メニュー

【レポート】「競争」から「協調」へ――宅配便の最前線

2023.07.27

宅配便業界が大きな曲がり角を迎えつつある――。長らくヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3強による競争によってけん引されてきた業界だったが、とくに激しい競合関係にあったヤマト運輸と日本郵便が6月に協業することで基本合意し、風向きが変わった。ドライバー不足や「2024年問題」が大きな課題として各社にのしかかるなか、経営資源の有効活用を図る観点から、ライバル同士が手を握る〝協調〟に舵を切ったことになる。

薄物小物は日本郵便のネットワークに統合へ

両社は第1弾として、メール便とポスト投函型宅配サービスで協業する。ヤマト運輸は2024年1月に「クロネコDM便」を廃止し、日本郵便の「ゆうメール」のネットワークを活用した新サービス(仮称・クロネコゆうメール)に移行。さらに、ヤマトのポストイン商品である「ネコポス」も今年10月からサービスを順次終了し、日本郵便の「ゆうパケット」を活用した新サービス(仮称・クロネコゆうパケット)に段階的に移行して、25年3月末までに国内全地域での移行を完了する予定。

佐川急便は、すでに日本郵便と協業関係にあり、21年11月から佐川が引き受けた薄物小物のポストイン荷物を「飛脚ゆうパケット便」として日本郵便に差し出している。このため、今後はメール便を含めた3社のポスト投函型宅配サービスは、すべて日本郵便のネットワークに集約されることとなった。

協業を発表した6月の記者会見でヤマト運輸の長尾裕社長は、「ヤマトの強みは〝ハコ〟の宅配であり、ポスト投函型サービスのネットワークや安定性は日本郵便に敵わない」と認め、業務委託によって生じた経営リソースを他業務で有効活用していく考えを示した。

なお、ヤマト運輸と日本郵便は、第2弾として冷凍・冷蔵宅配分野で協業していくことを検討している。ヤマトは現在、ネットワーク構造改革の一環としてクール宅急便ネットワークの再編・強化に取り組んでおり、それが一定程度完成したタイミングで日本郵便の保冷荷物の引き受けを開始するとの観測が強い。

関係者はこうした動きについて、「ポストイン荷物は、郵便ネットワークを持っている日本郵便が圧倒的に強く、冷凍・冷蔵宅配の分野は車両に保冷室を完備しているヤマトが強い。今後も各社が強みを持っている分野に〝寄せていく〟という合理的な戦略が進むのではないか」としている。

リソース共有が避けられない時代に

3社がかつての〝競争モード〟から〝協調モード〟に移行してきた背景には、トラックドライバー不足や「24年問題」によって宅配ネットワークの維持や持続性確保が徐々に難しくなっていることがある。

22年度の3社の合計取扱個数は46億7800万個となり、前年度から1・0%、約4500万個と微増にとどまったほか、今期に入っても前年割れ基調が続いている。関係者は「昨年下期に原材料費の高騰による製品値上げが続いて以降、消費低迷によってEC販売が低調に推移している。とくに価格に敏感な消費者は、リアル店舗よりも送料などで割高感のあるECを敬遠している傾向も見られる」と指摘する。

ただ、足元では踊り場状態にあるものの、日本のEC化率はいまだ10%以下にとどまっており、中長期的に拡大傾向をたどることはほぼ間違いない。将来にわたってネットワークを安定的に維持していくためには、協調によるリソース共有は避けて通れない選択だったとの見方が多い。会見で長尾氏は「長い目で(宅配)ビジネスを見ていく中で、限られた経営資源をどこに振り向けていくべきなのか、どこかのタイミングで判断すべきと考えていた」と述べ、中長期を睨んだ上での経営判断だったことを強調していた。

今後のヤマト、佐川、日本郵便の戦略は…

こうした状況の中で、3社の宅配事業におけるポジショニングはどうなっていくのか――。

ヤマト運輸は、ポストイン商品などを日本郵便に委託することで生じる余力を、通常の宅急便を中心とした〝ハコ〟の荷物の拡大に投じていく。その一環として、法人ビジネス領域の開拓を進め、より川上領域から押さえることで、そこから発生する宅配需要を取り込む。また、ネットワーク・オペレーション構造改革に取り組んでおり、最盛期で全国に約4000ヵ所あった宅急便営業所を27年3月期末までに約1800ヵ所程度まで集約する。

並行してセールスドライバー(SD)の働き方などの見直しにも取り組む。現在、SDに求められる業務がマルチタスク化していることから、機能を「営業」「配達」「集荷」などに細分化した上で、職務に応じた働き方や待遇に切り替えることを検討中。営業渉外に特化した「SD」に加え、配達特化型の「DD(デリバリードライバー)」、集荷特化型の「PD(ピックアップドライバー)」などを創設し、近く一部地域で実施していく考え。

佐川急便は〝巡航速度〟で宅配便と向き合っていく。同社の22年度の飛脚宅配便の取扱個数は0・7%減の13億5900万個と前年割れ。ただ、同社はここ数年、〝個数より単価〟の戦略を明確にしており、着実に収益力を高めている。また、デリバリー事業の中でも〝宅配便以外〟の事業拡大に注力しており、同社がTMSと呼称する輸送サービスの売上高は22年度に1197億円(21年度比172億円増)になるなど、高い伸びを見せている。

今後は、大型中継センターの新設などで輸送ネットワークインフラを強化していく。26年7月に兵庫県尼崎に関西圏の中核拠点を整備することで、輸送キャパシティを拡大するとともに、運行便の集約による幹線運行台数の削減も両立していく。関東圏ではすでに21年に「Xフロンティア」(東京都江東区)内に大型中継センターも整備しており、東西に大型中継拠点を設けることで、今後の物増量に対応していく。

日本郵便は、郵便ネットワークに支えられた〝配達力〟〝届ける力〟に重心をかけた戦略を強化していく。とくに、小型EC商品やフリマアプリなどの需要を見込んだポスト投函型宅配サービスを事実上〝独占〟することで存在感を高めていく。ただ、今後は、量的拡大に比例した人員確保が大きな課題として浮上する可能性がある。同社は普通郵便の配達日数を一日延長することによって生じた人員を荷物分野に投入するなどの手立てを講じてはいるが、関係者からは「ヤマトなどから荷物を請け負う一方で、労働力の調達などに追われ〝豊作貧乏〟になるのでは」とのリスクも指摘されている。
(2023年7月27日号)


関連記事一覧