「タク配」10月以降継続するも8割は撤退
国土交通省はタクシー事業者による食料や飲料の宅配(デリバリー)を認める制度を10月以降も継続する。新型コロナウイルス感染症拡大により旅客需要が減少したタクシー事業者の経営支援策として特例により2年前から始まった制度だが、一定の需要継続の意向を受け、継続が決定した。事業許可の期限はあるものの要件を満たせば延長は可能だ。ただ、開始当初と比べると8割の事業者が撤退し、許可を受けているものの事業開始届を出さず、実際はデリバリーを行っていない〝幽霊〟タク配事業者も存在するという。
飲食物デリバリー、一定の需要が継続
タクシーによる飲食物宅配(タク配)は、2020年4月に新型コロナウイルス感染症拡大に対応した特例措置として始まった。2年が経過した現在も一定の需要が継続していることなどを受け、制度の継続を認めることとした。
制度の推移を振り返ると、道路運送法に基づきタクシー事業者が有償で食料や飲料を運送できる特例措置は20年9月末にいったん期限を迎えていた。その後コロナ禍が長期化する中、一定の需要が継続することが見込まれることから、同年10月に貨物自動車運送事業法(第3条)に基づく許可を受ければ2年の期限で継続できるようにしていた。
今回、8月末までのパブリックコメントで寄せられた意見を精査した上で10月以降も制度を継続することとした。新制度では、飲食物デリバリーを行うタクシー事業者は許可取得日から起算して許可期限を1年間とし、期限後も事業を継続する場合、要件を満たせばさらに1年間許可期限を延長できるようになる。
交付金活用の一方、コロナ後は撤退が増加?
実質3年目となるタク配だが、事業者数はどう変化したか――。最初の特例措置が期限を迎えた20年9月末時点での事業者は1754者、車両は5万4430台だったが、同年10月1日に貨物自動車運送事業法に基づく許可制度に移行した後は申請した事業者数は約4分の1の425者に減り申請車両数は半数の2万2477台となった。
その後21年6月末時点での申請事業者数は454者、許可を受けた事業者数は307者、申請車両数は2万6172台、許可車両数1万3638台。今年8月末では、許可事業者が364者、申請車両数は1万6123台。特例措置の開始時と比べると約8割の1300社強が撤退したことになる。現在でも許可取得のみの事業者もあり、実際に宅配事業を実施しているのは許可事業者の6割相当の222者だった。国交省関係者は「自治体によるコロナ禍対策交付金を活用した積極的な事業展開もみられる」と話す。一方、業界関係者からは「補助金の交付があるのでデリバリー事業を行っているタクシー会社もある。コロナが落ち着いて交付金がなくなった後は〝タク配〟から撤退する事業者が増えるのではないか」との見方もある。
許可申請件数などを都道府県別にみると、申請が最も多かったのは東京都で43者(実際に宅配を開始したのは30者)。次いで北海道の35者(同22者)、愛知県の26者(同22者)、福島県16者(同6者)、宮城県14者(同12者)、静岡県14者(同11者)、大分県14者(同8者)が並ぶ。
競争激化、実質的な〝生き残り〟問われる
東京商工リサーチによると、22年上半期のタクシー業の倒産(負債1000万円以上)は13件(前年同期比2・6倍)と急増。上半期では3年ぶりに前年同期を上回った。タクシー業倒産13件のうち、「新型コロナ関連倒産」は10件で、長引くコロナ禍での人流変化で利用者の激減が経営の打撃となっている。
政府の資金繰り支援や雇用調整助成金などの下支えで倒産は抑制されているものの、支援効果は次第に薄れ、資金余力が乏しい小・零細規模のタクシー業者の経営は厳しさを増している。飲食物デリバリー分野はギグワーカーを活用したビジネスモデルなどとの競争も激化しており、タク配は制度だけでなく実質的な〝生き残り〟も問われている。
(2022年9月15日号)