「海線」の貨物鉄道維持へ、有識者会議が初会合=国交省
国土交通省と北海道庁は11月29日、「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議」の初会合を札幌市内で開催した。2030年度末に予定される北海道新幹線の札幌延伸に伴い、JR北海道から経営分離されるJR函館本線函館~長万部間(「海線」、約148㎞)について貨物線存続に向けた課題解決の方策を検討する。今後は3~4ヵ月に1回のペースで会合を開き、25年3月に中間報告を行い、26年3月をメドに結論を示す。
重要路線「海線」の貨物鉄道輸送を検討
有識者会議(座長=二村真理子・東京女子大学教授)には、国交省、北海道庁、JR貨物、JR北海道に加え、地元産業界から北海道経済連合会、北海道商工会議所連合、ホクレン農業協同組合連合会、北海道機械工業会、北海道消費者協会らが参加。第2回以降は荷主、通運事業者、トラック運送事業者、内航海運業者などからヒアリングを実施し、「海線」の貨物鉄道機能を維持する場合の方策や、本州間との貨物全量を船舶輸送へ代替した際の利点や課題などを検討することとしている。
初会合を受け、1日の記者会見で斉藤鉄夫国交大臣は「函館~長万部間のいわゆる『海線』は北海道と本州を結ぶ貨物鉄道輸送を担う重要な路線であり、そのあり方については、全国的な観点から検討する必要がある」と指摘。「国土交通省と北海道庁が事務局を務め、学識経験者、関係団体、JR貨物・JR北海道などを構成員とする有識者検討会議を設置して議論を始めたが『海線』による旅客輸送は北海道庁を中心とする北海道新幹線並行在来線対策協議会において地域交通の確保に関する検討が行われている。国交省としては引き続き地元協議会の議論を見守るとともに、鉄道物流のあり方については、この有識者検討会議において幅広い関係者から意見をうかがい、認識を共有しつつ様々な課題の解決に向けて議論を深めていく」と述べた。
関係者間での〝複雑な利害調整〟が必要
有識者会議に先立ち、国交省(鉄道局・北海道運輸局)、北海道、JR貨物、JR北海道による「北海道新幹線の札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する情報連絡会」(いわゆる4者会議)は今年7月に論点整理を行い、「海線」の維持により貨物鉄道機能を確保することが「極めて重要」との認識を共有。その上で貨物鉄道機能のみを前提とした第三種鉄道事業者(JR貨物に線路を使用させる鉄道会社や自治体)が設立された前例がないことから「JR北海道から線路など鉄道施設を引き継ぐ保有主体のあり方」をはじめ、「毎年度発生する数十億円の維持管理費用と将来の大規模修繕費用の負担の方法・割合」や「数百人規模の維持管理の要員の確保」など大きな課題の解決が必要との指摘を行っていた。
これを受けた今回の有識者会議には、地元産業界や荷主団体も加わり、複雑な利害調整を行いながら貨物線維持に向けた対応策を探っていくことになる。最大の焦点になるのは、線路保有主体のあり方や費用負担責任を巡る問題の調整で、国や北海道、JR貨物に加え、北海道経済界を含めた幅広いステークホルダーからの負担の可能性などを探ることになりそうだ。
一方、貨物線維持を巡っては、物流業界からは「政府が『物流革新緊急パッケージ』の中でモーダルシフト倍増という目標を掲げており、これで貨物線を存続しなければ矛盾している」との指摘が出ているほか、「北海道に国策として半導体の新工場建設が決まる中、サプライチェーン上も貨物鉄道輸送は重要になってくる」との声も出ている。
(2023年12月7日号)