アサヒビール/伊藤忠食品、トラックの共同利用で輸配送効率向上
メーカーと卸による物流共同化の取り組みが本格化してきた。アサヒビール(本社・東京都墨田区、塩澤賢一社長)は伊藤忠食品(本社・大阪市中央区、岡本均社長)とトラックの共同利用を開始。トラックドライバー不足が深刻化し、車両の手配がさらに困難になると予測される中、それぞれが手配したトラックを相互に活用する新たなスキームを構築。必要な車両台数は半分になり、実車走行距離が2倍に向上するなど運送会社の運行効率アップにもつながっている。
相互活用により空車で戻る非効率を解消
アサヒグループでは同業他社との共同物流を積極的に推進しているが、異業種との共同物流にも乗り出している。従来、アサヒビールと伊藤忠食品は自社の配送の枠組みで車両を手配しており、空車の回送や低積載区間の発生が課題となっていた。そこで2020年から、車両の相互活用に向けた検討を開始。同年末からの実証実験を経て、今年4月26日から車両の共同活用を本格的にスタートした。
新たなスキームでは、アサヒビール神奈川工場が出荷した製品を運ぶトラックは、伊藤忠食品の相模原IDCに納品した後、伊藤忠食品の相模原IDCからイトーヨーカドー小田原店への店舗配送を行う。一方、伊藤忠食品の手配した車両は相模原IDCからイトーヨーカドー静岡店への店舗配送を行った後、アサヒ飲料の富士山工場に向かい、富士山工場からアサヒ飲料厚木配送センターへと拠点間輸送を行う。
従来はアサヒビールが2台、伊藤忠食品が2台で計4台の車両を必要としていたが、車両の相互活用により半分の2台で行えるようになった。アサヒビール神奈川工場を出発したトラックが伊藤忠食品の相模原IDCに納品後、そのまま空車で戻る非効率も解消。アサヒビール生産本部物流システム部の小山洋行次長は「復路の回送がなくなり、1台あたり約90㎞だった実車距離が約180㎞と2倍に向上した」と説明する。
実運送を担うのはアサヒグループの物流中核会社であるアサヒロジと、伊藤忠食品の輸配送を担当しているハマキョウレックスだが、「空車での回送や低積載の区間がなくなることで、運行回数を1回増やすことができる。メーカーと卸にメリットがあるだけでなく、運送会社にとっても効率的な輸送が実現し、メーカー・卸・運送会社すべてが〝WIN‐WIN〟となることができた」と取り組みの成果を語る。
持続可能な物流へ共同化の可能性を探る
アサヒビールでは物流分野を「協調領域」と位置づけ、同業他社との共同物流を積極的に推進し、16年にキリンビールと連携し、関西の製造拠点から北陸エリアへの共同輸配送を実施。17年にはビール4社による鉄道輸送を活用した共同物流を北海道東部エリアで開始。18年には4社共同による関西・中国~九州の鉄道モーダルシフトを行うなど取り組みを拡大してきた。
ドライバー不足の深刻化や、24年4月からドライバー職に時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」を目前に控え、同業他社との共同配送といったサプライチェーンの“ヨコ”の連携にとどまらず、“タテ”の連携にも取り組みを広げている。伊藤忠食品との車両の共同利用もその一環で、持続可能で安定的な物流の実現に向け、あらゆる共同化の可能性を探る考えだ。
(2021年11月16日号)