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「標準的な運賃」の見直し、年内に方向性=国交省

2023.09.05

国土交通省は8月30日、「標準的な運賃・標準運送約款の見直しに向けた検討会」の初会合を開催した。6月2日に公表された政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」の中で、「標準的な運賃制度の拡充・徹底」が打ち出されたことを受けて開催するもので、現下のコスト上昇を反映した運賃表(タリフ)の見直しに加え、荷待ち・荷役に係る費用や下請けに発注する際の手数料の明確化を図ることなどが目的。初会合を含め年内に計3回の会合を開き、12月中に見直しの方向性を打ち出す。その後、運輸審議会への諮問・答申などの手続きを経て、遅くとも年度内に新たな標準的な運賃、標準運送約款を告示する。

政策パッケージでの方針を受け、検討会を発足

検討会には学識経験者や全日本トラック協会、荷主団体、労働組合、関係省庁が委員・オブザーバーとして参加。座長は野尻俊明・流通経済大学名誉教授が務める。
冒頭、国交省を代表して長井総和・大臣官房審議官(物流政策、自動車局担当)が挨拶し、「政府の物流関係閣僚会議が取りまとめた政策パッケージには、『標準的な運賃については、荷主企業等への周知・徹底を強化するとともに、荷待ち・荷役に係る費用、燃料高騰分、下請けに発注する際の手数料等も含めて、荷主企業等に適正に転嫁できるよう、今年中に標準運送約款や標準的な運賃について所要の見直しを図る』ことが盛り込まれた。こうした方針を受けて検討会を開催するもので、制度がより実効性のあるものになるように活発な議論をお願いしたい」と述べた。

また、全ト協の坂本克己会長も姿を見せ「〝売り手よし、買い手よし、世間よし〟を実現していきたい。ドライバーや真面目な運送事業者が売り手であり、買い手は荷主、そして〝世間よし〟として国民の暮らしが良くならなければいけない。それを実現していくための見直しをお願いしたい」と議論への期待を表明した。

検討会を計3回開催し、12月に提言とりまとめ

初会合では、トラック運送事業を取り巻く現状などを説明した上で、事務局である国交省が見直しに向けた論点を提示。標準的な運賃については、▽コスト上昇を踏まえ、現行の標準的な運賃の運賃表(タリフ)の見直し、▽荷待ち・荷役など輸送以外のサービスの対価についての明確な指標づくり、▽下請けへの発注手数料の明確な指標づくり、▽積載率の改善に向け個建て運賃の導入について――などが示された。

また、標準約款の見直しに向けた論点では、荷待ち・荷役など輸送以外のサービスを約款上で明確化することに加え、書面化・電子化などについて議論していく。

こうした論点に対し、出席者からは「燃料サーチャージをしっかり徴収できるようにするべき」「個建て運賃以外にも時間制運賃なども考えられるのでは」といった意見が出された。

検討会では10月に開催される次回会合で、事務局が見直しに向けた素案を提示する予定。国交省自動車局では現在、全ト協と共同でトラック運送に係る原価調査を進めており、調査結果を素案に反映していく。さらに12月に予定する3回目の会合で、提言をとりまとめる。標準的な運賃の運賃表の見直しは、運輸審議会への諮問・答申が必要になるため、その後、所要の手続きを進め、遅くとも年度内には新たな標準的な運賃・標準約款を告示する。

タリフ改定で、実勢運賃のかい離が進む?

2020年4月に標準的な運賃制度がスタートして3年が経過。その間、人件費を含めた輸送原価は上昇しており、その分を新たな運賃表に反映することになる。

一方、標準的な運賃の届出率は7月末現在で、トラック運送事業者の約57%にとどまるなど「道半ば」の状況であり、実勢運賃も標準的な運賃のレベルを大きく下回っている。今後、標準的な運賃が改定されれば、実勢運賃とのかい離がさらに進むことも考えられるが、国交省は「現状では、運賃を収受できている部分と、思うように収受できていないところがあり、文字通り〝道半ば〟の状況。今後も引き続きコスト転嫁を図って運賃収受率を高めていく必要がある。また、それとは別に、コスト上昇などを踏まえた標準的な運賃の運賃表の見直しも必要」(小熊弘明貨物課長)との考えを示した。

なお、同検討会の構成メンバーは次の通り。
〈委員〉▽野尻俊明・流通経済大学名誉教授(座長)▽矢野裕児・流通経済大学流通情報学部教授▽首藤若菜・立教大学経済学部教授▽若林亜理砂・駒澤大学法科大学院教授▽小熊弘明・国交省自動車局貨物課長▽平澤祟裕・国交省総合政策局物流政策課長▽中野剛志・経産省商務・サービスグループ物流企画室長▽藏谷恵大・農水省大臣官房新事業・食品産業部食品流通課長

〈オブザーバー〉▽馬渡雅敏・全ト協副会長▽若林陽介・全ト協理事長▽堀内保潔・経団連産業政策本部長▽宮澤伸・日本商工会議所地域振興部長▽藤原敏彦・全国農業協同組合連合会経営企画部次長▽成田幸隆・運輸労連中央執行委員長▽園田龍一・交通労連中央執行委員長▽澁谷秀行・厚労省労働基準局労働条件政策課長▽鮫島大幸・中小企業庁事業環境部取引課長▽天田弘人・公正取引委員会事務総局経済取引局調整課長
(2023年9月5日号)


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