メニュー

【ズームアップ】貨物鉄道「維持妥当」も、課題多岐に…

2023.08.10

国土交通省、北海道庁、JR貨物、JR北海道の4者で構成する「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する情報連絡会」は7月26日、これまでの議論を踏まえた形で論点整理を行い、「少なくとも札幌延伸開業時においては、海線(函館線の函館~長万部間)の維持により、貨物鉄道機能を確保する方向性が妥当ではないかとの点に異論はなかった」として、海線がJR北海道から経営分離された以降も、何らかの方法で貨物鉄道機能を維持すべきとの方向性を示した。

その一方、「(海線を維持する場合でも)解決する課題は多岐にわたり、かつ、関係者間の複雑な利害調整を要する」「段階を踏みながら、ハイレベルな意思決定が不可欠」とも明記。年内にも有識者をメンバーに入れた検討会議を立ち上げ、2025年度中に最終的な結論を得ることを確認した。

機能維持、全量代替の両面から論点整理

4者協議による情報連絡会は、2030年度末に予定される北海道新幹線の札幌延伸に伴って生じる鉄道貨物輸送に係る諸課題などについて関係者間で情報を共有するため、国交省鉄道局と北海道庁を共同事務局とし、北海道運輸局、JR貨物、JR北海道の実務者レベルを構成員として設置。昨年11月に初会合を開き、今年1月、4月、7月と計4回の会合で課題を抽出して論点整理を行った。

まず、札幌延伸に伴ってJR北海道から経営分離される函館線の函館~長万部間の通称「海線」は、年間約400万tの輸送量があり、北海道発のたまねぎの6割、馬鈴薯の4割、北海道着の宅配便の3割の輸送を担うなど、北海道経済および日本経済全体にとっても重要な役割を果たしているとして、「我が国の基幹的鉄道ネットワークの一部を構成する路線」との認識を共有。その前提を踏まえ、現在の貨物鉄道機能を維持する場合と、全量を船舶等に転換する場合の両面から課題などを整理した。

現在の貨物鉄道機能を維持する場合は、輸送形態としては現状維持であり、青函共用走行区間における新幹線の高速走行の実現に伴い、貨物列車のダイヤや便数に変更があったとしても一定量の輸送は引き続き可能であることがメリットだとした一方、多くの解決すべき課題を挙げた。

このうち最大のネックとなりそうなのが、年間数十億円規模におよぶ線路等の維持管理費用を誰が負担するか。受益者負担の原則に照らせば、国、北海道、JR貨物に加えて荷主にも応分の負担が求められそうだが、議論は難航が避けられないだろう。

また、施設の維持管理に必要となる数百人規模の要員確保も困難が予想される。現在、海線の維持管理を行っているJR北海道も要員需給が厳しく、経営分離後に同社からの出向で要員を確保することは難しい。他方、要員を自前で確保する場合は、養成にも相当な期間が必要なため、早急に動き出す必要がある。

船舶などの全量代替は事実上、不可能

一方、貨物鉄道が担っていた輸送量を船舶などが全量代替する案は、「解決困難な課題が多くあることを確認した」として、事実上これを退けた。
船舶が全量代替するためには、新たな船舶建造や航路開設が必要になるほか、北海道発着の貨物は季節変動が大きく、これまでは変動分を貨物鉄道が吸収している実態があった。今後、仮に船舶輸送の供給量をピーク時に合わせたとしても、その他の季節で供給過剰となり、航路維持は難しくなる。また、「2024年問題」が指摘される中で、発着地と港湾をつなぐトラック輸送力の安定的な確保も難しいとされる。とくに道北・オホーツク地域から太平洋側の港湾までは輸送距離が長く、道内の輸送をトラックだけに依存することは「時代の流れに逆行している」との関係者からの指摘も多い。〝逆行〟という点では、貨物鉄道よりもCO2排出量が多い船舶とトラックに委ねることについても、ゼロカーボンを目指す中で適切ではないとの異論が出ている。

見逃せない「国防上」という新たな視点

論点整理では、「国防上および防災上の観点を考慮すると、鉄道を廃止し、船舶などの他の輸送手段により全量代替するという方針については、課題が多くある」とも指摘し、貨物鉄道機能の維持の必要性に言及した。また、海線が廃止されれば、本州と北海道の在来線による鉄道ネットワークが事実上寸断され、貨物輸送の手段が船舶と航空に限定されることになるため、災害や有事への対応の選択肢が狭まる可能性があるとした。

これまで貨物鉄道機能を維持するかどうかの議論は、経済合理性を巡ったものが中心だったが、今回、新たに「国防」という観点での言及があったことは注目に値する。ロシアリスクの顕在化など不安定な国際情勢が続く中で、国防や防災面からみた貨物鉄道機能の必要性という視点は一定の重みを持ちそうだ。

議論はスタート地点に立ったばかり

今回の論点整理で、貨物鉄道機能を維持すべきとの大きな方向性は示されたものの、乗り越えるべき課題は山積しており、関係者からは「やっとスタート地点に立ったに過ぎない」との声が聞こえる。

北海道の鈴木直道知事は7月28日に行われた会見で、「貨物鉄道機能を確保する方向性が妥当ではないかという点については、4者に異論がなかった」と報告。今後の路線維持に向けた費用負担については、「解決しなければいけない様々な課題――費用負担や線路の保有主体はどうするのかといった課題については、これまでの実務者レベルの議論に続き、有識者などの意見も伺っていく」と述べ、年内にも発足する検討会議での議論を見守っていく考えを示した。
(2023年8月10日号)


関連記事一覧