「物流DX」で〝選ばれる荷主〟に=コカ・コーラ ボトラーズジャパン
コカ・コーラ ボトラーズジャパン(CCBJI、本社・東京都港区、カリン・ドラガン社長)は「物流DX」による物流最適化を推進し、物流事業者から〝選ばれる荷主〟を目指す。「メガDC」と呼ばれる大型自動物流拠点の開設やトラック予約受付システム、配送業務管理アプリの導入などデジタル化に向けた施策を次々と繰り出し、大きな成果を上げている。また、「地産地消」を目指した生産体制の構築や他業種との配送車両の共同活用などの取り組みも展開し、荷主企業の立場から「2024年問題」など物流を巡る社会課題の解決に取り組んでいる。
物流ネットワーク最適化で「モノの流れをシンプルに」
日本におけるコカ・コーラシステムは、原料製造や製品開発を手がける日本コカ・コーラと、製品の製造・販売を担う複数のボトラー社によって構成されている。このうちCCBJIは2018年、ボトラー社であるコカ・コーライーストジャパン、コカ・コーラウエストが統合して発足。もとは17ボトラーに分かれていたエリアをカバーするため、同社が製造する製品は一部地域を除く38都府県という広域に供給されている。物流拠点は現在、エリア内17ヵ所の工場に隣接する倉庫とエリアごとに設けられた20ヵ所以上のハブ倉庫、ラストマイル配送の拠点となる200ヵ所以上のセールスセンターなどが稼働。基本的な物流ルートを見ると、製品はまず、工場隣接倉庫やハブ倉庫で保管され、次にセールスセンターへと運ばれる。セールスセンターではオーダーに合わせてピッキングや仕分けが行われ、小売り店舗や自動販売機まで出荷・配送される。工場からハブ倉庫・セールスセンターへの輸送は約15%が自社車両、そのほかは協力会社が担当。店舗配送についてはほとんどを協力会社が担い、約1000台以上の車両が常時稼働している。
統合にあたり、複雑化していた物流ネットワークをシンプルにすることで、協力会社の負荷軽減や現場の生産性向上につなげるためにも、ボトラー各社で異なる配送網や物流拠点配置の戦略を見直すことに加え、運用システムを統一する必要があった。そのため、統合決定後の16年5月に物流ネットワークの最適化を目指す「新生プロジェクト」が始動。SCM本部ロジスティクス統括部ロジスティクス戦略グループの髙木宏治グループ統括部長は「消費者までのモノの流れをなるべくシンプルにするのがプロジェクトの一番の目的だった」と振り返る。
東西に自動物流拠点「メガDC」開設
物流最適化を進めてきた「同プロジェクト」にとって、中心となる取り組みが「物流DX」の推進による物流業務のデジタル化だ。その方針を具現化したのは、東西に開設した「メガDC」と呼ばれる大型物流センター。21年2月に埼玉工場(埼玉県吉見町)の敷地内に「埼玉メガDC」(延床面積約3万3943㎡)、22年7月に明石工場(兵庫県明石市)内に「明石メガDC」(約3万3056㎡、写真)を稼働した。両拠点とも、東京・埼玉、大阪・兵庫という大消費地向け中核拠点となり、対象エリアのセールスセンターが担ってきた仕分けやピッキングなどの倉庫内業務を両拠点に集約することで、シンプルな物流を構築した。
「メガDC」では自動格納ラックや混載パレタイズロボットなどの自動化機器の採用により、庫内作業の省人化を徹底。出庫時間の短縮など、効率的な倉庫運営を実現した。象徴的な自動化ソリューションと言えるのが、約1500ケースの製品の荷役を一括して行える「RORO(roll-on/roll-off)ステーション」だ。製品を積み付けたパレットが高速搬送台車によって出荷エリアへと運ばれ、床面にローラーが整備されたトラックの荷台に自動的に荷積みされるシステムを採用した。これにより、積み込み時間は、フォークリフトによる作業と比較して約7割短縮できたという。
また、セールスセンターでは保管された製品を出荷のタイミングでピッキング・仕分けをして出荷していたが、「メガDC」では入荷した製品を在庫保管せずにそのままピッキングや仕分けを行い出荷する「クロスドッキング方式」を採用。これにより、エリア内のセールスセンターでは在庫保管業務やピッキング業務の必要がなくなり、大幅な省人化と拠点の集約が可能となった。約70ヵ所の物流拠点を集約したことで、大規模な在庫削減や輸送効率の向上による物流コスト削減を実現した。
車両予約システム導入で荷待ち・荷役時間を半減
さらに、物流拠点での荷待ち時間短縮に向けて、22年からハブ倉庫などの主要物流拠点に車両予約システムを導入している。トラックの到着をアプリケーションによる事前受付にシフトして受付手続きを簡素化したほか、予約に合わせて事前に出荷準備を進めておき、荷役作業を効率化。出荷準備の完了はドライバーにアプリ上で通知する。車両が到着する時間帯を把握できるようになったことで、時間帯によって必要な庫内業務の人員配置を適正化でき、生産性向上につながった。加えて、「メガDC」では予約の受付内容と自動倉庫が連動することで、トラックの到着時刻に合わせて出荷の準備を自動で行うシステムも採用した。
車両予約システムは23年内に全主要拠点での導入を完了しており、荷待ち・荷役時間は導入前と比較して約半分まで短縮された。総削減時間をトラックの運行時間に置き換えると、東京~大阪間を約4000往復する分に相当するという。これにより、政府が荷主向けのガイドラインに定めた荷待ち・荷役時間の「原則2時間以内」を達成。今後の展開について髙木氏は「仕事が早く終わったドライバーが本来の予約時間よりも早い時間にバースが空いていた場合、前倒しで荷物を引き取りに行けるなど、フレキシブルな運用を可能にするシステムへと進化させたい」と話す。
さらに、配送業務管理アプリの導入により配送業務も最適化した。従来、伝票や帳票類の管理・保管はハンディターミナルを用いた紙ベースで行っていたが、23年から自社開発のスマートフォンアプリによる運用に移行し、ペーパーレス化を実現。配送先や製品のデータをアプリ上で管理できるようになったため、データの閲覧や検索にかかる手間が大幅に削減された。また、最適な配送ルートの表示に加え、スマートフォンのGPS機能により、登録された配送先の住所とトラックの現在地を照合することで配送先の間違いによる誤納品の防止につながった。納品実績データは物流拠点や営業部門と共有できるため、届け先の担当者が不在のため配送できなかった場合も、リアルタイムで状況を確認できるようになった。
配送業務管理アプリは、店舗までの配送ルート約1200路線すべてで導入。業務時間では、年間3700時間の削減を達成した。
「地産地消」で売上増と長距離輸送削減を両立
「物流DX」の強化以外にも、物流最適化への施策が進む。製品在庫や長距離輸送の削減に大きな成果を上げているのが「S&OI(Sales&Operation Integration)プロジェクト」。柔軟な製造体制の構築を目的とした同プロジェクトでは、気候やトレンド、販売促進のデータ分析によって導き出した需要予測を活用することで、従来は属人化されていた供給計画の立案をシステム化し、製品の安定供給につなげている。
このプロジェクトにおける重点項目のひとつが「地産地消モデル」の推進だ。在庫切れが発生したエリアに商品を供給する際、これまでは遠方エリアにある工場から長距離輸送するケースが少なくなかった。「地産地消モデル」では、製造エリアを6つに分け、エリアごとに多品種・小ロット生産に対応できる柔軟な製造体制を構築。需要予測データに基づきエリアや季節ごとに生産を最適化することで、エリア内で需給を完結できるようにした。
これにより、エリア間をまたぐ長距離輸送が減少したほか、輸送時に経由する拠点数(タッチ数)も削減。23年の実績では22年と比較して、売上は3%増を達成しつつ、ケースあたりの輸送距離で平均17%、タッチ数で6%、輸送数量で9%の削減を実現した。さらに、物流コストやCO2排出量の削減にも寄与した。一方で、特定のエリアで集中生産したほうが効率的な製品などを遠方へ輸送する際には、船舶輸送を利用するケースもあるが、「なるべくモーダルシフトが必要となるような長距離輸送を発生させないよう、『地産地消』を強化したサプライチェーンを構築したい」(髙木氏)と話す。
空き車両の共同活用で異業種と連携
CCBJIでは物流課題の解決を非競争領域と捉え、同業種・異業種を問わない連携を進めている。今年2月から空き車両の安定した稼働を目指し、ファミリーマートとの店舗配送トラックの共同活用を神奈川県海老名市・厚木市を中心としたエリアで開始した。
CCBJIは最需要期である夏場以外で車両の稼働率にばらつきがあり、一方のファミリーマートでは既存の車両だけでは配送しきれない商品量が不定期に発生していた。この取り組みでは、CCBJIの店舗配送トラックが稼働していない時間帯に、ファミリーマート店舗への常温商品の配送に使用することで、空き車両を有効活用する。取り組みの効果を検証したうえで実施エリアの拡大を検討していく。
CCBJIでは、昨年8月に公表した中期経営計画「Vision 2028」(24~28年度)において、「サプライチェーンの最適化」を重要戦略のひとつに掲げており、一層の最適化戦略を追求していく。髙木氏は今後の取り組みについて「物流最適化に終わりはなく、拠点の統廃合や輸送距離削減は今後も継続していく」としたうえで、「荷物がしっかりパレタイズされていて、倉庫での付帯作業がなく、荷待ち時間も少ないという環境をつくることができれば、多くのドライバーに喜んでもらえる。そうしたことの積み重ねで、運送会社からCCBJIの仕事を受けたいと思われるような〝選ばれる荷主〟になりたい」と、さらなる先を見据える。
(2024年6月13日号)