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【ズームアップ】井本商運、危険物の海上モーダルシフトの受け皿に

2024.05.30

トラックドライバーの労働時間規制が強化される「2024年問題」を機にモーダルシフトの需要が拡大する中、危険物の大量輸送と物量の波動に柔軟に対応できる唯一の輸送モードとして「内航コンテナ船」への期待が高まっている。井本商運(本社・神戸市中央区、井本隆之社長)は、ISOタンクコンテナの輸送にも注力。2023年度は危険物1万7730TEU、ISOタンクコンテナで(実入り・空)7417TEUの輸送実績があり、今後5年間で倍増を目指す考えだ。

危険物は「国内物流サービス」の有力なターゲット

同社は現在100TEU型から、近海コンテナ船と同等の積載量を誇る1000TEU型まで31隻を運航。23~25年にかけて1000TEU型の内航コンテナ船3隻を投入するなどキャパシティーの拡大を図っている。

海上モーダルシフトの受け皿機能を強化するため、航路網の拡充も併せて進めており、21年には同社として初めて日本海航路を開設。現在、国内の寄港地は63港で、このうち56航路で週1便以上の定期便を実現している。

22年度の輸送実績は69万5000TEUと過去最高を更新した。23年度は70万TEU突破の期待もあったが、中国の経済回復の遅れによる荷動きの低迷を背景に前年比マイナスの66万4000TEUで着地した。

井本商運では、輸出入コンテナをハブ港(京浜港、阪神港)から顧客の最寄港まで輸送する「フィーダー輸送」と、内航コンテナ船で国内貨物を運ぶ「国内物流サービス」を2本柱に位置付ける。

主力である「フィーダー輸送」は世界情勢や景気の影響を受けやすく、安定的な需要が見込まれる「国内物流サービス」の拡大を目指しており、将来的には「フィーダー輸送」と「国内物流サービス」の比率を5対5(TEUベース)にする目標を掲げる。

「国内物流サービス」で有力なターゲットとなるのが危険物の輸送。液体化学品はISOタンクコンテナによる輸送が国内でも普及し、ISO規格化されたコンテナを運ぶ内航コンテナ船という輸送モードにマッチしているためだ。

タンクコンテナの空回送にもマッチした輸送モード

フェリー、RORO船が危険物の積載に制約がある一方、内航コンテナ船はオンデッキで危険物を積載可能。「2024年問題」を受け、ローリーによる長距離輸送が困難になる中、内航コンテナ船は危険物の海上モーダルシフトの有望な受け皿となる。

井本商運の運航船舶は危険物運送船適合証を取得し、近年の新造船では、艙内の危険物コンテナ積載区域を拡大。輸送の都度、物性の確認は必要となるが、火薬類、引火性液体、毒劇物、腐食性物質、高圧ガスなどほとんどの危険物を運べる体制を整えている。

内航コンテナ船はフェリー、RORO船に比べるとリードタイムが長く、「輸送量が大ロットで、かつゆっくり運べる貨物」に適しているほか、ISOタンクコンテナの空回送にもマッチした輸送モードだ。ISOタンクコンテナの洗浄デポの立地は京浜港・阪神港といったハブ港に集中しており、地方の荷主が輸入で使った後、京浜港・阪神港のデポに返却したり、輸出で使うタンクコンテナをデポから送り込むニーズがあるためだ。これは地方港とハブ港を結ぶ井本商運の内航コンテナ船のルートと重なるため、ISOタンクコンテナオペレーターと内航コンテナ船が連携することで、日本国内におけるコンテナ供給の円滑化に貢献し、ISOタンクコンテナによるサプライチェーン構築の一端を担っている。

大ロット、波動対応力強みに実入り輸送にも注力

井本商運では実入りコンテナの輸送にも力を入れていく。実入りコンテナの輸送でも、内航コンテナ船は陸送に比べ環境負荷が低いことに加え、他の輸送モードにはない競争力を持ち、「2024年問題」をきっかけにモーダルシフトへの引き合いが強まっている。

化学品メーカーの定修前など急激に輸送本数が増えた場合、ドライバー不足が深刻な陸送の手配は難しくなる。大ロット輸送が可能な内航コンテナ船は波動対応力があり、井本商運では京浜港から阪神港・博多港の間に定曜日運航の基幹航路を週2便運航しているため、リードタイムも読みやすい。

今後、国内輸送でもドライバー不足を背景にローリーから、1回の輸送ロットが大きいISOタンクコンテナを活用した輸送への切り替えが進むことで、内航コンテナ船へのモーダルシフト需要も高まる見込みで、井本商運ではこれを商機ととらえる。

一方で、ISOタンクコンテナはタンカーからの切り替え、すなわち“小ロット化”ニーズにも対応。京浜港から阪神港向けに従来タンカーで運んでいた危険物をISOタンクコンテナに切り替え、井本商運の内航コンテナ船で運んでいる例もある。

なお、モーダルシフトのボトルネックとなるのがコンテナターミナル(CT)でのISOタンクコンテナの“仮置き”だ。現時点では、危険物、毒劇物を積んだタンクがコンテナ船から一度に大量にCTに荷下ろしされることを想定した統一ルールが整備されていない。

海上輸送では、危険物を船舶で輸送する際に遵守すべき法令である「危険物船舶運送及び貯蔵規則(危規則)」が適用されるが、国内のCTに陸揚げされると貨物によって消防法、高圧ガス保安法、毒劇物取締法と適用される法律が異なり、蔵置場所も一元化できない。

船上では限られたスペースを有効活用しつつ安全を担保するため、積載する危険物同士の隔離の必要性や隔離措置を定めており、船上と同様の考え方がCTでの蔵置にも適用されれば、安全かつ機動的に搬出入を行えるようになりモーダルシフト促進につながる。
(2024年5月30日号)


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