食品の供給維持へ、物流分野は「協力領域」=食品スーパー/首都圏SM物流研究会
首都圏にスーパーマーケットを展開する4社(サミット、マルエツ、ヤオコー、ライフコーポレーション)は3月16日、「2024年問題」をはじめとする物流危機を回避し、スーパーマーケットが地域の生活を支える社会インフラとしての責務を継続して果たしていくため、「首都圏SM物流研究会」を発足した。物流分野を「競争領域」でなく「協力領域」と捉え、“着荷主”が連携してサプライチェーンの商慣習見直しに挑戦する一連の取り組みは、製・配・販連携協議会の2023年度サプライチェーンイノベーション優秀賞を受賞した。
物流効率化へ4つの実施項目を設定
ドライバーに時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」やECの配送増加などによる物流需給のひっ迫から、食品物流は将来的に商品が運べなくなる可能性があると言われている。食品スーパーマーケットを含む食品産業は、地域の社会インフラとして「生活者へ途切れることのない食品供給」を維持するため、持続可能な物流の構築が必要となっている。
食品物流の維持に共通の危機感を持った日本スーパーマーケット協会(JSA)の首都圏正副会長会社である4社は、昨年8月から「4社物流協議会」を立上げ、物流課題の解決に向けた議論を開始。4社は首都圏に店舗・物流センター網を持ち、それぞれの立地も近接していることから、新たに「首都圏SM物流研究会」を発足し、企業間の壁を越えた物流の効率化に向けた研究をスタートさせた。
食品業界では、メーカーと卸との間で先行してリードタイムの見直しの検討が始まっていた。昨年4月、「フードサプライチェーン・サステナビリティプロジェクト(FSP)」が始動し、SM3団体(日本スーパーマーケット協会、全国スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会)も含めた3層での議論が開始された。
4社が新たに研究会を立ち上げたのは、食品物流の課題への対応を企業レベルで加速する狙いがあり、①加工食品における定番商品の発注時間の見直し②特売品・新商品における発注・納品リードタイムの確保③納品期限の緩和(2分の1ルールの採用)④流通BMSによる業務の効率化――の4つを実施項目に設定。4社ともすでに実施済みの①と④以外の取り組みに関しても各社が社内調整を行い、対応を進めていくこととした。
「成功事例」を業界に発信、浸透を図る
定番商品の発注時間の見直しでは、メーカー~卸間の納品リードタイムを1日から2日に延長するため、小売りからの定番商品の発注時間を午前中に前倒しすることが要望されている。現状、小売りの発注から納品までのリードタイムは1日であることが多いが、メーカーの出荷準備に必要な時間が十分に確保されておらず、夜間作業が発生し、物量の「予測」に基づく車両手配となるため積載効率が悪いことも課題となっている。
4社は発注時間の前倒しをすでに実施済みで、前日に発注を締めて、翌日朝(午前5時~8時)までに卸会社が発注データを受信していることが確認できた。ただ、日本加工食品卸協会(日食協)の調査によると、発注時間の午前中への前倒しを行っている小売りはまだ全体の4割にとどまっており、加工食品物流全体を改善するには、残りの6割で発注時間の前倒しの水平展開が必要だという。
新商品における発注・納品リードタイムの確保では、現状では、納品時間を間に合わせるために小売りからの受注を待たずに卸がメーカーに発注するため、予測がずれると過不足が生じ、夜間作業や緊急車両の手配や過剰在庫につながっている。そこで特売品、新商品について「6営業日前の計画発注」をルール化。特売品の追加発注を抑制し、新商品については追加発注を「不可」とすることを打ち出した。
小売り側としては発注~納品のリードタイムは「5日間」あれば十分との認識だったが、FSPの会議でメーカー・卸の意見を聞き「6日間」必要であることが初めてわかった。そこで、ライフコーポレーション、ヤオコーの2社が6営業日前発注への切り替えを実施。ライフコーポレーションでは、定番外の新商品の発注方法を「確定数での発注」に変更し、返品のムダと食品ロスの削減につなげているという。
納品の「2分の1ルール」は4社が採用することで合意。ヤオコーとライフコーポレーションは先行して導入済みだが、当初は店頭での販売期間が短くなるため、賞味期限切れによる廃棄ロスが増えるのではないか――という懸念もあったという。しかし、廃棄ロスは増えず、実際には店舗の混乱も発生しなかった。こうした情報やマスタの変更方法を他2社と包み隠さず共有し、「2分の1ルール」導入のハードルを下げている。
なお、現状では、小売りの納品期限ルールが企業ごとに異なり、「2分の1ルール」と「3分の1ルール」が混在し、メーカーや卸では出荷日調整作業など、商品管理業務の負担増加が発生している。賞味期限180日以上の加工食品に対する「2分の1」ルールへの統一が望まれており、混乱なくスムーズに導入できた「成功事例」を研究会メンバーのみならず、業界に向けて積極的に発信し、浸透を図っていきたい考えだ。
空車の相互活用、生鮮物流の課題解決も
ライフコーポレーション首都圏物流部の渋谷剛部長は、物流危機を踏まえたスーパーマーケットの物流のあり方の変化をこう説明する。「従来は店舗のオペレーションに物流を合わせていた。『2024年問題』への認識をきっかけに、店舗の協力を得ながら、物流に店舗のオペレーションを合わせる取り組みを始めている。将来的に配送を維持していくためには、こうしたシフトチェンジが必要になる」。
スーパーマーケットの物流は、川上の「メーカー~卸の物流センター」と川下である「自社物流センター~店舗」に大別され、前者はいわば「社外物流」、後者は「社内物流」と位置付けられる。従来、最も川下の店舗を起点にリードタイムが設計されていたが、「店舗でのサービスレベルを落とさないためにも、川上の『社外物流』に目を向け、サプライチェーン全体の改革に取り組む必要がある」と強調する。
今後、「首都圏SM物流研究会」では、6月2日に出された政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」、行政の「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を踏まえ、卸やメーカーとの連携を強化するとともに、荷待ち時間の「2時間ルール」への対応やトラックの空車の相互活用、加工食品だけでなく、生鮮物流の分野にも研究範囲を広げる方針。
「首都圏SM物流研究会」が取り組む4つの実施項目は、小売りにとっての直接的メリットが少なく、それだけに、メーカー、卸が「何に困っているか」「なぜ困っているのか」を小売りが理解し、自分事として受け止め、「物流の持続性を確保することが、将来的に店頭でのサービスを維持することにつながる」という認識の共有が求められる。渋谷氏は「物流課題はサプライチェーン全体で解決していくべきだ」と強調する。
(2023年9月28日号)