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軽乗用車を使った貨物運送を〝解禁〟=国交省 

2022.10.11

国土交通省は今月中旬以降をメドに軽乗用車による貨物運送を〝解禁〟する。これまで軽自動車で貨物運送事業を行うには軽トラックを使用することが原則だったが、今後は軽乗用車で貨物運送事業を開始できるよう〝規制緩和〟する。労働力不足を背景にラストワンマイル配送の担い手確保が期待される一方、配送を請け負う個人事業主が急増し、運賃の下げ圧力となることを懸念する声もある。

黒ナンバーが必要、「構造変更」は不要に

政府は6月7日に閣議決定した「規制改革実施計画」で、eコマースの拡大を背景にラストワンマイルの配送需要が増大する一方、配送業務の担い手確保が大きな課題だと指摘。貨物軽自動車運送事業で使用できる車両が軽トラックに限られている現行の運用について、軽乗用車を事業用途で使用できるよう、できるだけ早く必要な措置を講ずるよう示した。

国交省はこれを受け、貨物軽自動車運送事業の経営届出の受理の際の運用を変更することで対応することを決め、これまで必要としてきた後部座席の取り外しなしでも事業用に使えるようにする。軽トラックを使用した一般的な貨物運送事業を経営するには営業所を管轄する運輸支局に届出が必要で、この制度そのものは変わらない。国交省の関係者は「乗用車のオーナーがそのまま有償貨物運送を行えるわけではない。管轄する運輸支局に届出を行った後、あくまでも事業者として軽貨物運送を始めることになる」と注意を促す。

事業者は経営届出書と運賃料金設定届出書を提出し、受理された後、届出した営業所を管轄する軽自動車検査協会で営業用ナンバー(黒ナンバー)を取得して営業を開始する。ただ、これまでは運輸支局が経営届出を受理する際、使用する軽自動車の乗車定員が貨物運送に適したものであることが法令で定まっているため、4人乗りの軽乗用車の後部座席を取り払い、その空間を荷室とするよう車両の「構造変更」を指導していた。今回の新たな措置では、後部座席を前方に倒せばフラットな空間となり、段ボール箱などを積載できることから、後部座席を残したままで事業用に使用できるようにする。軽貨物運送を始める個人事業主にとって、車両を改造する必要がなくなり、軽貨物運送業を開業しやすくなる。

最大積載量は軽トラの半分以下

軽乗用車の最大積載量は軽トラックとの差を設けた。軽トラックの場合、道路交通法により最大350㎏までの荷物を積載することが可能だが、軽乗用車では軽トラックの半分弱にあたる最大165㎏にとどめた。165㎏の根拠は、道路運送車両法が軽自動車の総重量を車両本体の重量に乗車定員「4人×55㎏=220㎏」と最大積載量を合わせた重量としていることに準じ、貨物の積載を想定して設計されていない乗用車ではドライバー1人が乗車する分を除いた「3人×55㎏=165㎏」とした。

フーデリ業界は期待、運賃相場はどうなる?

今回の〝規制緩和〟はフードデリバリー業界も積極的に後押しする。政府の規制改革実施計画が閣議決定された同日、ウーバーイーツ、出前館、メニュー、ライドオンエクスプレスホールディングス、ウォルト・ジャパンなどが加盟する日本フードデリバリーサービス協会(JaFDA)は自民党フードデリバリーサービス振興議員連盟とともに斉藤鉄夫国交大臣を訪問。軽乗用車を配送業務で使用する規制緩和の要望書を斉藤大臣に手渡した。その中で「降雪時や大雨強風時など自転車や原動機付自転車(原付バイク)による配達が困難な時期であっても軽乗用車を利用することで配達が継続できる」と指摘したほか、「より長距離の配達が可能となり、サービス提供範囲を拡大できる」と提言。JaFDA理事の野地春奈氏(ウォルト・ジャパン代表)は「現在、全国で30万台の事業用軽貨物車両が配送業務を担っている。(規制緩和により)2300万台の軽乗用車での配達が可能となり、配達エリアや配送対象の裾野が格段に広がると考えている」と述べ、行政の支援を訴えた。

こうした動き対し、業界関係者からは規制緩和を受けて軽貨物運送市場への参入者が急増するとの見方も出てきた。現時点で数は見込めないものの、多数の個人事業主の参入がラストワンマイル配送の需給バランスを崩し、運賃引き下げの圧力となることを懸念する声もある。
(2022年10月11日号)


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