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ネスレ日本が「共通価値の創造」へモーダルシフト推進

2022.02.17

ネスレ日本(本社・神戸市中央区、深谷龍彦社長兼CEO)は、サステナビリティへの取り組みを加速し、バリューチェーン全体を通した環境への配慮に取り組んでいる。物流分野では環境負荷の少ないモーダルシフトを推進し、北関東~新潟間の鉄道輸送では、農産物用の空回送コンテナを有効利用し、貨物駅を疑似的な在庫拠点と見なす新たなモデルを構築した。同社の目下の物流課題は、拡大するボトルコーヒーの需要への対応。物流面でのキャパシティ増強を図るとともに、トラックドライバー不足や労働時間規制強化に備えたストックポイント(SP)の拡充・見直し、各拠点での輸配送効率の向上にも取り組む。

モーダルシフト、各種表彰制度でも受賞実績

世界最大の食品飲料企業、ネスレの日本法人であるネスレ日本――。日本では霞ヶ浦工場(茨城県稲敷市)、島田工場(静岡県島田市)、姫路工場(兵庫県姫路市)の3拠点体制で、飲料、菓子、栄養補助食品などを製造する。コーヒー市場での圧倒的なシェアに加え、近年は霞ヶ浦工場、島田工場で生産する「ネスカフェ ボトルコーヒー」(液体飲料)が急成長を遂げ、市場トップシェアを確立している。

ネスレが掲げる「共通価値の創造」の一環として、2000年代からモーダルシフトに取り組んできた。「エコレールマーク」、「エコシップ・モーダルシフト事業優良事業者」の認定を取得し、2010年代以降はトラックドライバー不足という社会課題解決も目的とし、取り組みを加速。現在、700㎞超の長距離補充輸送における鉄道、海上へのモーダルシフト率はグロッサリー製品においてほぼ100%を達成し、各種表彰制度でも受賞の実績を重ねている。

貨物駅を“倉庫”として活用、安定供給へ

モーダルシフト推進の転換期となったのが11年。鉄道輸送拡大に向け、ネスレ日本、全国通運、JR貨物の3社で「神戸モーダルシフト協議会」を立ち上げた。以降、14年の「イオン専用列車」への参加に続き、15年には静岡~福岡間でイオンとの往復鉄道輸送を実現するなど取り組みは年々進化している。16年には霞ヶ浦工場と姫路工場間の社内物流で、関東~関西間の往復輸送を開始した。

JR貨物と連携し、鉄道輸送の競争力向上に向けた新たなソリューションの開発にも挑戦している。18年には、土浦駅において貨物駅を“倉庫”として活用する「土浦モデル」を開発。貨物駅構内でコンテナの状態で保管することによって、顧客への配送のタイミングを調整できるため、トラックドライバー不足の環境下でも安定供給が図られるとともに、倉庫の事実上の無料化を実現した。

産業を跨いで季節需要に伴う輸送力不足を補完

20年には、JR貨物、全国通運との共同プロジェクトとして、新潟県からの米の輸送で使用される鉄道コンテナを有効活用する取り組みを開始した。秋の米の収穫期の出荷に合わせ、夏の間に大量に関東圏から新潟貨物ターミナル駅に空コンテナが回送されていることに着目。夏に最需要期となる「ネスカフェ ボトルコーヒー」をこの空コンテナに積んで新潟向けに鉄道輸送する新たなスキームに挑戦した。

霞ヶ浦工場で生産されたボトルコーヒーをトラックで神栖駅に持ち込み、新潟貨物タ駅まで鉄道輸送。先行する「土浦モデル」と同様、貨物駅を“倉庫”とみなし、コンテナの状態で新潟貨物タ駅構内に一時保管し、ネスレの顧客からの受注に基づいて顧客に配送する。この「新潟モデル」では、霞ヶ浦工場から新潟県への配送トラックを30台、CO2を年間で21・9t(20年)削減した。

この取り組みは「産業を跨いだ新たな鉄道運送水平共同モデル」として、JR貨物、全国通運、中越通運、鹿島臨海鉄道、鹿島臨海通運とともに、21年度のグリーン物流パートナーシップ会議の最高賞である「経済産業大臣賞」を受賞。季節需要に伴う輸送力不足をお互いに補完し合う、一次産業と二次産業の協業や、貨物駅を“倉庫”として活用する新規性が高く評価された。

「2024年問題」に向けSP拡充、見直しも

海上輸送では、日本気象協会、川崎近海汽船とともに気象予報を活用したモーダルシフトを15年にスタート。ボトルコーヒーは気温によって需要が大きく変動し、日本気象協会ではネスレに日本各地の2週間先気象予測情報を、川崎近海汽船には最適航路計画や気象・海象予測を提供。ネスレは気象情報を活用して輸送量を早期に決定できるようになり、生産拠点から長距離となる北海道・九州方面への出荷で内航船の利用につなげた。

ネスレの国内物流拠点は常温が7ヵ所、低温が6ヵ所。トラックドライバーに罰則付きの時間外労働規制が適用される「2024年問題」に向け、長距離輸送を削減するため、中継拠点となるSP拡充も計画する。新潟のようにトラックが調達しにくい「難配送エリア」では、鉄道輸送と組み合わせ、トラックの輸送距離を短縮するため、貨物駅をSP化することも選択肢。トラックの調達環境を見ながらSPの配置はフレキシブルに見直す。

各拠点での輸配送の効率化にも取り組む。ボトルコーヒーの最需要期のトラックの集中に伴う待機を抑制するため、工場ではHacobuのトラック予約受付サービス「MOVO Berth」を導入。繁忙期の運送会社への配車依頼ではラクスルの「ハコベルコネクト」を採用し、確定したオーダーに対する納品率の大幅な改善とコストの削減、業務の効率化を実現した。今後は配車のみならず、集車から運送費の支払いまで活用範囲を広げたい考えだ。
(2022年2月17日号)


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