メニュー

ヤマトHDの新社長にヤマト運輸の長尾社長が就任

2019.02.26

ヤマトホールディングス(本社・東京都中央区、山内雅喜社長)は21日、同社社長にヤマト運輸の長尾裕社長(写真左)が就任する人事を発表した。同日開催の取締役会で決議したもので、4月1日付の着任となる。山内社長(写真右)は代表権のない取締役会長に退き、木川眞取締役は会長職を退任して取締役となる。また、代表取締役副社長には新たに芝﨑健一専務が就任する。同日開かれた社長就任会見で長尾氏は「宅急便のリソースを活用して、新しい領域にいかに踏み込むかが当社の課題。法人のお客様へ、海外領域を含めたソリューションを提供できるようグループの力を結集して動き出したい」と抱負を述べた。また、山内氏は今回の交代について「長尾氏は新たな価値を生み出すために、既存の枠に捉われない構築力を持ち、このタイミングで託すことでヤマトグループはより大きく成長できる」と期待を寄せた。

会見要旨は次の通り。
山内 2019年は100周年を迎えるとともに、中期経営計画の最終年度。同時に、次の100年に入る1年前でもあり、その計画を策定するこのタイミングに社長を交代することで、成長のスピードを上げたいと考えた。長尾氏を選んだ理由は、第一線の現場に近く、ヤマトのDNAをしっかりと受け継いでくれることと、新たな発想、構想力を持って新しいものを作り上げ、実行する力を持つこと。この統率力とリーダーシップがあれば、次のヤマトを間違いなく成長へ導いてくれると確信している。

長尾 100周年を超えた後もお客様に価値と信頼を提供できるよう、新たな成長戦略を構想し、打ち出すタイミングにある。労働力不足を始め、取り巻く経営環境は厳しい。この2年間、「働き方改革」を経営の中心に据えて、山内社長とグループの事業構造をかなり大きく変えてきが、その効果は出始めている。ただ、良いサービスを持続的に提供するために新しい事業形態を模索する必要もある。省人化、効率化に向けた新技術も取り込んでいきたい。当社の最たる資産である21万人以上の社員一人ひとりがお客様の立場で考え、行動できるような環境作りを継続していく。

――業績は回復しており、ここで営業に強い長尾社長が就任し、攻めの経営に転じる考えか。
山内 構造改革が動きはじめ、デリバリー事業を中心に業績改善が進んでいる。宅急便も数量コントロールとプライシングの適正化を進めて順調に回復し、成長のステージへ動いている。中期経営計画最終年度も、営業利益720億を達成した体制の再構築が視野に入っているが、そこはあくまで通過点であり、今後さらに大きく成長していくには、投資を含めた新たなチャレンジが必要だと考えている。

――働き方改革については、まだまだ道半ばとの見方もある。
長尾 アンカーキャストの採用が遅れているのではとの指摘もあるが、現場への理解を浸透させるために動き出しが遅れただけ。期末にはおよそ5000人体制になるなど、巡航速度は当社計画通り。社員の働き方も全社で相当改善しているが、平均値だけがよくなるのではなく、1店1店の状況が改善するよう、各店を個別に見ながら、4月からの1年では働き方の質をさらに上昇させて、顧客へのサービスを一段上げていきたい。

――ヤマトホームコンビニエンスの状況について。
長尾 国交省からの行政指導を受けた内容に批准する体制作り――すなわちガバナンスやコンプライアンス、第一線の教育など、実行すべきことにしっかりと取り組みながら、今後のサービスがどうあるべきか再検討していく。軽々に、「いつ再開するか」という話をするべきではなく、この1、2ヶ月間は遂行すべきことが残っており、まずはそれに専念しながら、これからのビジネスをどうするか熟考を重ねたい。(3月の引越最繁期までのサービス再開は)現段階で難しいだろう。

――引越料金の不正請求や残業代の未払いなどグループには不祥事も発生した。新社長としてヤマトという巨大組織をいかに管理するか。
長尾 ヤマトグループで一番大きな組織がヤマト運輸だが、その中で、主管支店と支社を増やして最前線の管理者がSDときめ細かなコミュニケーションが取れるようにするなど、各拠点が正しく経営できる仕組み作りを進めてきた。さらに、安全やCSR、働き方などは社長まで直接上がるレポートラインを作るべき――という仮説も持っている。ヤマト運輸ではこうしたレポートラインに基づく組織を検討し、来期からいくつかの重要事項が社長まで直接上がるようになる。ヤマトグループでも同様に、ガバナンスを考えていきたい。

――宅急便のシェアに対する考え方は。
長尾 シェアだけをKPIにするつもりはないが、世の中の需要にいかに応えるか企業として非常に大切。しかし、そのニーズに応えるものが全て宅急便であるべきかといえば、そうではない。宅急便のスタート時から荷物の中身やライフスタイルは変化している。宅急便はプライムサービスとしてさらなる高度化が必要だが、多様化するニーズに対し、早く、新しいサービス提案ができるよう模索している。とくにBtoBの物流において宅急便は機能の一つであり、それ以外の運び方や輸送以外の機能を含めて、総合的に提案できる仕組みを作りたい。この領域で当社は後発だが、宅急便で作ってきた形式を使いながらチャレンジしていく。新たな施策にはリソースも必要で、サービスへの適切な対価を担保しながら事業を進める。

――目標とするSD体制の規模は。
長尾 ラストワンマイルは人的パワーがないと難しく、SDの数は適切に増やす必要がある。同時にアンカーキャストも、来期は1万人という当初計画のラインに沿って進めたい。一方で、ターミナルの労働力確保も難しくなっており、ラストワンマイルに荷物を供給する途中の仕組みでは、新しい技術を組み合わせると省人化できる領域。仮説を立てながら実験を進め、採用人員をラストワンマイルに集中できる体制としていく。

――国際物流への意欲は。
長尾 ビジネスはボーダレス化していて、荷物の行先は国内に限らない。当社がチャレンジすべき新しい領域は「宅急便を通してお付き合いをしてきた法人顧客のサプライチェーン全体を見て、新たな価値提供をすること」であり、そうした価値提供を実現できるようなネットワークは自前にこだわらず、適切な海外現地法人とアライアンスを組みながら、素地を築いていきたい。
(2019年2月26日号)


関連記事一覧