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西久大運輸倉庫、国内初「ドローン物流網」構築へ始動

2022.12.27

西久大運輸倉庫(本社・福岡市東区、伊東健太郎社長)は2023年中を目途に、「ドローン物流網」の構築を目指す。まずは創業の地・福岡県うきは市でドローンの域内定期運航を開始したい考えにあり、今年10月に同市とトルビズオン(本社・福岡市中央区、増本衛社長)との連携協定を締結した上で、翌11月には実証実験を実施。実験の結果をもとに本格稼働へのロードマップを作成し、同市での「モデルケース」が完成した折には、近隣自治体への水平展開も図る。

輸送モードのひとつとしてドローン物流を整備

うきは市で構想する「ドローン物流網」は、西久大運輸倉庫の配送センターなどから市内各所のドローンポートへ、ドローンが荷物を運ぶ輸送サービス。たとえば通販荷物などを注文した場合、通販会社の倉庫から西久大運輸倉庫拠点へ幹線輸送され、最寄りの同社配送拠点へ軽貨物車両などで横持ちした後、同所から通販購入者が指定するドローンポートまでドローンで空輸し、到着した荷物を購入者がドローンポートへ受取りに行くような仕組みを想定する。

「当社が持つ既存の物流アセットなども組み合わせながら、ドローンでいつでも運べるようなサービスを作る」とドローン事業部の小柴大河部長は説明する。とくに、うきは市は筑後川をはじめ大小様々な河川が流れ福岡都市圏まで河川でつながっており、その上空にルートを設定すれば地権者との調整が進めやすく、安全性も確保しやすいというドローンを活用しやすい地理的優位性がある。同市は総面積の約半分が森林で、空の輸送ルートを作ることで買い物弱者支援をはじめとする地域貢献や、物流の効率化にも寄与。もちろん、災害時には空撮による風水害被害の調査や道路分断時の物資輸送などへの活用も可能だ。

ドローン物流網の実現に向けて、まずは11月にうきは市で実証実験運航を実施。JAの農産物直売所「にじの耳納の里」から西久大運輸倉庫が保有する「屋部地蔵公園」までの2・7㎞を、ドローンに地域の特産物である柿・トマト・ジビエを積んで輸送した。西久大運輸倉庫が実施主体となり、トルビズオンが機体の提供や飛行ルートのプログラミング、保険や補償の設計などを担当した。

実験では輸送中に自衛隊の航空機が通過するなどイレギュラーも生じたが、安全を確保した上で問題なく商品を運ぶことができた。目的のひとつには、うきは市全域におけるドローン物流網への社会受容性を計る狙いもあったが、市長をはじめ多くの関係者が観覧に訪れ、地域からもドローン物流の実現を待望する声が寄せられた。飛行ルートの地権者には当初不安も見られたが安全性が確認できたことでドローンへの理解を得られたという。

久留米市や博多市などへ「空の道」を広げる

実証実験は「成功だった」と中沼歩課長も振り返る。その結果を用いて、今後はドローン物流網構築の実現に向けたロードマップの作成と、サービス化への検証を継続する。今月、航空法改正で解除されたレベル4(有人地帯における補助者なし目視外飛行)による実証実験の実施や運賃のトライアルなども予定。貨物やルートについても、うきは市や荷主企業などと協議を進めていく。

具体的な利用案として浮上しているのが、うきは市に建設中の大型宿泊施設とのコラボレーションだ。施設内にドローンポートを用意し、宿泊客へ近隣飲食店の弁当や総菜、青果物などの地域特産品をドローンで届ける「ドローンフィールドデリバリー」(仮称)の実装を想定。同施設は来年夏の開業予定にあり、宿泊客を呼び込むPRも兼ねてサービス化を検討していく。このほか、薬局間における医薬品の移送などでもドローンの利用が見込まれるという。

うきは市でドローン物流網が構築できた際には、同市の仕組みを「モデルケース」として他の地域にも水平展開したい考えで、対象としては、隣接する久留米市や福岡市を候補に挙げる。一方で、こうした地域はうきは市と人口密度や社会課題が異なり、実証実験などを通じて、それぞれの土地の特性に応じたドローンサービスを開発していく。併せて、ドローン輸送を手配する際の受発注システムの準備も進め、ノウハウを持つシステム会社との提携も視野に入れる。

新しい物流への挑戦で既存事業とのシナジーも

西久大運輸倉庫では今年1月頃からドローン物流の事業化への検討を開始。5月には「ドローン事業部」を発足し、①ドローン物流網の構築に向けた自治体やドローン関連事業者との連携強化、②既存取引先等へのドローン体験会やイベントなどの関連サービスの提供――に取り組んできた。ドローン事業部には現在、小柴氏と中沼氏の2人が所属し、ドローンも5機を保有する。ドローンに着目した経緯について小柴氏は「物流事業のシナジーを活かしつつも、既存事業の延長線上でなく、付加価値の高い、新たなビジネスで事業成長に貢献したいと考えた」と説明する。

同社は創業105年を迎える総合物流会社で、トラックや鉄道による幹線輸送から軽貨物車両でのラストマイル輸送、倉庫保管にも対応する豊富な物流メニューが強み。経営理念には「新しい物流へ挑戦し続けること」の一文があり、これまでも新たな技術やシステムを取り入れることで成長を続けてきた。ドローンという次世代の輸送モードを既存のアセットと組み合わせることで「新しい物流サービスを誰より早く展開したい」と意欲を示す。

反面、「実現には商用飛行がどれだけ社会的に開かれるかがカギ」と指摘。ドローンは点検や農薬散布などの場面では商用化が進むが、広域を飛行する物流サービスとしては各社とも実証実験レベルに留まる。事業化の前提として日本社会にドローンが受け入れられる必要があり、そうした機運の醸成も含めて、「浸透するのは20年代後半から30年代になるだろう」と見る。

収益化についても「5年単位の時間軸が必要」と同氏。商用化に向けた技術や法の整備は始まったばかりだが、「23年度以降は操縦士の国家資格も制度化される計画にあり、将来的に操縦士1人で複数のドローンを運航できるようになれば収益化はしやすくなる」と注目する。同社ではそうした時期にいち早くビジネスを拡大展開できるよう、準備を進めていく。
(2022年12月27日号)


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