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【レポート】危険物倉庫の増設が活発化

2019.05.28

危険物倉庫が不足している。とくに主要港エリアでは危険物倉庫のスペースが絶対的に足りず、「この2、3ヵ月で5000ドラム分の荷物を断っている」(首都圏の危険物倉庫)ケースも。荷主のコンプライアンス意識の高まり、多品種小ロット化による保管効率の悪化、メーカーの在庫増や工場内の保管スペースの狭隘化、トラックドライバー不足による在庫の分散化――など複数の要因が重なり、保管需要を押し上げている。旺盛な需要を背景に、全国的に危険物倉庫の新増設が活発化しており、建設地は主要港エリアから地方港、内陸部へ、建設主体も危険物物流の既存のプレイヤー以外にも拡大している。

傾向① 地方港で需要喚起、エリア“初”が続々と    

新設エリアとして注目されるのが地方港だ。混雑する京浜港の代替港としても注目される新潟港では、リンコーコーポレーション(本社・新潟市中央区、南波秀憲社長)が3月から新潟港で初となる本格的な営業用危険物倉庫「東港ケミカルセンター1号」(写真)の営業を開始した。

同倉庫は床面積約990㎡の鉄骨造りの平屋。消防法危険物第4類全般に対応し、うち140㎡を毒劇物保管庫とする。収容能力は1165パレット(4660ドラム)。庫内全体に固定ラックを導入し、多品種小ロット貨物への対応や保管効率の向上を図る。また、輸出入貨物を取り扱うため、倉庫全体を保税蔵置場とした。
トップリフターを配備し、バンニング・デバンニング作業を効率化。海上コンテナ車両はコンテナを敷地内でシャーシから下ろすことができ、あらかじめバンニングが終了しているコンテナを積んでコンテナヤードに搬入できるなど輸送の回転率を上げられる。また、危険物倉庫の庇は6mと十分に確保し、雨天荷役にも対応する。

京浜港の混雑やドレージ車両のひっ迫、同地区危険物倉庫の庫腹がタイトになる中、新潟港地区に危険物倉庫が整備されたことによって、新潟港から輸出できる環境が整う。同業者からの引き合いも順調で、敷地内には増設の余地があり、1号倉庫を軌道に乗せた上で拡張も検討している。

仙台港地区にも大型危険物倉庫が誕生した。大郷運輸(本社・宮城県塩釜市、高橋利滋社長)では昨年9月に東北最大級の危険物倉庫を開業。保税蔵置場の許可を得て、現在、5~6割が稼働している。

危険物倉庫は平屋の常温倉庫で床面積約1000㎡。消防法危険物第4類、第2類(固形アルコール類のみ)が中心で、全種類対応可能。間口の広いシャッター、防爆カウンターバランス電気式フォークリフトを採用し、作業効率、環境保全にも配慮している。

仙台港まで約8㎞とショートドレージの距離にあり、庫内の約400㎡を保税蔵置場とし、作業性を高めるバンニング用ステージを導入。既設のトラックスケールも有効活用する。協業先である東邦運輸倉庫の通関、普通品倉庫との連携により広範囲なサービスを提供できる体制だ。
現在、国内貨物の割合が7割程度。昨年12月から輸出貨物の取扱いが始まり、毎月コンテナ4本程度のバンニング作業を行っている。京浜港の混雑を背景に仙台港の利用ニーズが高まっている中、輸入貨物の引き合いが増えている。

企業のコンプライアンス強化や自動車メーカーの東北への生産集約、京浜地区の危険物倉庫の庫腹不足等を背景に、仙台港地区の危険物の保管需要拡大が見込まれ、輸出入貨物のさらなる取り込みに向け、仙台港での危険物コンテナヤードの早期整備も期待される。

門司港では、鶴丸海運(本社・北九州市若松区、鶴丸俊輔社長)の「化学品センター」(北九州市門司区)で、同社初となる定温危険物倉庫が今年3月28日に竣工した。「危険物6号定温倉庫」として運用を開始し、床面積は全体で約600㎡。3室に分かれており、A室は約304㎡(10~20℃)、B室とC室は約152㎡(5~15℃)。

消防法危険物の第4類と第5類、第1類に対応する。「化学品センター」の既存の施設は消防法危険物の第1類から第6類まで(第3類を除く)幅広く扱えるなど広範囲な顧客ニーズに応えられるのが強みだったが、危険物定温倉庫の竣工により、温度管理を要する危険物も扱えるようになった。

このほか門司港では東海運(本社・東京都中央区、長島康雄社長)が4月から、新門司地区の新たな事業拠点で危険物倉庫を稼働、第2期も9月に竣工予定。博多港では昨年3月に博多運輸(本社・福岡市博多区、渡邊智大社長)が危険物倉庫3棟を稼働。姫路港では兵機海運(本社・神戸市中央区、大東洋治社長)が姫路初となる危険物倉庫1棟(延床面積約860㎡)を昨年9月から本格稼働させている。

傾向②  湾岸部では「自動立体倉庫」で敷地を有効利用

危険物倉庫の用地が希少な湾岸部では、自社所有地での増設が進む。傾向としては、敷地を有効利用できる「自動立体倉庫」を選択するケースが増えている。京浜地区では丸一海運(本社・大阪市大正区、樋口幸雄社長)が4月11日から、川崎市川崎区浮島の「東京化学品センター」で危険物自動立体倉庫の営業を開始。200ℓドラム換算で6000本の収容能力を実現し、キャパシティの増強を図った。

背の高い荷姿の貨物、例えば、パレットに積載された200ℓドラム(約90㎝)をパレットから下ろさずにそのまま棚に収納できるようにし、作業性を向上。また、「一斗缶」と呼ばれる18ℓ缶(約35㎝)については、パレットに積載した状態で3段積みで収納。港頭地区での強い潜在需要を取り込み、内陸部の荷主からの問い合わせも多いという。

このほか京浜地区では、玉家運輸倉庫(本社・横浜市金沢区、児玉聖司社長)およびワン・ツー・ストック(同)で構成される玉家グループが、2017年1月に京浜地区で初めてとなる定温危険物自動立体倉庫を稼働。三和倉庫(本社・東京都港区、瓜生博幸社長)では、川崎事業所(川崎市川崎区)で危険物自動立体倉庫が昨年6月に竣工した。既存倉庫のスクラップ&ビルド(S&B)にあたって、収容能力の拡大と省人化を目的とし、立体自動倉庫を採用した。

傾向③  内陸部、タンクターミナルでの新増設も

内陸部の需要も活発だ。センコー(本社・大阪市北区、福田泰久社長)、三菱ケミカル物流(本社・東京都港区、横山一郎社長)など総合物流会社による新設も目立つ。内陸部の危険物倉庫はエンドユーザーに近い国内貨物の拠点としてだけでなく、港頭地区の混雑を回避すべく輸出入貨物の拠点としての期待も高まりそうだ。

タンクターミナル会社の危険物倉庫拡充も活発だ。大阪ではアスト(本社・大阪市西区、石橋明社長)、千葉では、丸善(本社・東京都江東区、藤井宏幸社長)、エヌアイケミカル(本社・千葉市美浜区、安晝浩一社長)、北九州・門司ではセントラル・タンクターミナル(東京都中央区、宮川靖嘉社長)がそれぞれ危険物倉庫を竣工させ、主力のタンク事業に付随するドラム保管需要をとらえている。

危険物倉庫に関しては、旺盛な需要を背景に主要港で有力物流事業者が新設構想を進めているほか、内陸部で自社の遊休地や新規用地の確保により、これまで危険物倉庫に携わっていなかった事業者の新規参入も検討されている。ただ、危険物倉庫は保有空地の確保など土地の利用効率が悪く、施設のメンテナンス、消防対応などその運営コストは想像以上に大きいという関係者の見方もある。
(2019年5月28日号)


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