空輸の活用で広がる「速い」物流、当日配送も
「2024年問題」を受けて「運び方」が変わりつつある。トラックドライバーの労働環境を改善するため、リードタイムの延長や「ゆっくり配送」を許容する動きが企業や消費者に浸透し始めている。その一方で、緊急性の高い貨物や「速く届けてほしい」消費者ニーズに対応するため、空輸を活用した「速い」物流サービスの存在感も高まっている。
昼間帯の旅客貨物室スペース利用
突破口となったのが、全日本空輸(ANA)が4月1日に新設した、昼間帯限定の国内貨物運賃「コンテナバリュー運賃」。国内旅客定期便の昼間帯の床下貨物空きスペースを有効活用した、航空コンテナ単位での輸送サービスだ。
「2024年問題」への対応策の選択肢として提供開始したもの。コンテナ1台当たりの定額料金で、対象となるコンテナは、物流業界で広く普及している「標準パレット」がそのままひとつ納まる「LD3コンテナ」で、パレットのままの搭載が可能となっている。
羽田空港発着の新千歳、伊丹、福岡空港を結ぶ6路線からスタートし、7月1日からは、羽田空港発着の熊本、鹿児島、長崎、広島、松山空港を結ぶ便と、那覇空港出発の羽田、伊丹空港到着便を新規路線に加えた。
ANAによると、現状、昼間帯の国内旅客定期便の貨物室スペースの利用率は重量ベースで約20%にとどまっており、この空きスペースを活用することで、年間約100万t分の貨物を追加で運ぶことができるという。
空陸一貫のワンストップな輸送を提供
物流会社も空輸を活用した新サービスに乗り出す。トランコムは「2024年問題」への対応策のひとつとして、ANAの昼間便の航空貨物スペースを活用して輸送するサービス、「空飛ぶパレット(通称ソラパレ)」の提供を8月30日から開始した。
航空コンテナ単位で輸送するANAとトラックの空車情報と荷主をつなぐトランコムの求貨求車サービスを組み合わせたもの。トランコムが手配した車両で集荷・空港搬入・搬出・納品を行い、ANAの航空貨物コンテナで空路輸送を行う。
トランコムとANAは、「最短当日中に納品できる空陸一貫のワンストップな輸送を提供することで、持続可能な社会の実現に向けた最適な輸送サービスの構築を図るとともに社会課題の解決を目指す」としている。
物流DXで日中の飛行機利用を可能に
物流DXを組み合わせることで、航空便の利用を可能にしたサービスもある。EC自動出荷サービスを提供するロジレスは2月、ANAと連携し、関東地区発、中国・四国地方の岡山以西、九州地区全域(島しょ部除く)までの翌日配送を可能とした。
ロジレスの物流DXサービスにより、EC事業者の輸送までのプロセスが簡素化され、航空便搭載までのリードタイムが最大で4時間短縮。これにより日中の飛行機の貨物空きスペースを活用できる体制が整った。
ロジレスとANAは、ECにおける効率的な幹線輸送・配送業務を行うことを目的とし、複数の輸送モード(トラック、航空)を活用した新たな配送サービス「ロジレス便」の試験運転4月1日から開始し、秋ごろの本格リリースを目指している。
アマゾンは翌日配送エリアを拡大
Amazonも航空便を強化する。8月5日、北海道への航空輸送の利用を開始し、道内への翌日配送を拡大すると発表。これにより、アマゾンで購入する700万点以上の商品の翌日配送が、47都道府県全てで利用できるようになった。
従来、北海道への配送はトラックとフェリーで行い、数日を要していたが、空輸を利用することで、道内で初めて翌日配送が可能になった。羽田空港から新千歳空港へ運航されている旅客機の空いた貨物スペースを活用し、1ヵ月に数十万個の商品を配送する予定。
離島を除く道内の利用者は、前日正午までに注文することで、翌日に商品を受け取れる。また、道内の札幌市、旭川市、函館市、帯広市などの一部の地域では、約20万点の商品の当日配送も利用できる。
ヤマトはJALと連携しフレイター運航
なお、宅配大手も空輸を本格化させている。ヤマトホールディングスと日本航空(JAL)は「2024年問題」を見据え、首都圏から北海道、九州、沖縄地域への長距離輸送に貨物専用機(フレイター)の運航を4月から開始した。
ヤマトグループが機体を導入し、JALグループが運航を担うスキームで、長距離幹線輸送の手段として新たにフレイターを追加。安定的な輸送力の確保とともに、輸送スピードが向上することで、輸送ネットワーク全体の効率化を狙う。
(2024年9月12日号)