【ズームアップ】総合商社、食品流通のDXに本腰
総合商社が食品流通のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速している。川上・川中・川下まで食品流通のサプライチェーンの各領域で幅広い取引先とネットワークを有し、グループで中間流通や小売業のビジネスも手掛ける総合商社。その「商流」と「物流」の知見を活かし、物流の効率化や食品廃棄ロスの削減などサプライチェーンの課題解決に貢献する。
需要予測システムで食品サプライチェーンを最適化
三菱商事(本社・東京都千代田区、垣内威彦社長)は2019年12月に、DXによる産業バリューチェーンの変革と新たな価値創出を目的に、日本電信電話(NTT)との業務提携に合意した。まずは、食品流通分野のDXを推進するため、三菱商事子会社のMCデジタルとNTTが連携し、AIを活用した需要予測システムを開発する。現在は、AIの予測精度を高めるため、効果検証を進めている段階だ。
同システムでは、グループ会社だけではなく、取引先からも幅広くデータを収集。店舗の販売データや倉庫からの出荷量、調達にかかる時間など多種多様な情報をAIに学習させることで、販売量の差が発生した場合でも、適切な在庫量を推定できる。
商流の川上から川下まで三菱商事がデータを集約・分析し、需要予測データをグループ各社に共有することで、サプライチェーン全体での在庫管理を実現する。これにより、メーカーから小売まで食品流通に関わる企業が同じシステムで適切な生産量や在庫量の予測が可能となるほか、上流での在庫量などを見越して、スーパーやコンビニは受発注を自動化できる。今後は、複数のグループ会社でシステムを本格稼働させる計画で、将来的にはグループ外にも販売する。
需要予測と発注最適化ソリューションを導入
伊藤忠商事(本社・東京都港区、鈴木善久社長兼COO)でもAIを活用した需要予測と発注最適化ソリューションを導入するなど食品サプライチェーンのDXを本格的に開始している。同社は18年から、DX・データ活用事例の創出とそのための基盤・体制構築に着手し、食品サプライチェーンのDXによる最適化を重要施策と位置づけている。19年からは、データ活用企業のブレインパッドと連携し、グループの日本アクセスとの間で、一部の物流拠点における小売店の販売データ等を活用した需要予測と発注自動化の実証実験を実施。その結果、一定の在庫削減効果と発注業務の効率化が確認されたため、対象となる物流拠点を全国規模に広げた。まずは、一部顧客向けの飲料や酒、菓子など常温商品1000品から開始し、順次対象を拡大する。
今後は、対象顧客とカテゴリーをさらに広げ、商品・原材料の調達から小売店舗向けの物流に至る食品サプライチェーン全体の最適化を視野に入れて検討を進めていく。将来的には、食品卸向けのみならず、取引先メーカーの工場稼働・物流倉庫の効率化、小売におけるフードロス・機会ロス削減に寄与するサービスの提供を目指す。
ブロックチェーンとIoT技術を活用
三井物産(本社・東京都千代田区、安永竜夫社長)はNTTと共同で、「リアルタイムデータを活用したフードロス削減」をテーマに、ブロックチェーン技術とIoT技術を活用したサプライチェーンDXを推進している。この中で、三井物産の小売・外食事業者向け食品・日用品雑貨の中間流通機能を担う事業会社4社を総合的に管理する三井物産流通ホールディングス(MRH)とNTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、昨秋から実証実験を開始。ブロックチェーンの基本ソフトウェア「Ethereum」をベースとしたブロックチェーン技術にNTT研究所が開発した「トークン追跡効率化技術」を適用し、RFIDなどのIoTの情報と組み合わせた情報プラットフォーム「サプライチェーン情報基盤」を構築する。また、「サプライチェーン情報基盤」とNTT Comの企業間取り引きデータプラットフォームを活用した複数企業間の請求データをデジタル化・一覧可能な「コネクティッドバリューチェーンを実現する基盤」との連携を図る。
(2021年2月18日号)