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【ズームアップ】出版物輸送維持へ、商慣習の見直し機運

2023.11.09

出版物の輸送を維持するため、商慣習の見直しの機運が高まってきた。出版不況で運賃収入が減少する中で、燃料費の高騰やドライバー不足が輸送会社の経営を直撃。夜間の仕分け作業などを伴う出版輸送からの撤退や事業の縮小も相次ぎ、サプライチェーンの存続が危機的状況にある。雑誌、取次、印刷、製本、書店などの関係者は課題を共有したうえで、土曜完全休配日の増加や搬入時間の柔軟化など危機を克服するための具体策の議論が始まっている。

業量減少、輸送会社は撤退や事業を縮小

10月30日に開催された東京都トラック協会出版物関係輸送懇談会には、東ト協出版・印刷・製本・取次専門部会のほか、日本雑誌協会、日本出版取次協会、日本書籍出版協会、印刷工業会、東京都製本工業組合、日本書店商業組合連合会から代表者が出席。出版物にかかわるサプライチェーンの関係者が一堂に会し、「出版物輸送を存続していくための具体的な改善策」をテーマに話し合った。

冒頭、東ト協出版・印刷・製本・取次専門部会の瀧澤賢司部会長は、日本雑誌協会の物流委員会が8月、部会員を招いて「2024年問題」を乗り切るための「トラックフェス」を開催したことに謝辞を述べ、「物流を止めないために幅広く意見をお聞きしたい」と挨拶。日本雑誌協会の相賀昌宏販売委員会委員長は「言いたいことを言い合い、あきらめずに議論することが大事。改善を業界全体に広げていけるよう努力したい」と語った。

書籍と雑誌を合わせた出版物輸送の1日あたりの業量は年々落ちている。懇談会に参加した輸送会社によると「前年比で業量が1割減っていく危機的状況にあり、20年前と比べ登録ベースで車両数を30台減車した」。出版輸送からの撤退や事業の縮小などにより、部会員数も70社から20社まで減少。輸送会社からは、出版輸送のプレイヤーを増やすため、出版輸送独特の業務を取次主導で輸送会社向けに研修を行うとの提案もあった。

完全土曜休配日、来年度はさらに増加へ

日本雑誌協会と日本出版取次協会では、土曜休配日を年々増やしており2023年度は37日(うち25日は集荷作業なしの完全休配日)設定したが、輸送会社からは完全休配日を増やすことへの要望も強い。土曜日の仕分け作業は、「収入はないのに支出だけ発生することになる」からだ。日本雑誌協会によると、24年度は土曜完全休配日をさらに増やす方針で、まもなくリリースするという。

日本書店商業組合連合会からは、店舗開店前の夜間に届いている現行の出版流通の仕組みに対し、「助かっているし、最高の仕組みだと思っている」としたうえで、土曜休配日については「もともと出版の売上が右肩上がりだったころに、書店で休みがほしいということで土曜休配がスタートした。書店も人手不足で、週休2日は当たり前の世の中だ。一方で、客注分が遅れてしまうのはどうかという問題もある」と述べた。

固定費抑制へ輸送会社の「協業化」も提案

日本出版取次協会からは、輸送会社の「協業化」も提案された。業量が減っている中で、首都圏の配送(自家配)のエリアを再編し、より効率的なコース設定を行うとともに、固定費を抑えるために輸送会社のデポの協業化も有効だという見方だ。「東ト協出版・印刷・製本・取次専門部会の部会員が共同でドライバーを募集し、足りない会社に補充していく」という斬新なアイデアも出された。

印刷工業会からは、トラックを集車しやすくするため、①時間指定の納入先の削減②午前中集中型の納品体制の柔軟化③搬入連絡表送付の前倒し――が提案された。東京都製本工業組合からは、製本の種類によってより得意な会社を活用することで効率化が図られると指摘。日本書籍出版協会は、物流問題についての重要性を新入社員の段階から理解してもらう研修会の構想を披露した。
(2023年11月9日号)


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