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日本シグマックス、「24年問題」でサプライチェーンを見直し

2024.04.30

医療用品、スポーツ向けサポート・ケア製品を開発・販売する日本シグマックス(本社・東京都新宿区、鈴木洋輔社長)。同社は今年3月、物流の「2024年問題」対策と事業継続マネジメント(BCM)の観点から大阪市に新たな物流センターを開設した。千葉県柏市に構えた既存の物流センターと併せ東西2拠点体制により安定的な物流の構築に取り組んでいる。また、昨年12月に同業他社との共同配送を開始し、ドライバー不足への対応や環境負荷低減にも注力する。今後も安定的な物流の構築を推進することで、持続可能な医療・ケアに貢献していく。

大阪新拠点で「2024年問題」を克服

日本シグマックスは1973年創業。医療の中でも整形外科分野に特化して事業を展開し、昨年創業50周年を迎えた。現在は医療・整形外科分野に加え、スポーツ時や日常生活時などのコンシューマー向け事業や、働く人の健康支援用品など幅広く展開。ケア・サポート製品の「ザムスト(ZAMST)」はスポーツに取り組む人々を支える世界的なブランドとして名高い。

同社はこれまで千葉県柏市に位置する「柏物流センター(写真)」1拠点から全国に配送を行う物流体制だったが、3月に大阪市住之江区に新たに「大阪物流センター」を開設することで、2拠点体制に移行。新センターは3月18日から稼働を開始し、順調に製品供給を行っている。日本シグマックスのロジスティクス業務はSBS東芝ロジスティクス(本社・東京都新宿区、金澤寧社長)が担っており、柏物流センターはSBS東芝ロジの北関東支店内、大阪物流センターは同社の大阪住之江物流センター内にある。大阪物流センターの立ち上げから現在まで柏物流センターのベテラン担当者が指導することで従来通りの品質を保った物流業務を行っている。

常務取締役の宮崎英二氏は今回の物流体制刷新について「近年頻発する大規模自然災害により物流が寸断するような事態に備え、安定した製品供給を行うために新拠点を設けた。それに加えて『2024年問題』対策という考えもある。トラックの長距離輸送はますます困難になると予想されるため、大阪の新拠点を活用して西日本をカバーする体制を築いた」と意図を語る。東西の2拠点はいずれも同社製品をフルラインナップで保管していることから、非常時や緊急時に一方の物流センターの機能が停滞した場合でも製品供給を行えるなど事業継続マネジメント(BCM)の観点から重要な意義を持っている。

大阪物流センター開設により、西日本地区への商品供給に要する輸送距離が短縮され、九州や日本海側の一部地域向けの配送でリードタイムを1日短縮できた。同社は今年2月に、働き方改革推進の観点から業務プロセスの見直しを行い、受注日の当日出荷を翌日出荷に変更。これにより、余裕を持ったトラックの手配を可能とするなど労働環境の改善に寄与した。ただ、九州や中四国エリアの一部地域への配送については、受注日の3日後(D3)となる場合が生じていたが、大阪に新拠点を新設したことでD3配送だった地域の多くがD2配送となり、リードタイムを短縮できた。加えて、西日本エリアへの配送は大阪物流センターから行うことで、トラックの使用燃料を削減でき、配送業務でのドライバーの運転時間の短縮化にもつなげている。

東西2拠点体制による今後の課題は?

一方で2拠点体制には課題もある。「柏物流センター」から「大阪物流センター」への拠点間輸送(横持ち輸送)のコストが生じていることだ。同社製品はすべて、京浜港で陸揚げされ、柏物流センターに納入される。大阪物流センター向けの製品は柏物流センターで荷受けした後に、トラック輸送で横持ちされる。拠点間輸送は定期的に行うため、2拠点の運営に関わる輸送関連コストのうちの一定の割合を占めている。医療用品の流通形態はメーカーが製品を一次代理店・二次代理店へ納入し、代理店が医療機関などに販売する形態となっているが、日本シグマックスは物流改善の一環として、取引先や納品先の集約を行い、配送車両の効率化を図ってきた。一方、大阪物流センターの保管・供給機能を支えるため関東から関西への拠点間輸送を定常的に実施する必要があるが、今後ドライバーの労働時間削減が本格的に進むことで長距離輸送の困難度が増すことも想定される。その観点から同社は、持続可能な物流を維持するために、トラックの拠点間輸送についても改善の余地がないかを探っている。

これについて宮崎氏は「海外工場でつくった製品は阪神港で陸揚げし、大阪物流センターに直接搬入することができれば東西間の横持ちは不要になる。そのためには工場での生産・出荷段階から2拠点に向けて出荷する体制をつくる必要がある。これは言うは易く行うは難しで、すぐにできる事柄ではない」と語る。持続可能な物流を維持するBCMの観点から、海外で生産した製品のハブ機能を大阪物流センターが担えるようにすることも今後の課題だと言えそうだ。宮崎氏は「踏み込んで言うならば、国内での流通を織り込んだ国際物流を考えていくべきだ。例えば、物流センターを保管型センター(DC)ではなく通過型センター(TC)として活用し、海外工場からの製品を仕分けして代理店へ直接納品するようにすれば、究極的には在庫を持たないサプライチェーンを実現できるとも考えている。もちろん簡単な話ではないことは承知している」と語る。

同業他社との共同物流をスタート

日本シグマックスは製品の安定的供給の観点から共同物流も実施している。昨年12月、医療用品業界で同業であり、競合先でもあるアルケア(本社・東京都墨田区、伊藤克己社長)との共同配送を開始した。この取り組みは医療用品の代理店数社など納品先が共通していることに着目し、整形外科関連の製品の流通について柏物流センターをハブ拠点として活用するもの。アルケアの製品は都内にある同社の物流センターから日本シグマックスの柏物流センターへ集約し、共通の納品先へ配送するスキームだ。共同配送実施前と比べ、トラック台数の削減とCO2排出量の抑制が可能となった。

業務物流課マネジャーの草野浩二氏は「この共同配送も『2024年問題』や環境課題への対応の一環として実施した。両社がそれぞれの取引先に配送していたトラックを一本化し、車両台数の削減や積載率の向上、CO2排出量の削減を図り、持続可能な物流に貢献していく」と説明。加えてBCMの観点からも「同業他社との共同配送を行うルートができたことで今後の発展形も考えられる。輸配送の複線化・多重化により非常時での物流網維持にも寄与できると考えている」と意義を語る。今後は取引先や実施エリアの拡大も検討していく考え。「2024年問題」により物流リソースが今後減少する可能性を踏まえ、共同物流のさらなる展開も視野に入れながら、自社の物流改善に取り組んでいく。

医療で培った技術で働く人のサポートも

日本シグマックスはウェルネス事業も展開している。サポーター専業ブランド「メディエイド」は、日常生活を支えるデイリーケア、労働者の身体をサポートするワーカーズケアの2つの分野で、製品をラインナップ。そのなかのアシストスーツ「メディエイド アシストギア 腰ユニット」は整形外科分野で培った技術を活用し、様々な現場で働く人の姿勢をサポートする機能がある。伸縮素材による腰ベルトや太ももベルトで腰まわりの負担を軽減し、姿勢を安定させる機能があり、荷物を持ち上げる動作や、ピッキング作業など立ち姿で行う作業において身体をサポートできる。モーターなど外部動力装置がないため軽量で通気性も良く、装着しても快適に作業を行える。働き方改革や人手不足に対応するためにも、働く人の健康意識の向上は重要度を増していく中、同社は作業者を支援する製品を提供することで、持続可能な物流の実現に寄与していく。
(2024年4月30日)


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