物流会社による〝スモールM&A〟が増加
大手・中堅物流会社が比較的小規模の運送会社を買収する事例が増えている。3PL事業の拡大などに付随して必要となる〝足回り〟の強化が主な狙いだが、2024年4月から始まるトラックドライバーの労働時間規制強化によるドライバー不足の深刻化を見据え、自社の輸配送機能を安定的に確保したい思惑も見える。他方、中小運送業には後継者不足や人材確保難といった課題があり、M&Aが増えている背景には両者のニーズが一致していることがありそうだ。
3PL大手が今年に入り買収を加速
今年1月以降にあった物流会社による運送会社のM&Aは、いずれも3PLなどに注力する大手・中堅が、事業規模で数億円~数十億円規模の中小・中堅運送会社を買収するケースが目立っている。
SBSホールディングスでは、今年に入ってすでにグループの事業会社が4社の運送会社を子会社化。同社が〝スモールM&A〟と呼ぶ比較的小規模の運送会社を続々と傘下におさめている。SBSHDの鎌田正彦社長は「3PL事業を拡大して倉庫拠点を拡充すれば、それに見合った〝足〟が必要になる」としており、今後もスモールM&Aを加速していく考え。
3PL大手のハマキョウレックスも、今年2月に兵庫県の運送会社2社を買収したのに続き、10月にも香川県の運送会社を傘下におさめた。同社は19年にも九州エリアでラストワンマイルやメディカル物流を手がけるシティーラインを子会社しており、各地で運送会社のM&Aを展開している。
定温物流パイオニアの福岡運輸ホールディングスも、M&Aによるネットワーク強化に力を入れている。今年1月に千葉県船橋市の運送会社、4月に東京都多摩市の運送会社2社を相次いで子会社化。とくに関東エリアでの定温物流網の強化に取り組んでいる。
山村硝子の子会社で、3PLによる外販事業専業の山村ロジスティクスも、9月に大阪の運送会社2社の全株式を取得してグループ化した。関東エリアに比べてやや手薄だった関西圏での輸配送機能を強化するとともに、ドライバー不足の本格到来を前に運送機能を安定的に確保したい狙いもある。
安田倉庫は11月1日付で、長野県の中堅運送会社である南信貨物自動車の全株式を取得する。南信貨物はグループ全体での売上高が70億円規模で、甲信地区や関東・中京にもネットワークを有する。同社を子会社化することで、倉庫と輸配送ネットワークをさらに強化する。安田倉庫は19年11月にも石川県金沢市に本社を置く大西運輸をグループ化しており、M&Aを通じて継続的に運送機能を強化している。
なお、福島県を本拠とする磐栄ホールディングスも、拠点網整備・拡充と運送会社のM&Aを積極的に推進し、社員数約1700人超の体制を実現。長距離輸送を得意とする奈良県の富士運輸も運送会社などのグループ化を加速しており、6月から7月にかけて2週間で運送会社2社を買収した。同社の松岡弘晃社長は「M&Aのメリットは、拠点数の増加により、全国で事業を拡大できること」と話す。
「2024年問題」対策でM&Aニーズが増加
「2024年問題」の到来を前に、運送会社のM&Aが増えているのは、統計でも明らかになっている。Visionalグループの事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」によると、今年9月に同PF上で公開された物流関連の譲渡案件数は前年同月比1・8倍、19年同月比では2・7倍にのぼっている。また、「ビズリーチ・サクシード」の累計譲り受け企業7900社のうち、物流関連のM&Aを希望する企業は664社にのぼっており、前年同月比1・3倍、19年同月比では1・7倍になっている。
譲渡企業側の動向では、「2024年問題」への対応の必要性を懸念し、M&Aを検討する譲渡企業オーナーが多くいるという。「今後、ドライバー確保し続けられるだろうか」という不安を抱くオーナーや、事業継続に限界を感じた後継者不在の高齢オーナーが「ビズリーチ・サクシード」を利用するケースが多く見られるという。
一方、物流関連のM&Aを希望する譲り受け企業の動向を見ると、ドライバー確保を目的とした企業が、M&A後も従業員の引き継ぎを必須条件とする場合が多いという。また、「2024年問題」への対応策として、現在保有していない拠点を新たに持ちたいというニーズに加え、中小距離輸送のニーズが高く、10tトラックを有する譲渡案件を求めることもあるという。
(2021年10月14日号)