トラック「目安箱」、時限で廃止が濃厚
トラック事業者から悪質荷主の情報を収集するため、国土交通省がホームページに設置した「トラック目安箱」――。荷主対策の強化や荷主の違反のけん制に一役買っているこの仕組みが、2024年3月末で廃止される可能性が濃厚になってきた。改正貨物自動車運送事業法では「荷主対策の深度化」は24年3月末の時限とされ、同規定に沿えば「目安箱」も〝消滅〟するからだ。時間外労働上限規制の適用と同時に、事業者にとっての頼みの綱がなくなることで荷主対策が弱体化し、ドライバーの長時間労働改善にブレーキがかかる懸念もある。
荷主の〝行動変容〟に効果も規定では廃止
「目安箱」は改正事業法が定める「荷主対策の深度化」の一環として、トラック事業者から悪質荷主の情報を収集するために20年7月に設けた制度。「目安箱」に寄せられた情報は荷主対策に活用され、実際に9月末現在で荷主に対して96件の「働きかけ」につながっている。国交省の「働きかけ」により改善の約束をしたにもかかわらず、実行しなかった荷主への初の「要請」がなされたことも、この「目安箱」が効果を発揮したといえる。
国交省は当該荷主を所管する経済産業省とも情報共有を図った上で「要請」を発出し、これを受け、当該荷主はただちに改善に取り組むと意思表明し、いわば荷主の“行動変容”が実現した。「目安箱」への情報提供を通じて荷主のモニタリングが行われた格好で、この成果について、トラック業界からは「国が動くことで、荷主が確実に改善に取り組むようになる実例だ」と歓迎の声が上がっていた。
規制開始と同時に荷主対策の手綱緩める?
しかし、この「目安箱」の存続をめぐり暗雲が立ち込めている。改正事業法では「荷主対策の深度化」は24年3月末の時限と定められており、その規定が法令としては廃止されるため、同規定にもとづく「目安箱」も廃止されることになる。24年4月の時間外労働規制の適用と同時に、荷主の違反原因行為に関する情報収集の窓口である「目安箱」がなくなれば、ドライバー時短への取り組みが先細りすることも懸念される。
「目安箱」は事業者が匿名で情報提供できる方式で、荷主からの報復を恐れずに荷主に起因する違反原因行為を国交省に報告し、実態を把握したうえで国交省が改善に向けた働きかけや要請を行うのに役立ってきた。その意味で、改正事業法の時限措置とともに「目安箱」の制度も廃止されることは、事業者にとって頼みの綱が失われる一方、国交省が荷主対策の手綱を緩めたとの反発を招きかねない。
厚労省、公取委は対策を加速、新制度も
他省庁の動きはどうかというと、「2024年問題」への対応に向けた荷主対策が加速化している。厚生労働省はトラック業界からの要望に応え、労働基準監督署が荷主に対し、ドライバー時短への配慮を要請する制度を新設。要請の対象となる荷主は、厚労省HPや事業者への立ち入り調査時に収集した情報をもとに対象となる荷主を選定するが、その情報は国交省に提供され、改正事業法による荷主対策で活用される。
公正取引委員会は5月に独禁法上の問題につながる荷主641者に対し、注意喚起文書を送付。自主点検を要請の要請や、荷主の優越的地位の濫用を防ぐため「優越Gメン」制度を創設するなど法執行を強化する体制を整えた。さらに、コスト転嫁を取引価格に反映しない取引は下請法の「買いたたき」に該当すると明確化し、再発防止が不十分な荷主・元請けには取締役会議を経た上での改善報告書の提出を求める制度を開始した。
中小企業庁も取引調査員(下請Gメン)を21年度の120人から248人に倍増し、下請け中小企業から問題のある商慣習や業界・個社の問題事例、価格交渉の実態などで聴き取り調査を行う体制を強化した。下請けGメンのヒアリング情報は荷主・元請けなど発注者に対する改善に向けた働きかけなどに活用している。これらに対し国交省は法規定により荷主対策の有力なツールをなくし、次の打ち手の模索が求められそうだ。
(2022年11月8日号)