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日本郵便/市川南郵便局、AGV59台導入などで業務自動化を徹底

2023.06.29

日本郵便(本社・東京都千代田区、千田哲也社長)は日本郵政グループの中期経営計画「JPビジョン2025」において「郵便・物流オペレーションのDX推進」を掲げている。2月に開局した「市川南郵便局」(千葉県市川市)では、59台のAGV(自動搬送車)に加え、新型・大型の区分機やソータ、制御管制システムなどを整備し、搬送や仕分け作業の自動化・省人化を強化。1日約230万通の郵便物と約8万個の荷物の処理に対応した同拠点を、今後のDX促進の起点となる〝トップランナー〟に位置付け、得られた成果を他拠点に水平展開していく方針だ。

17局の内務作業を集約、千葉県の荷物の半分をカバー

日本郵便では、郵便業務の効率化を目指し、郵便局の業務集約などによる郵便・物流のネットワーク再編を進めてきた。その流れの中で「市川南」は、千葉県北西部エリアを管轄する地域区分郵便局として開設。同エリア内にある17ヵ所の配達局で行われていた内務作業を同局へと集約した。三井不動産の「MFLP市川塩浜Ⅱ」の1階フロア全体を賃借しており、延床面積約は4万2600㎡。南北300m、東西約130mの規模を持ち、全国の地域区分局のワンフロア面積では最大だという。

郵便番号の上2ケタ「27」から始まる地域をカバーし、千葉県の約54%、人口にして約340万人を擁するエリアの郵便・荷物を管理する。同地域から送られた郵便物などは「市川南」に集約され、全国61ヵ所の地域区分局へと送られる。また、他地域の区分局から「27」地域宛てに送られてきた郵便物も一度「市川南」へと集約され、エリア内の配達局へと送られる。同エリアの地域区分業務は従来、松戸南郵便局(千葉県松戸市)が担っていたが、荷量の増加、施設の狭隘化に伴い、同局へと移管した。

同局の最大の特徴は、最新デジタル技術を活用した機器・システムを導入し、内務作業の徹底した自動化・省力化を進めていることだ。郵便・物流施設室の渡辺正明室長は「荷物が各配達局に送られる前に、できる限り〝上流〟となる地域区分局で処理しておくことで配達局での作業を抑制し、なるべく少人数で配達業務に集中できるようにした」と話す。

AGVを59台導入、パレット搬送を全自動化

とくに目を引く自動化の取り組みが、ロールパレット(カゴ台車)の搬送のすべてをAGVが担っていることだ(写真)。豊田自動織機製の牽引・有軌道式AGV「KEY CART(キーカート)」を、同社としては最大の規模となる59台を導入した。トラックから降ろしたロールパレットを局員がAGVに接続し、所定の位置まで自動搬送。運ばれたロールパレットは所定位置で自動的にAGVから切り離される。1日あたり約6400パレットを搬送し、搬入のピークである19時~21時の間は最も多くのAGVが稼働する時間帯となる。

AGVはフロアの磁気テープ上を時速3㎞で走行し、最大1000㎏の荷物を搬送可能。ゆうパックの場合は最大2台、その他の郵便物では最大3台までのロールパレットを牽引する。走行レーンは82コースを整備し、磁気コースの総延長距離は約23・4㎞に及ぶ。走行レーンと作業員の歩行導線を完全に区別しているほか、AGVが付属のセンサーで障害物を察知すると自動で停止するなど、安全対策が施されている。

仕分け作業の自動化にも注力している。主にゆうパックなどを処理するフィブイントラロジスティクス製の「小包区分機」は、1時間に約1万8000個の荷物の処理に対応。シュート数は71本を有しており、各地域区分局へ荷物を仕分ける。従来はシュートの数が少なかったことから、ある程度仕分けた後にあらためて細かく配送先へと仕分ける「2次仕分け」が発生していたが、シュートを増設することでこれを解消した。1日あたり全国発送荷物を約3・9万個、域内向け荷物を約3・1万個処理する。他の区分局にない特徴として、シュートの長さを従来の5mから11mへと長めに設定した。それにより保管ストレージとしての機能を備え、約50個の荷物をシュート内に貯めておくことができ、局員のシュート間の移動を抑制することが可能となった。

また、シュートは荷物を流すコンベアの動きに緩急をつけており、シュート内に蓄積される荷物同士の衝撃の緩和を図っている。加えて、従来の小包区分機は機器の一部が故障した場合、機械全体が停止していたが、新たに導入した機体は故障箇所以外が稼働し続ける機構を採用。最大4ヵ所の故障までは機器を停止させることなく連続稼働することができる。さらに、AGVの走行ルートを確保するため、各区分機類は高床式となっており、小包区分機では下部の空き空間をAGVの駐車場所に転用するなど、スペースを有効活用している。

パケットソータを初導入、書状区分機は11台を設置

ゆうパケットなどの処理に対応する東芝インフラシステムズ製の「パケットソータ」は、1時間に約1万1000個の荷物を処理する。同型の機器の導入は全国で「市川南」が初めて。3式の自動供給装置と2式の手載せ供給部からコンベアに載せられて運ばれたパケットは、記載された宛て先などの情報をバーコードリーダおよびOCRが認識。コンベアの底板が開いて宛て先に応じたシュートへと落とされ区分される。

シュート数はキャンセルシュートを含めて84本と、全国の地域区分局ごとに分けられる本数を用意した。全国発送の荷物は1日約8万個、域内向けには約4・7万個を処理する。小包区分機と同様、シュートを長く設けて保管ストレージとして利用する。

書籍や雑誌などの定形外郵便物の処理に対応する日本電気(NEC)製の「フラットソータ」は、区分口数を従来の約300口から480口へと拡張し、1時間あたり約3万2000通の処理に対応した。全国向けには1日に約11万通、域内向けには約15万通を取り扱う。

手紙やハガキなどの定形郵便物を仕分けする「書状区分機」(東芝インフラシステムズ製)は1時間に約3万通、年賀はがきでは約5万通を処理する。域内の13局に設けていた25台の書状区分機を「市川南」に集約して処理を効率化。宛先のエリアごとに11台を整備した。

マテハンや運送便の動態管理でさらに業務効率化

同社初の試みとして、AGVの動態や各区分機・ソータの稼働データを一元管理できる制御管制システムを導入した。各マテハンの作業状況をリアルタイムで把握できるため、機器の異常をすぐに検知できる。また、専用タブレットによるAGVへの遠隔指示を可能にし、AGVの呼び出しや待機場への返却、バッテリーの充電を効率的に行えるようにした。

さらに、各区分機・ソータの配達局ごとの処理数を稼働データとして可視化し、各配達局と共有できるようにしたことで、配達局は翌日の業務量を把握可能となり、最適な業務管理につなげている。また、制御管制システムと連動したディスプレイをフロアに設置し、各AGVの現在地やバッテリー残量がひと目で把握できるようにした。

このほか、局員やトラックドライバーの専用スマートフォンアプリを通じて、運送便の動態や荷物の積載情報を把握できる「輸送テレマティクスシステム」も初導入。同システムは、ロールパレットの票札に印刷された二次元コードをアプリで読み取ることで、局員やドライバーはロールパレットの内容物や宛先などの情報を確認できるため、これまで局員とドライバーが対面で行っていた荷物の授受作業の効率化やミス防止につながるほか、ペーパーレス化も実現。さらに、蓄積された運送便の動態データをAIに投入することで、運送ダイヤの効率化に活用していく。

安定したサービス提供目指し自動化を推進

このような徹底した自動化・省人化の背景には、ECの隆盛による荷量の増加に対して、必要な人材の確保が難しくなっていることがある。渡辺室長は「これまでは新局が開設したら、働き手を比較的容易に確保できていたが、現在は状況が変わり、容易ではなくなっている。増加する荷量に対応していくためにも、省人化に向けた仕組みを整えることが重要だ」と厳しい現状を語る。

同局は24時間体制で稼働しており、局員は総勢約600人。パケットソータのように導入事例のなかったマテハン機器の採用などさまざまな要因により、習熟に向けた時間の確保が難しい中での新局立ち上げになったという。現在は機器の扱いにも慣れたことで円滑な運用が進んでおり、今後は教育体制の充実など習熟スピードの向上に向けた取り組みも視野に入れる。

高度にシステム化された「市川南」だが、内務作業には自動化・省人化の余地がまだ残っているという。ロールパレットから荷物を取り出して各区分機にセットする作業や、AGVが切り離したロールパレットをトラックへ積み込む工程などでも機器の導入を検討しているものの、最適な積み付け方法はまだ確立されておらず、実現には高いハードルが残る。「なるべく作業を単純化しないと機械に置き換えることは難しい。技術の進歩なども注視しながら、施設内で実験を行うための環境も整備していきたい」(渡辺室長)。

現在、同局の省人化・自動化による効果は検証中の段階にある。今後は「市川南」の運用で培った知見や成功事例を全国の地域区分局でどのように共有・活用していくかも課題となっている。大型機器の導入は施設の形状や規模に左右されやすいものの、制御管制システムや輸送テレマティクスは比較的、水平展開しやすいという。渡辺室長は「人手に依存していたら立ち行かないというのが現在の物流の共通認識。今後も継続的かつ安定したサービスを提供するためにも、なるべく少ない人員で現場が稼働するシステムの構築に努める」と意欲を見せる。
(2023年6月29日号)


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