メニュー

日立物流、新WMS・RCS・WCSを標準化

2021.11.30

日立物流(本社・東京都中央区、中谷康夫社長)は、新たに開発したWMS(倉庫内管理システム)にRCS(リソースコントロールシステム)とWCS(倉庫制御システム)を組み合わせたシステム仕様を、“新しい3PLのスタンダード”としていく。これらのシステムが備わることで高いスループットと生産性の可視化、短期間での倉庫業務立ち上げ、および顧客との情報共有が可能となる。IT戦略本部副本部長の佐野直人氏は「全ての3PL提案にデジタル機能を標準装備することを意味する。今後は顧客ニーズの強いCO2排出量算定などにも積極的に対応していきたい」と話す。

機能をパッケージ化した新WMSを開発、拡販へ

日立物流では2018年より本格的なDX戦略に着手。DX技術を用いて顧客ニーズへの対応力を強めて「トップラインを拡大」するとともに、社内の「業務効率化」も実現することがその目的となっている。

具体的なソリューションは、①輸送デジタルプラットフォーム「SSCV(Smart & Safety Connected Vehicle)」②リソースシェアリング型の次世代物流センター「スマートウエアハウス(SWH)」③サプライチェーン最適化サービス「SCDOS(Supply Chain Design & Optimization Services)」――の3サービスがメインとなる。

中でも、「SWH」は同社が培ってきた自動化・省人化ノウハウとデジタル技術を組み合わせて、業界ごとに標準化し、提供するもの。一例として、SWHの進化系である「ECプラットフォーム」はEC事業の成長に必要な4機能「在庫保管、梱包、発送、データ連携」をパッケージ化し、初期費用ゼロ、固定費ゼロ、従量課金型で販売する。倉庫の機械化とデジタルツイン構想を掲げ、庫内の全データを可視化・把握することで最適なスループットを実現することが基本コンセプト。優秀なセンター長の“頭脳”をAIに置き換える試みなども進んでいる。

SWHにおいては今期、新たなWMSを開発。大きな特徴が、これまで荷主企業ごとにフルオーダーで構築していたシステムを標準化した点で、ベースとなる機能と追加要素をパッケージとして作り、顧客ニーズに応じて組み合わせて提供できるようにした。これにより、開発・メンテナンスコストが低減するとともに立ち上げにかかる時間も短縮。順次、国内倉庫に導入、展開中で、WMSのみの販売にも新開発版を展開している。パッケージのオプション機能は既存システムの経験値から500以上を計画、当初60%を実現し、案件対応を優先しながら23年度には90%以上を目指す。

また、倉庫内で様々な自動化設備が開発・導入される中、作業工程における設備機器の制御と人員配置を計画する「RCS」も開発。RCSに基づいて、実際にマテハンやIoTを自動制御する「WCS」についても機器別のインターフェースを標準装備した次世代版が今期中に完成する。すでに「ECプラットフォームセンター」(埼玉県春日部市)で一部導入しているほか、「東日本第二メディカル物流センター」(埼玉県加須市)でも稼働を予定する。

これらの新機能によって、日立物流の現場でのスループットが最大化することに加え、荷主企業側も作業工程進捗や作業生産性、機械の稼働数といった詳細の数値を即時把握することが可能。アイテム1個あたりの出荷コストや生産性まで前年比較できるようになる。「お客様が求めるKPIはそうしたレベルまで達している」と佐野氏は話す。システムの導入倉庫では可視化データをもとにしたPDCAを回すことで1拠点あたり年間数百万円規模のコストダウンが達成できているという。

需要高まるCO2量の可視化、SCDOSでニーズに対応

主要ソリューションのひとつである「SSCV」はIoTテクノロジーを駆使してトラックドライバーの健康状態を含めた安全運行をサポートするとともに、輸送事業者の業務効率化と事故ゼロ化を支援するサービスプラットフォーム。こうしたデータを“協創パートナー”と共有し、新しいサービスビジネスの創出を目指す。日立物流の圧倒的強みは、この“倉庫業務”と“輸配送”の部分だが、荷主企業によるサプライチェーン全体の可視化にも着目し、具体的なソリューションとしてリリースしたのが「SCDOS」となる。

SCDOSは複数のプレイヤーが保管・輸配送するグローバルサプライチェーンにおける発注番号ベースでのリアルタイムトラッキングを可能にし、最適在庫調整を実現。生産性向上と顧客満足向上の両面から寄与できる。昨年10月から今年9月までの1年間で86件が稼働しており、うち新規3PL案件は22件、既存案件への導入は35件、コンサルとしての利用は29件となっている。

倉庫内の生産性を可視化する「倉庫モニター」や、貨物追跡と未来在庫予測につながる「POトラッキング」、輸送の生産性を見える化する「輸送モニター」など多様なシステムを用意するが、ここに来て特に相談が増えているのがCO2排出量の可視化だ。日立物流では物流全体のCO2排出量をデータとして算出する「CO2モニター」を現在試験運用中にあり、荷主企業約10社と導入に関するアセスメントを進めているという。

CO2モニターは自社車両のみならず協力会社のトラックに至るCO2排出データを集計する上、センターの電力量や梱包資材のCO2も換算。温室効果ガス(GHG)排出量の算定報告にかかる国際基準「GHGプロトコル」の「スコープ3」まで対応する。今後、早期に標準化モデルを構築した上で、利用目的別に切り出して使用できるようなシステムを設計していく考え。こうしたCO2可視化データをもとにした物流改善も提案していく。

日立物流は「システム物流」で大きく成長を遂げた歴史を持ち、今後も、最先端のITシステムと物流品質を成長のコンセプトに据え、積極的なIT投資を行う方針にある。例えば、5G回線を活用した倉庫内システムも試験運用を開始。物流の“エコシステム(経済圏)”構築に向けた荷主同士の共同化が加速する中、こうしたビジネスモデルに必要となるサプライチェーン上のデータ連携についてもCO2排出量の算定をひとつのトリガーとして開発を進める考えだ。
(2021年11月30日号)


関連記事一覧