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【ズームアップ】JR貨物の安全教育施設「刻心塾」

2024.07.23

JR貨物(本社・東京都渋谷区、犬飼新社長)は今年4月、中央研修センター(東京都品川区)内に安全教育施設「刻心塾」を開講した。大型スクリーンに投影される重大事故の映像を見ながら、安全の大切さを再認識するとともに、ディスカッションを通じて自らの行動を見直すことにつなげる新しい研修手法を採り入れた施設だ。

映像とディスカッションで学ぶ

刻心塾は、中央研修センターの2階にあった「事故のパネル展示室」をリニューアルして誕生。室内には5m×2mを超える大型スクリーンを配し、間近に迫力ある映像やCGを体感できる設計になっている。1回に最大20人が研修を受けられる。

刻心塾が目指すのは、すべての行動の基盤となる「安全の価値観」の醸成だ。開講までの準備を担当した安全統括本部安全推進部長の中俣秀康氏は「過去の重大事故の事例を学ぶことで、安全を自分事として捉え、心に刻んでもらいたい。そして自らの行動を見直すきっかけにしてほしい」と話す。

研修は「JR貨物の使命」「事故について考える」「安全最優先で見つめなおす」「安全へのメッセージ」という4つのステップで構成。実際の事故映像やCGなどの映像を見た上で、他の受講生とディスカッションを行いながら、「自分ならどうするか」などを考えていく。事故事例は運転事故や労働災害など類型別にアーカイブ化されており、社員の職種などに応じて自由にアレンジできる。

また、刻心塾の入り口の横にある壁には、機関車や貨車、コンテナなどが実寸大で描かれており、人物と接触した際の危険性を実感できるようになっている。

自らが主体となって考える

刻心塾の特徴のひとつでもあり、研修の際に重要な役割を担うのが、高橋正夫氏と伊藤国夫氏の2人の講師。両氏とも安全や運転などの業務に長年携わった経験があり、JR貨物発足以降に発生した重大事故や数々の安全ルールが策定された経緯にも精通している。その両氏が“語り部”となり、ディスカッションを後押しするとともに、過去からの教訓や学びを受講者に伝えていく。高橋氏は「こちらの考えを押し付けるのでなく、受講者自身が主体的に考えてもらうことを重視している」と、講師として気をつけている点を語る。伊藤氏も「受講者に“気付き”を与えることが大事。そのために、相手によって話し方を変えるなどの工夫もしている」という。

一回の研修時間は約4時間だが、研修を受ける前と後とで、安全に対する研修生自身の心境の変化が感じられるプログラムになっているという。

3年間で全社員が受講へ

4月に開講して約4ヵ月が経過したが、現在、JR貨物本体の社員を中心に約300人が受講した。初めて見るときのインパクトなどを重視しているため、研修前には具体的な研修内容を知らせないように工夫している。ただ、「すでに受講した社員の間からは、これまでの研修とは少し違う」といった評判があがっているようだ。

同社では今後3年間をメドに、JR貨物グループの全社員が受講することを目標にしている。また、業務委託会社や利用運送事業者などの貨物鉄道関係者の受講にも前向きに対応していく。中俣氏は「鉄道事業において、安全はすべての基盤。その安全だけをひたすら考える空間があってもいいというのが刻心塾のコンセプト。社員は長いキャリアの中で何度もここを訪れ、安全に対する思いを深めていく施設にしていきたい」と展望する。
(2024年7月23日号)


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