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SBSHD、1万台導入へ自社1000台をEV化

2022.12.20

2021年10月、フォロフライへの出資と同社1tEVトラックの1万台導入を発表した、SBSホールディングス(本社・東京都新宿区、鎌田正彦社長)。同月、グループのSBS即配サポートに第1号車が納車され、今年8月には、この車両が日本における営業用ナンバーの取得に至った。SBSグループでは第1号車の導入以降、フォロフライに対して実用化に向けた仕様変更のフィードバックを実施。来年5月にはこうした要望を反映したプロトタイプが完成する予定で、SBSグループと協力会社への導入が本格的にスタートする見込みにある。

EC宅配や生協などラストマイル分野でEV活用

EV導入の経緯について、森井達哉・物流品質管理部長は「業界を先導する企業としてESG経営を進める中で、脱・炭素への取り組みもリードすべきと考え、走行時にCO2を排出しない車両であることから採用を決めた」と説明する。その中で、まずは運行距離の短いラストマイル分野を中心とした実用化を見据えて、EC宅配と生協業務で用いる1tバンや2tトラックのEV化を検討していたところ、フォロフライから1tEVの提案を受け、昨年5月には同社と業務資本提携を締結した。

国産の2tEVトラックも採用を考えたものの、ワイドキャブタイプのみだったことから、首都圏の狭隘地を集配エリアとする同社の生協業務にはマッチせず、航続距離も空調使用時にはカタログ値100㎞の4割程に留まるなど「これでは業務に使えないと判断した」(同)。一方のフォロフライEVはカタログ値300㎞に対し、平均200~220㎞の連続航送を達成。ファブレス生産方式により車両単価をディーゼル車とほぼ同程度まで抑えたことも決め手となった。

低価格化を実現する反面、同社EVには日本で運行するには不十分な装備もあり、例えば安全性能では、シフトレバーの「P」レンジやエアバック、後方支援機能が未搭載で、車内空調も暖房がなかった。現在製作中のプロトタイプは、こうした機能を追加装備した仕様となり、来年5月には完成車が納品される見通し。両社では隔週ペースで打ち合わせを行い、その進捗は実導入先となるSBSグループ各社にもフィードバックしているという。

プロトタイプで付与される一連の装備はSBSグループに納車されるEV以外にももちろん反映される。「当社は“監修”に近い立場。運送現場の要望を詰め込んだ車両を一緒に開発しており、他の物流会社にもぜひ使ってほしい」と森井氏は話す。一方で、現場におけるEVの運用についてはディーゼル車とほぼ変わらないという。EVはエンジンがモーター直結であることから登坂性能はディーゼル車にも勝っており、充電も夜間に済ませられるため、配車にも特別な配慮は不要。さらに、追加的な要素として、交流直流変換機を用意すればEVバッテリーを有事における事務所電力を賄う蓄電池代わりにもなるため、BCP対策にも役に立つという。

3年内EV450体制へ軽EVや2tEVも開発推進

“1万台”を掲げる導入目標の内訳は、SBSグループが1000台、同社の協力会社や関係会社が9000台の試算。SBSグループでは協力会社を含めて約3万台の車両を稼動しており、うち自社車両は5500台、さらに自社営業用車両は4500台ほど。この10%にあたる450台を、今後3年以内にEVへ切り替える計画としている。

具体的には、プロトタイプが完成する来年内にグループEV台数を30台とする予定で、既にグループ各社に導入する台数も内定済み。とくに、リコーグループ時代から積極的に環境負荷低減に取り組んできたSBSリコーロジスティクスでは、各社に先行して来年10台を導入する計画にあるという。翌24年はグループEV台数を100台体制へ増車。その際には1tEVのみならず、軽自動車や1・5t車のEVも導入すべく、フォロフライへ開発を依頼しているという。

さらに、25年にはEV300台体制とし、同年には生協宅配で利用する2tEVトラックも納車される見通し。2tEVは来年から24年6月にかけてテスト運行し、25年の量産体制を目指す。生協宅配車両はSBSグループ内だけでも1300台超を運行するが、生協市場全体を見ると全国で約2・8万台が稼動しており、こうした車両にフォロフライEVへの切り替えを促すことで、“1万台”の目標達成を目指す。

生協宅配については1運行当たりの航続距離が短いことから、その分バッテリーを小さくして車両単価を下げる提案もしていく方針。EVの原価で最も高いのはバッテリーであり、その数を業務内容や運行形態に合わせて増減すれば、様々な用途に最適な車が開発できるという。自社導入車両を増やしながら、フォロフライとの連携による新型車両の開発も進めていく。

ただ、SBSグループにとってフォロフライはあくまで“パートナー”としての位置づけにあり、ほかに優位性を持つ車種が登場すれば当然導入を前向きに検討する。並行して燃料電池車(FCV)や次世代燃料などにも注目し「世の中の情勢に遅れないよう、様々な情報を収集していく」と佐川弘樹・CSR推進部長も話す。現在、各メーカーともEVは小型車の展開が中心だが、SBSグループの輸送業務は中長距離がメインであり、「物流業界全体を見ても、本当にCO2排出量を削減するには中長距離を走る中型以上のトラックが変わらなくては、インパクトは少ない」として中・大型EVトラックの開発にはとくに期待を寄せる。

運輸部門のCO2排出削減へ「国として方針を明示すべき」

同社がEV普及への課題のひとつと見るのが、充電スタンドだ。EV車は普通充電で約10時間、急速充電で45分~1時間必要だが、急速充電は電池への負担が大きく、基本的には普通充電となる。そのため、ガソリンスタンドのような市中のスタンドは利用が難しく、基本的には自社敷地内に充電設備を設けることになる。こうした充電スタンドもデマンドコントロール機能を付与すると1台30万円超に上るなど、コスト負担は少なくない。

「増加するコストを運賃に転嫁し、その費用に見合う車両を調達する――という実務レベルにまで落とし込めるかが今後の課題」と森井氏は指摘するが、実際には、荷主企業からの注目こそ高まってはいるものの、各社とも輸送分野における環境対応の“PR効果”を見込むに留まり、一部費用負担をしてでもEVを増車し、CO2排出量削減効果を増大してほしい――などの要請や、入札条件への設定といった動きはまだない。

そうなると、「実用車として普及するには、やはりコストが下がることが重要」ではあるが、「実現に向けてネックになっているのは、国が自動車のエネルギー指針を決めかねていること。国産メーカー各社も方向性を定められず大きく動けない。本気で自動車からのCO2排出を減らすつもりならば、国としての充電スタンドなどのインフラの整備への支援も必要となる。そうした方針が見えないことには、我々物流会社としても長期的な導入計画やCO2排出削減計画を策定することは難しい」(同)と訴える。
(2022年12月20日号)


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