ヤマト運輸、中計の残り2年で構造改革に一定のメド
ヤマト運輸(本社・東京都中央区)の長尾裕社長(写真)らは3日、都内の本社で専門紙誌との懇談会を開催し、経営構造改革の進捗状況などを説明した。長尾氏は中期経営計画の1年目だった前期について、「リアルにOneヤマトになったことが、ビジネスとしてちゃんと動くように取り組んだ1年だった」と振り返るとともに、「従来からの経営資源をそのまま使うのではなく、これからの社会の変化などに合致する形でいかに作り変えるかを、プランニングしつつ段階的に進めている」と取り組みについての現状を報告。オペレーションや輸配送ネットワーク、法人営業、グローバル戦略といった各分野の構造改革について「やることが多いので、それなりの時間がかかるが、中計の残り2年で構造改革のメドをある程度つけ、次のステップに進みたい」との考えを示した。
前期はOneヤマト体制がビジネスとして動くように取り組んだ1年
説明会には長尾氏のほかに、恵谷洋専務執行役員(法人営業・グローバル戦略統括)、鹿妻明弘専務執行役員(輸配送オペレーション統括)、秋山佳子執行役員サステナビリティ推進部長、福田靖執行役員グリーンイノベーション開発部長が出席。各氏が担当分野と現状と今後の取り組みについて語った。
長尾氏は冒頭、「2年前の2020年1月に『YAMATO NEXT100』として中長期のビジネスプランと経営構造改革プランを発表した。その直後からコロナ感染が拡大し、翌21年春に中期経営計画を発表するまでの1年は、生活様式とビジネス様式の大きな変化にどのように対応するかに追われた。大きな変化に対応しながら中計の中身を詰め、昨年春からリアルのOneヤマト化、つまり主要9社の事業会社を統合した新しい形でのヤマト運輸として歩みを始めた」と、この2年間の動きを振り返った。
その上で、「ヤマトホールディングスの下に機能別の事業会社を並べるスタイルを長く続けてきたこともあり、統合はそれほど簡単な話ではなかった。この1年はリアルにOneヤマトになったことが、ビジネスとしてちゃんと動くように取り組んだが、苦戦した部分もあった」と総括した。
また、宅急便を取り巻く事業環境の変化に言及し、「宅急便を開始して46年が経過したが、CtoCでスタートした宅急便はいまや、法人顧客の出荷が9割を超えるまでになった。さらに、出荷の半分を大口クライアントが占め、セールスドライバー(SD)が集荷する荷物が半分になっており、いつまでも宅急便のパッケージだけを買っていただくビジネスではないと、数年来社内で議論してきた。そうした中で、バリューチェーンの上から下までをカバーできる機能をひとつの会社の中に持ち直したことで、従来、宅急便でお付き合いを深めてきたお客様に対して、統合した機能をひとつの会社で提案し、お客様の課題解決や価値創造に結び付けることが可能になる体制がスタートした。この1年は、手直ししなければいけないことが見つかる度に直しながら、今、2年目を迎えている」と説明。「従来の経営資源をそのまま使うのではなく、これからの社会の変化などに合致する形でいかにつくり変えるか、並べ変えるか、配置し直すか――そうしたことをプランニングしつつ段階的に進めている」と構造改革の〝現在地〟を語った。
アカウントマネジメントで〝世界で戦える会社〟に
続いて、恵谷氏が法人営業・グローバル戦略について説明。伊藤忠ロジスティクスやDHL、楽天、三井倉庫ロジスティクスなど数多くの物流会社を経て、一昨年11月にヤマトに入社した同氏は「時にパートナー、時にコンペティターとしてヤマトを見てきたが、世界に誇るべき文化、社会インフラとしての機能を持った会社だと思っていた。以前から力になりたいと思っていたが、こうした形で責任を持って取り組めることは嬉しい」と述べた上で、「私のミッションは平たく言うと、ヤマトを〝世界で戦える会社〟にすること。そのためには〝お客様に深く入っていく能力〟が必要だ」として、アカウントマネジメントの重要性を強調した。
具体的には、「ヤマトが持っている顧客ポートフォリオは、おそらく日本で一番大きいが、グローバル企業から個人事業者まで混在しており、すべてに同じやり方は通用しない」として、グローバルアカウント、ナショナルアカウント、エリアアカウントなどにレイヤー分けして顧客対応していくとともに、各産業に深く入り込んだプロ集団づくりを進めていると説明。
さらに、「ヤマトとして今までばらばらだったものをどう組み合わせて新たな強みを作るか――。例えば、旧ヤマトロジスティクスは3PL、コントラクトロジスティクスの発想。一方、ヤマト運輸はネットワークの中でモノを運ぶ運送会社の発想であり、この2つがバラバラだと強みにならない。新たなOneヤマトでは、日本全体を巨大な物流センターと捉え、その中でいかに在庫を流動させたり、輸送中のモノを止めたりもできるか――それが新しいヤマトの強みになる」と語った。
変化に対応したネットワークの再構築に着手
日産自動車、アマゾンジャパン副社長を経て、今年5月にヤマト入りした鹿妻氏は、「ヤマトに入って毎日ワクワクしている。ヤマトは日本の大事な社会インフラであり、おそらくヤマト抜きには誰も生活できない。その中でどのような価値を提供できるか、よりよい社会や住みやすい生活をつくっていけるのか――そこに少しでも貢献していきたい」と抱負を語った。
同氏は、EC化に伴う法人顧客の増加など宅急便を取り巻く近年の外部環境の変化として、①CtoCが中心だった時代の集荷ネットワークをベースにした宅急便センターのあり方を変え、大型化・集約化する必要性②関東発の荷物の激増による地方との発着のインバランス化③コロナ禍を契機としたクール宅急便の需要増加――の3点を挙げ、こうした変化に対応したネットワークの再構築に取り組んでいくとの考えを示した。
また、デジタル化によるオペレーションの見直しについて、「(これまでのヤマトは)人がアナログ的な差配を担うことで素晴らしい商品やサービスをつくってきたが、こうした人が慮って全体のネットワークをうまく流している部分をデジタルがもっと支援できれば、属人的ではなく、皆が働きやすい環境になる。現場にアイディアがあり、それをデジタルでサポートすることでもっと働きやすい環境をつくることができれば、コストも自然に最適化される」と述べ、「今期はそこに踏み込むことになるだろう」と語った。
2年で改革に一定のメドをつけ、次のステップへ
記者との質疑応答で、「YAMATO NEXT100」が掲げた目標にひとつである「お客様に向き合う時間を増やす」ことの成果を問われ、長尾氏は「都市部を中心にラストマイルのネットワークを宅急便とECネットワークに分離したことで、SDがセールス活動に向き合える状況になってきている。また、従来のヤマトはSDしか営業をやってこなかったが、現在は法人顧客向けに営業マンが組織化されてきており、この部分の質と量をさらに増やす必要がある。成果についての感覚としては、まだ半分までは来ておらず、3~4割ぐらいだと思う」と達成状況について語った。
さらに、一連の構造改革がコスト面などで一定程度の成果を生み出すタイミングについて、長尾氏は「やることが多いので、それなりに時間は掛かるが、まずは中計の残り2年でどこまでたどり着けるか。拠点集約・大型化などコスト構造改革に寄与してくる基礎的なものは、この2年である程度やりたいと思っている。ただ、それで完成ではない。中計の業績目標は営業利益6%でそれほど高くはなく、まだまだ無駄がある。本日お話ししたことを積み上げていくと、次のステップにつながっていく」と述べた。
鹿妻氏はクール宅急便の需要増加について「19年まではしばらくフラットだったが、コロナ禍になった20年、21年の2年で2割くらい伸びている。しかも、これまではドライの空いたスペースで運んでいた部分があるので、ポテンシャルはもっと高く、キャパシティを用意すればもっと使ってもらえるのではないかと考えている」と、新たなクールのネットワークを構築していく考えを示した。
サステナビリティをいかに経営に統合させるか
説明会ではこのほか、秋山氏がサステナブルの取り組みについて、福田氏がグリーンイノベーションについて、それぞれ取り組みを説明。
秋山氏は「中計の中で、サステナビリティ領域だけはあえて、具体的に目標や取り組むべきことを別建てで発表している。また、目標を実行推進する部署として昨年4月にサステナビリティ推進部を立ち上げた」と取り組み状況を紹介するとともに、「ミッションは、サステナビリティの取り組みがヤマトグループの成長にしっかりつなげられるよう、いかに経営と統合させるかだ」と述べた。
また、福田氏は今年5月に発表した「2030年にCO2排出量を20年度比で48%削減する」という目標について、「30年までに2万台のEVを導入していくことが決定している。また、EVの導入を本格化していくと、CO2フリーな電気をいかに調達するかが課題になる」と述べ、30年までに全国810ヵ所で太陽光発電設備を導入していく計画を説明した。
(2022年6月9日号)