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「運送体制台帳」制度の創設を提案=経産省/国交省/農水省

2023.05.02

経済産業省、国土交通省、農林水産省は4月27日、「持続可能な物流の実現に向けた検討会」(座長=根本敏則・敬愛大学教授)の第9回会合を開催し、トラック運送業の多重下請構造の改善を図るため、建設業界を参考に、元請運送事業者に対し、「運送体制台帳(下請運送事業者リスト)」の作成を義務付ける新制度を提案した。併せて、運送契約では、運賃だけでなく附帯業務や料金なども法定記載事項として書面化することを義務付ける考えを示した。新規措置により、適正な運賃・料金の収受につなげる。

多層下請構造を明確化、元請・荷主を規制しやすく

今年2~4月に実施したトラック事業者へのアンケート調査の結果、多重下請構造が、実運送事業者の適正な運賃・料金の収受を妨げていると考えられることから、「運送体制台帳」作成を義務付けることを提案。台帳に記載することで元請・下請など運送に関わる関係各社が明確化される。荷主はこれまで、直接的な発注先である元請は認識できても、下請・孫請など多層構造によって運送が行われていることを認識できておらず、台帳はドライバーが時間外労働上限規制や改善基準告示などの法令に違反した場合に、責任の所在を明確にする効果もある。責任の所在が荷主や元請にあることが明確になれば、貨物自動車運送事業法の定める荷主対策により、当該荷主・元請は企業名公表などの社会的ペナルティを負う場合も想定される。

なお、建設業界ではゼネコンなどは発注者から建設工事を請け負った際、下請業者の名称や工事内容を記載した「施工体制台帳」の作成が建設業法で義務付けられている。発注者は台帳を随時閲覧し、下請業者を確認することができる。また、下請業者が孫請業者を使う場合、下請は元請に対し、孫請業者の名称を通知する義務がある(再下請通知)。この制度により発注者、元請、下請のそれぞれが工事関係者を明確に把握できるようにしている。

契約書面化で待機時間や附帯業務の料金収受へ

また、調査結果によると運賃契約は書面化されている一方、附帯業務の委託や料金、燃料サーチャージについては書面化されていない場合が多く、適正な運賃・料金の収受が困難な実態が浮かび上がった。そこで適正収受を後押しするため、契約内容を書面で交付することを義務付ける考え。積み込み・積み降ろしや附帯業務、長時間待機などをドライバーが無償で行っていた悪しき商慣習を是正することが目的。契約書面には、貨物の品名・重量・個数、運賃、燃料サーチャージ、荷役料、附帯作業料、待機時間料、高速道路利用料などを記載し、適正な料金収受につなげる。

「計画策定には荷主の関与が必要」との声も

今回の検討会では、中間とりまとめで示された荷主と物流事業者に対する物流効率化に関する中長期計画の作成・提出と報告義務を設ける規制的措置について、荷主と事業者からの意見聴取も行った。荷主からは日本鉄鋼連盟、事業者からは全日本トラック協会、日本倉庫協会、日本冷蔵倉庫協会、全国通運連盟が発表した。

鉄鋼連盟は、行政が主導することで発着荷主や輸送事業者など物流の関係者全体に物流の生産性向上を要請することは意義があると評価した。
全ト協は実運送を担う事業者が「標準的な運賃」に基づく運賃・料金を収受できる仕組みが必要だと指摘した上で、「運送体制台帳」の作成については、建設業との違いを踏まえて検討し、事業者の意見を聞きながら事業者にとって過度な負担とならないよう実効性のある仕組みとすべきだと注文した。

日倉協は「倉庫事業者が自らの物流効率化計画を作成する場合、ほとんどの事柄において荷主の了解と協力が必要となる」と指摘し、倉庫事業者の計画作成にあたっては荷主の協力が得られるようなシステムの必要性を強調した。

日冷倉協からは「冷蔵倉庫は物流事業者であり、個々の入出庫業務は荷主の指示を受けることから効率化に有効な発送ロットの変更、納品回数の削減、リードタイムの延長などの取り組みは独自に行えない」とし、規制的措置において物流改善の度合いを判断する際には、冷蔵倉庫の人手不足などの事情に配慮する必要があると訴えた。

通運連盟は規制制度が事業者に義務付ける効率化計画について、「通運事業者が単独で実施できる取り組みは限定的だ」と指摘し、通運業における深刻なドライバー不足や荷主によるパレット化が進展していない事情などを踏まえ、生産性向上の判断基準策定には実態を踏まえた検討を要するとした。
(2023年5月2日号)


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