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北海道の半導体物流サービス、着々と体制構築=NXHD

2024.10.31

NIPPON EXPRESSホールディングス(本社・東京都千代田区、堀切智社長)が、北海道で準備を進める半導体物流サービスの体制が整ってきた。8月には先端ロジック半導体を製造するRapidus(ラピダス)向け納入部材の〝門前倉庫〟となる「NX―TECH Hokkaido」(写真)が恵庭市に稼働。また、苫小牧港の港頭地区に整備する危険物倉庫も、来夏の稼働に向けて建設工事が始まっている。ラピダスは、半導体製造に伴う本州からの部材調達ルートとして108ルートを設定しているが、NXグループはこのうち94ルートと太宗を担い、ラピダスの調達サプライチェーンの〝命脈〟を支えることになる。

恵庭半導体倉庫、本州発部材の門前倉庫に

NXHD傘下の日本通運は、ラピダスから本州発部材輸送の「取りまとめ業社」の1社に指定されている。これを受け同社は、本州に3ヵ所の中継ターミナルを設定し、国内サプライヤーからの部材を集約して北海道向けに輸送する。中継ターミナルは山口県岩国市にある日通の大竹ターミナル、三重県亀山市のエア・ウォーターグループの拠点、横浜・大黒町のNRSの危険物倉庫の3拠点。

輸送方法は、サステナビリティを重視するラピダスの方針もあり、鉄道輸送と内航輸送の2つ。このうち鉄道ルートは、危険物を積載した列車は青函トンネルを通行できないため、ウエハーなどの一般貨物が中心となり、溶剤などの危険物や高圧ガス類は海上ルートで運ばれる。北海道に到着後は、基本的にすべての部材が「NX―TECH Hokkaido」および苫小牧の危険物倉庫を経由して、ラピダスが新千歳空港近隣に建設中の半導体製造工場「IIM―1」に納入されることとなる。本稼働時には、両拠点から「IIM―1」向けに1日数便のシャトル便が設定される。

半導体製造部材のサプライチェーンにおける中核拠点として門前倉庫の役割を担う「NX―TECH Hokkaido」は、「IIM―1」から約20㎞、JR貨物の札幌貨物ターミナル駅から約22㎞、苫小牧港から40㎞に位置しており、北海道の大動脈のひとつである国道36号に隣接。建物は3階建てで、延床面積5万1096㎡(うち倉庫面積は約4万4000㎡)。大林組が建設したマルチテナント型物流施設を日通が全棟借りした。

全区画で空調機能を完備しており、区画ごとに独自に設定した定温でのオペレーションが可能。また、施設を突き抜ける形で「中央車路」を設けており、雨天や降雪など天候の影響を受けずにトラックバースでの作業を行うことができる。セキュリティや災害時におけるBCPなどにも万全を期しているほか、施設内に「雪室」を備えており、冬季に貯蔵した雪を、夏季に冷房として活用することができる。

設備搬入がピーク、12月に100%稼働へ

8月から稼働した「NX―TECH Hokkaido」だが、現在の稼働率は5割未満。「IIM―1」では来年4月からのパイロット稼働に向けて、半導体製造装置や搬送設備などの設備搬入が始まっており、年末から年明けにかけてピークを迎える。札幌支店北海道営業部長の内田哲郎氏は「12月ごろには稼働率が100%近い水準に近づく」と語る。現在は46人体制で業務を行っているが、今後は新規採用やグループ内から応援人材を要請することで、年末には60~70人体制に増強する計画。近隣の千歳市には日通の北海道重機建設支店があり、半導体製造装置の搬入・据付などについては、重量物の取り扱いに長けた同支店の専門人材が担う。

工場立ち上げに伴う設備関連の物流需要が一段落した後は、取扱物量が一時的に減るものの、今度は27年に予定される量産化に向けて、サプライヤーからの生産関連部材の取り扱いが徐々に増えていくことになる。

苫小牧危険物倉庫、今後も拡張余地

他方、苫小牧港の港頭地区に整備される危険物倉庫も建設が本格的に始まった。苫小牧埠頭(本社・北海道苫小牧市、海津尚夫社長)が西港区に建設する危険物倉庫(定温倉庫、多温度帯倉庫各1棟、計1908㎡)を日通が借り受けるもので、定温倉庫は来年6月、多温度帯倉庫は同年8月の竣工を予定する。当初は2棟の建設にとどまるが、敷地自体はまだ余裕があるため、量産化後の需要動向に合わせた増築も可能だ。

同じ西港区の勇払ふ頭には、NXグループの内航船社であるNX海運が運航する内航RORO船「ひまわり」シリーズが就航している。現在、東京~北海道航路に3隻が投入されており、このうち「ひまわり8」「同9」の2隻は暴露甲板に危険物を積載することができる。青函トンネルでの危険物の通行が禁止されているため、北海道向けの危険物輸送は事実上、海上輸送に限定されている。内田氏は「危険物の輸送が可能な自社船を運航していることが、ラピダスから輸送業務を受託する最初の接点になった」と打ち明ける。今後、九州など遠方のサプライヤーの輸送では、Truck&Rail&Seaなど複数の輸送モードを組み合わせながら、NXグループの強みを訴求していく。

「北海道バレー構想」を新たな商機に

内田氏は「北海道は農産品など一次産品の比率が高く、作柄や天候によって業績が大きく左右されてしまう。その中で、半導体関連という安定収入が見込める今回の事業への期待は大きい」と語る。その流れをさらに加速させると考えられているのが「北海道バレー構想」だ。この構想は石狩~札幌~千歳~苫小牧につながる道央エリアの縦のラインを半導体に代表される先端技術の集積地にしていくもので、すでに次世代データセンターや再生エネルギー関連の拠点構想が浮上しているという。

札幌支店北海道営業部部長で北海道半導体事業所を担当する佐藤直樹氏は「『NX―TECH Hokkaido』は恵庭エリアでは唯一の大型物流施設であり、北海道バレー構想による高付加価値の貨物を取り込むことが可能だ」と強調する。内田氏も「半導体や風力発電などの再生エネルギー、バイオマスなどに関連する物流を取り込み、農産品に次ぐもうひとつの柱をつくって業績が大振れしない体制を築きたい」と展望する。
(2024年10月31日号)


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