食品物流でのコロナ対応でパネルディスカッション=メーカー、卸
「食」の総合展示会「FOOD展」が東京ビッグサイト青海展示棟で7~9日に開催された。8日にはフードディストリビューションの展示ホールでメーカー、卸による「食品物流におけるコロナ対応事例」をテーマにパネルディスカッションを実施。コロナ禍でのレトルト食品、スパイスなどの大幅な需要増に伴う物流対応やアフターコロナを見据えた「新たな物流様式」について議論した。
リードタイム確保で確実な供給を実現
メーカーからはハウス食品生産・SCM本部の松澤新SCM部長、日清食品事業構造改革推進部SCM企画部の矢島純部長、卸からは三菱食品SCM統括オフィスの小谷光司室長代行、国分首都圏の殿村貴茂執行役員首都圏業務センター部長兼経営統括部営業業務担当部長がパネリストとして登壇し、日本加工食品卸協会の時岡肯平専務理事がコーディネーターを務めた。
政府の緊急事態宣言や在宅勤務の拡大により、特定商品の需要が急増したことを受け、メーカーは主力商品の安定供給に集中し、一部製品の休売、特売の中止、新発売の延期を実施したほか、工場の休日出勤などで対応。受発注も含めたテレワークやペーパーレス化にも取り組んだ。
松澤氏は出荷増に対応するため、出荷指図の後ろ倒しや翌々日納品の実施などの取り組みを紹介するとともに、「物流現場ではトラックの長時間待機や(当日降ろせず)荷物の持ち戻りが発生し、『作ってはその都度出荷する』のでトラックの積載率が低下し、コストが上昇した」と打ち明けた。
矢島氏は、密を避けた増産体制やマスクの確保、物流事業者との接触ポイントの見直しなど苦労を振り返り、「得意先の理解を得て、パレチゼーション、翌々日納品についてお願いし、リードタイムを確保したことで確実な供給を図った」と報告。オーダー調整に時間を要するため、物流事業者の残業対応を補填したことも明かした。
効率化の機運、食品のインフラ強化が必要
小谷氏は、「受注、物量の増え方は最大風速で2倍程度だったのでは」と爆発的需要の肌感覚を示した。需要の拡大が急で車両や人の手配が整わず、担当以外のメンバーも応援に回ったことも報告。出荷優先でメーカーからの荷受けの待ち時間が発生したことにも言及し、予約受付システムを念頭に「業界として効率化を進めなければとの機運が高まった」とした。
殿村氏は、休校やコロナへの恐怖心から女性従業員が出勤できなくなった環境を報告し、東京オリンピック・パラリンピック対応で体制を整備していたテレワークの有効性を確認。「受発注拠点を集約していため分散の検討が必要となった」とし、「ウィズコロナではテレワーク、3密回避、分散により食品のインフラを強くしていく必要がある」と語った。
製・配・販の3層協議のもとで協力を
矢島氏は「物流は協調領域で、情報を開示し、有事にもトラックの融通などアライアンスを推進すべき」と指摘。翌々日配送について「急な需要増大や出荷調整の中でも対応できた要因」と述べ、「卸、小売りの理解によって翌々日配送が行えることはメーカーとしてありがたい」と継続実施の意向を示した。
殿村氏は「リードタイム延長は全体の救済策ではない」とし、卸の負担増を説明したうえで「1日伸びたリードタイムを活用し、検品レスにするスキームづくりや小売の受注締め時間の後ろ倒し」などを提言。リードタイムの延長によってメーカーの受注波動が大きくなる可能性も指摘した。
小谷氏は「受注増の中、人の手配も困難で、やれることに限界が見えた。小売り向けのサービスでレベルを下げることなど、これまではあり得なかったが、お願いできる環境になってきた」と報告。「まずは商品をお届けすることを優先し、納品時間をずらしてもらう取り組み」も紹介し、今後も物流環境に配慮した対応の必要性を強調した。
松澤氏は「製・配・販の3層協議のもとで協力していくことが大事。どこかが一方的にメリットを享受するのではなく、相互に知恵を出すべき」と強調。リードタイム延長については「メーカーのメリットよりも物流の事業継続のためであり、痛みについて丁寧に商談を重ね、卸とのコミュニケーションを高めていくべき」と述べた。
このほか「新しい物流様式」では、非接触の観点から検品レス、伝票レス、マテハン有効活用のための外装の標準化などを提言。時岡氏は「個社、業界だけでは供給責任を果たせない。手段としてはDX(デジタルトランスフォーメーション)がある。業界全体での取り組みが求められる」と語った。
(2020年10月15日号)