ズームアップ 農産品の物流費、9割が「課題」=オイシックス大地
「出荷する農産品の物流費用に関する課題を抱えているか」――オイシックスドット大地・高島宏平社長からの問いかけに、回答した農家の9割が「課題がある」を選んだ。同社が5日に開催した、協力農家などを集めたシンポジウム「N‐1 SUMMIT 2018」でのアンケート結果だ。トラック不足と輸送運賃の上昇は、農業にも影響を及ぼしている。こうした状況を受けて、今年で9回目となる同シンポジウムでもテーマを初めて「物流」に定め、農産物物流の課題解決に向けた先進事例を取り上げた。
運賃上昇を受け“新しい運び方”が誕生
京王電鉄では昨年9月から週2便、飛騨高山(岐阜県)と新宿(東京都)を結ぶ高速バスに、岐阜県産の農産物を積んで輸送する「客貨混載」を行っている。バスのトランクを利用しながらも、保冷コンテナを用いることで青果の鮮度を維持。購入者からも好評を得た。戦略推進本部の嶌田智仁氏は「輸送の取り回しが難しいが、輸送費を安く抑えられる。高い品質の商品を少量運ぶことに適しており、各地域からの輸送を増やしたい」と路線拡大への意欲を示した。
農業生産法人の取り組みとしては、やさか共同農場とぐり~んは~とがオーガニック農産物の共同輸送に着手。実証実験を行った島根県発関東向けの輸送は、これまで10tチャーターに見合うロットがなかったために宅配便で送っていたが、各生産者の商品を集約することでチャーターが可能となり、輸送コストを約2割削減できたという。やさか共同農場の佐藤大輔社長は「世田谷市場のような既存の地方卸売市場を、消費地におけるオーガニック農産物の拠点にしたい」と述べた。
オイシックスドット大地からは、ヤマト運輸と共同で進める、宅急便とは異なる新しい農産物の輸送サービス「べジネコプロジェクト」の説明があった。ヤマト運輸のゲートウェイ施設をつなぐ運行便を利用したリレー方式により、農産物を低コストかつ高品質に運ぶもの。現在は宮崎県からオイシックスの海老名物流センター(神奈川県海老名市)まで農産物を運ぶトライアルを行っており、結果を検証しながら5~7月にβ版をリリースし、9~11月には正式にサービスインすると伝えた。
これらの発表に対する会場からの関心も高く、質疑応答では「自身も(運送費の高騰や輸送会社が見つからないという)同じ課題を抱いている」として、より詳しい取り組みの説明を求める声も挙がっていた。
市場法改正、物流が市場の重要な役割に
農産物の物流と密接に関わるのが、卸売市場だ。農林水産省では卸売市場法と食品流通構造改善促進法の改正に向けた準備を進めており、物流・商流・情報を担ってきた卸売市場の在り方は変わろうとしている。「N‐1 SUMMIT 2018」でも、同法の改正について日本総合研究所開発戦略センターの三輪泰史シニアスペシャリストが解説した。
今回の法改正は直売所の普及や個別宅配、インターネット通販などで市場外流通が拡大していることを受けた見直し。一例として、民間企業による卸売市場への参入が可能になるほか、これまで規制されていた「第三者販売の原則禁止」「直荷引きの原則禁止」「商物一致の原則」も市場ごとにルールを策定できるようになる。
とくに、商物一致の原則については既に撤廃されている欧州の事例を取り上げ「小売の寡占化が進み、市場で多くの需要家と多くの生産者をマッチングする必要が無くなっているが、各卸売市場は選果やパッキング、保管機能などを高めた集出荷センターへと生まれ変わりながら規模を拡大している」として、物流面での役割を示唆した。
卸売市場法の改正については関係者による意見交換も行われ、さんぶ野菜ネットワークの下山久信事務局長兼常勤理事は「民営市場が登場するとともに、地方卸売市場は物流の集積地となって消費地へ荷物を発送する拠点になるのではないか。既に、横浜南部市場では横浜丸仲青果がイトーヨーカドー向けのパッキングセンター業務を行っているが、こうした動きも加速する」と指摘。
長野県連合青果佐久支社の吉崎岳支社長は「現在でも農協からの商品のみならず、生産者グループの商品を取りまとめる機能も担っている」ことを紹介し、農業総合研究所の堀内寛取締役副社長COOも「卸市場には既に完成した物流と集積の場があり、その機能を使って、民間が知恵を出し合う方が取り組みやすいのではないか」との考えを述べた。
農産品輸出にも関心
シンポジウムの最後には、オイシックスドット大地の高島社長が登壇し、会場に集まった150人の農業従事者へのアンケートを実施。物流費に関する質問のほか、農産物輸出への問いかけもあり、「いま既に農産品を輸出しているか」には77・1%が「していない」と回答。そのうち、「農産品を輸出したい」としたのは51・7%に上るなど、農産品の輸出拡大への意欲が伺えた。
(2018年3月15日号)