロジェクトを紹介。集配車のボンネットに埋め込んだセンサーで道路のひび割れなどの情報を収集して補修工事に活用する。市では従来、専任の調査員を雇っていたが、「物を届けるネットワークにテクノロジーを加えることで、新たなソリューションを生み出し、普段の集配業務でも世の中の役に立つことができる」と山内氏は強調した。

さらに、中期計画にも掲げる『オープンなプラットフォームの構築』については、「優れた商品を持つ中小規模のメーカーなどが、倉庫や輸配送などのインフラを大企業のように使えたら、これほど便利なことはない」として業界別の仕組みを作る方針を示した。

その提供体制として、グループ全体で幹線輸送やシステム、テクノロジーなどへ投資を行うとともに、将来的にはグループ各社に分かれている窓口を一本化することも示唆。「色々なサービスをわかりやすく提供できる、お客様の方を向いた組織にしたい」との思いを述べた。

また、デリバリー事業においては配達方法の選択肢を広げながら宅急便の集配体制を再構築。働き方改革を実現した上で、再び取扱いを増やす方針を改めて強調した。その際には、「シェア拡大よりも、良いサービスを提供して利益も上がっていく形にしたい」ことを確認した。

全員経営のサイクルを取り戻す

一連の施策でベースとなる「地域のお客様との接点」。そのネットワークである宅急便体制の再構築に向けては『働きやすさ』と『働きがい』の実現で、「我々の原点である全員経営を実践していく」と強調した。

『働きやすさ』に向けては従来の「長時間労働かつ職人気質の働き方」から、「稼げる働き方」や「自分の時間を作れる働き方」など一人ひとりの希望に合わせた柔軟な人事制度を用意して、「働きたい会社」を目指す。具体的な人事・教育制度などは「多様な方法を本社ベースでなく、エリアに応じて皆で工夫していきたい」との考え。同時に、自動の配車システムや仕分け機器など設備投資も積極的に行い、第8次ネコシステムも「使い勝手が悪かったので改良版を出す」とした。

『働きがい』の実現には、「お客様に営業し、選んでもらえた喜びが、仕事への誇りと成長につながる――という全員経営のサイクルを、もう一度取り戻す」と山内氏。「一時は、配達していない時間は悪のようにも言われていたが、お客様と会話する時間はものすごく大事。新技術や自動化設備をいくら導入しても、最後は人とひとの繋がり」と指摘した。

その上で、「昨今では取扱増から会話したくてもできず、ただ宅急便を届けるだけになっていた」と振り返り、宅急便体制の再構築に当たって新たに導入したアンカーキャスト制度についても「一部のマスコミでは、個数拡大やSDの労働時間短縮が狙いだと言っているが、一番の目的はSDが本来の仕事をできるようにすることにある」と理解を求めた。

ヤマトらしさとは?

山内氏が講演で最も力を込めたのが「ヤマトらしさの共有」。「今日、一番共有しなくてはいけないこと」として挙げた「ヤマトらしさ」は、①社員一人ひとりがお客様のことを考えて生き生きと働いていけること、②正直で誠実な会社であること、③新しいサービスや便利な仕組みを生み出してほしい、という世の中の期待に応えていくこと――の3点で、「普段忘れていても時々思い出してほしい」と呼びかけた。

山内氏は集まった組合員らに、「昨年の様々な問題を乗り越えられたのは、第一線のお客さんとの繋がりを持つ皆さんのおかげであり、お客様からの信頼があったから」との思いを伝えるとともに、「安心・信頼できる社会的インフラとしての期待に応えていかなくてはいけない。これが今、一番大事で忘れてはいけないこと」と訴えた。
最後に、「100年続く会社は全体の1%に過ぎず、我々はその1社。ヤマトらしさを皆が大事にすれば、これからも生き残れるどころか、なくてはならない大切な存在になる。次の100年、それを超えて成長し、皆が幸せになるヤマトを一緒に作っていきましょう」と結んだ。
(2018年5月31日号)


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