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【ズームアップ】船隊を増強、航路拡大を急ぐ=井本商運

2023.12.14

内航コンテナ船サービスを提供する井本商運(本社・神戸市中央区、井本隆之社長)は、船隊の増強と航路の拡大を急ピッチで進めている。2024年4月からトラックドライバーの労働時間規制が強化される「2024年問題」を前に、モーダルシフトの受け皿となる体制を整備。23~25年にかけて、近海コンテナ船と同等の積載量を誇る1000TEU型の内航コンテナ船3隻を投入し、日本海航路を含めた航路網のさらなる充実を図る。一連の取り組みにより、国際コンテナ戦略港湾への集荷を強化するとともに、内航コンテナ船による国内輸送の潜在ニーズを掘り起こしたい考えだ。

大型・小型合わせ31隻の船隊、62港に寄港

同社は1973年に神戸で創業し、神戸~門司間でバージを活用した不定期のコンテナフィーダー輸送を開始。初年度の輸送量は480TEUだったが、徐々に取り扱いを増やし、2021年12月には累計輸送量1000万TEUを達成。運航船舶について400TEU型、600TEU型と順次大型化を進めていくと同時に、小型船によるきめ細かいサービス網も継続している。

2023年11月現在の運航隻数は31隻で、内訳は100TEU型10隻、200TEU型13隻、400TEU型3隻、600TEU型3隻、1000TEU型2隻。国内の寄港地は62港で、このうち55航路が週1便以上の定期航路となっている。22年度の輸送量は輸出貨物が回復したことに加え、輸入貨物、空コンテナ輸送も好調に推移し、輸送量は69万5000TEUと過去最高を更新した。

井本商運のサービスの柱のひとつがフィーダーサービス。これは外航コンテナ船が寄港するハブ港(京浜港や阪神港)と顧客の最寄港の間を内航コンテナ船で運ぶ、輸出入コンテナの“二次輸送”だ。北海道から九州まで全国をカバーする井本商運の航路網を活用することで、顧客の最寄港から世界各地への輸出入を実現。最寄港を経由することで陸上輸送区間を短縮し、主要港の陸上の混雑も回避できる。
もうひとつの柱が国内物流サービス、すなわち内航コンテナ船で国内貨物を運ぶサービスだ。国内の工場間や倉庫間の動脈輸送のほか、産業廃棄物や循環資源などを運ぶ静脈輸送にも対応。免税コンテナの国内運送手続きにより、輸出入用のISOコンテナを国内輸送に活用するだけでなく、井本商運所有のCOC(Carrier’s Own Container)も利用できる。

「内航コンテナ船を国内物流でも利用できること」「ISOコンテナ(20ft、40ft)で国内貨物を運べること」はまだ十分には認知されていない。「2024年問題」を前にモーダルシフトが注目される中、62港に寄港する航路網を持ち、地方港にも配船できる強みを活かし、国内貨物の輸送需要の取り込みを狙う。

日本海航路開設、1000TEU型も登場

同社はいま船隊の充実と大型化、航路の拡充を加速させている。「2024年問題」に加え、製造業の国内回帰の動きもあり、受け皿となる国内の輸送力の増強が求められているためだ。「鶏と卵の関係のように船・航路が先か、荷物が先か――と言われるが、当社は『船・航路が先』を信条としている」と井本社長は話す。

航路の拡充では、21年に敦賀港、舞鶴港、境港と神戸港を結ぶ内航フィーダーサービス(日本海西航路)を開始し、同社として初めて日本海航路を開設。続く昨年11月には北九州港(ひびき)経由で阪神港と新潟港・秋田港とを結ぶ内航フィーダーサービス(日本海東航路)を開設し、今年5月には寄港地に富山港を追加した。

船隊の充実と大型化では、22年4月に内航コンテナ船としては日本で最大級の600TEU型の「のがみ」を京浜~阪神~北部九州の定期航路に投入。今年5月には内航コンテナ船では最大の船型となる1000TEU型の3隻を投入すると発表。第一船となる「きそ」は6月に神戸港に初入港後、京浜~苫小牧航路に就航し、仙台港にも寄港する。

同じ1000TEU型の「かいふ」は7月に竣工後、日本海東航路に投入。400TEU型でスタートしたが、投入船型の大型化を図った。来年1月に引き渡し予定のリプレイス船「まや」(200TEU型)は瀬戸内・九州航路に投入予定。来年以降は「まや」を含めて200TEU2隻、400TEU型1隻、1000TEU型1隻を計画する。

日本海航路の開設には、内航フィーダーサービスを活用して国際コンテナ戦略港湾への集荷を強化する狙いがあるが、「同じ船で国際貨物も国内貨物も運べる」ため、日本海側の港にとって井本商運が寄港することは国内輸送網の拡充にもつながる。各港での集荷は順調で、この流れにブレーキをかけないためにも船隊の増強に踏み切った格好だ。

ISOコンテナで国内貨物を輸送する際に課題とされてきたのが、荷物の積み降ろしだ。ISOコンテナのドライバーは荷役作業を行わないため、工場や倉庫側での対応が必要になる。ただ、トラック輸送でも昨今はドライバーの荷役の廃止や別途有料化の動きが高まっており、荷役作業料など条件面での差が縮まりつつあるのも追い風となる。

また、工場や倉庫の敷地が狭く、コンテナ車両が入れなかったり、コンテナを「オンシャーシ」の状態で荷物を積み込むのに必要なスロープなどの設備がない場合でも、最寄港までトラックで荷物を持ち込み、ISOコンテナに積み替えて海上輸送するスキームも構築。国内輸送で内航コンテナ船を活用しやすくする提案も行っている。

若年船員の教育に注力、船舶の低炭素化も

内航業界が直面しているのが深刻な船員不足。井本商運では、一部船舶へ女性専用区画の確保や乗船研修者用居室、大型実習室の設置など、若年船員の教育船機能の向上にも取り組んでいる。社船員の採用を強化し、現在は約70人体制。新卒採用や若年船員の育成に注力し、Wi‐Fiの通信環境など船内居住環境の向上も図っている

また、グループ会社の神戸海洋技術は、操船シミュレーターを利用したブリッジ・リソース・マネジメント(BRM)訓練を立ち上げ、民間では初めて内航船員向け訓練のNK(日本海事協会)認証を取得した。機関シミュレーターも今年度中に導入を予定しており、甲板・機関両方からの船員教育を実施していく。

船舶の低炭素化も推進する。「のがみ」は波の抵抗を低減する垂直バウやゲート・ラダーシステム、流線型煙突、フル電子制御エンジンなどを組み合わせ、一層の省エネ運航を実現。今後は内航コンテナ船のEV化に挑戦するほか、来年投入する2隻は神戸港の陸上電源供給システムの受電に対応できるようにし、停泊中のCO2削減を目指す。
(2023年12月14日号)


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