貨物鉄道のCO2排出量を精緻化=国交省
国土交通省は貨物鉄道輸送に伴うCO2排出量のデータ精緻化を図るため、今月から調査を開始する。これまで貨物鉄道によるCO2排出原単位(1tの貨物を1㎞輸送した時のCO2排出量)はトラック輸送よりも小さく、環境優良性に優れていることはよく知られていたが、概括的な把握にとどまっていた。今回、モーダルシフトなどに取り組む荷主企業の努力を見える化するため、輸送量や距離を踏まえたCO2排出量データの精緻化に取り組む。これにより、ESG経営に取り組む荷主のモチベーションに訴求する体制づくりを進める。
CO2排出削減量を即時把握できるツール開発へ
2021年度調査によると、貨物鉄道輸送の国内でのCO2排出原単位は営業用トラックの約11分の1となっている。営業用トラックの「216」に対し、貨物鉄道は「20」で約11分の1と小さく、船舶の「43」に対しても半分以下となり、環境負荷低減の観点から優れた輸送モードであることがわかる。しかし、現状では概括的な把握にとどまっており、貨物の重量や輸送距離など、個別の輸送案件に基づく定量的データの把握はできていなかった。このため、荷主は個々の輸送案件について、モーダルシフト以前・以後の詳細な排出量を比較することができないほか、鉄道モーダルシフトを検討する荷主にとっても、削減量の概算値を即時に把握することが難しいことが課題となっていた。
詳細な調査項目は今後検討していくが、貨物量や輸送距離など輸送ごとに異なる条件のもとでも数値化を可能にすることを目指す。調査結果は今年度中に取りまとめる。その後は調査結果を精査・分析することで、貨物量や輸送距離(発地・着地情報)などの数値を入力すればCO2排出削減量の概算値を即時に算出できるツールづくりも検討していく。これにより荷主は、排出量削減のレポートを作成しやすくなり、自社で発行するCSRレポートなどにデータを記載することが可能になる。また、鉄道モーダルシフトに取り組む企業の努力を見える化することで、さらなるモーダルシフトの推進につなげる。
将来的にはJクレジットとの結びつけも視野に
国交省は政府目標である30年度における運輸部門のCO2排出量35%削減など脱炭素化推進に向け、鉄道・船舶へのモーダルシフト促進を重要課題に据えている。併せてトラックドライバーの労働時間の規制強化に伴う「2024年問題」への対応を図るため、1編成で大量輸送を可能とする貨物鉄道の利用拡大を重要施策とする。昨年国交省が取りまとめた「今後の鉄道物流の在り方に関する検討会」の中間取りまとめでは、社会・荷主への貨物鉄道に対する意識改革が重要だと指摘した上で、排出削減量の概算値の算出・提供など、荷主の努力を見える化する取り組みの必要性を明記していた。さらに将来的には、Jクレジット制度への申請やESG金融への活用など、貨物鉄道の利用をさらに促す制度づくりも見据えていく。 (2023年9月12日号)