東洋トランス、海陸複合欧州向け輸送を開始
東洋トランス、海陸複合欧州向け輸送を開始
長年にわたり日本を含むアジアと欧州、中東をシベリアランドブリッジ(SLB)で結び、その経験や知識を活かしてシベリア鉄道輸送ルートの再構築に注力している東洋トランス(本社・東京都中央区、髙橋勲社長)。航空・海運の運賃高騰や貨物スペースのひっ迫で、日本発欧州向けの輸送需要が高まる中、今年1月からSLBを活用した新たな輸送サービスを開始した。今後は、さらなる輸送ネットワークの拡充を見据え、英国や北欧、ポーランド以西に向けた新規ルートの開拓に注力していく。
SLBの魅力やメリットを発信する
東洋トランスの前身である「ジューロコンテナートランスポート・ジューロ航空輸送貨物」は、1960年代からSLBを活用した旧ソ連経由欧州・中東向けの輸送サービスを展開。91年のソ連崩壊により、鉄道の管理体制が崩れ、国際輸送航路として衰退したものの、同社はロシア国内やCIS諸国を中心に事業を継続してきた。
こうした中、国土交通省ではロシア鉄道と協力し、2018年度からSLBの利用促進を目的としたパイロット実証事業を開始。東洋トランスもシベリア鉄道を利用する上での魅力やメリットを荷主に発信するため、同事業に参画した。初回の実証では、精米を積んだコンテナと、電子楽器・音響機器と電動工具を積載した混載コンテナの2件の輸送を横浜港発モスクワ向けルートで実施し、コストやリードタイム、税関手続き、輸送中の振動、温湿度を検証。良好な結果が得られたことから、19年6月から同ルートにおけるSEA&RAIL複合混載輸送サービス「MOSCOW EXPRESS」を開始した。20年4月からは、さらなるリードタイム短縮に向け、発地に富山港を追加した。
輸送日数は海上輸送の約半分
19年度のパイロット事業では、日本発モスクワ経由欧州向けの実証を実施。わずか16日間のリードタイムで、電動工具とその関連部品を富山港から仕向地であるポーランド・マラシェビチェ駅まで輸送した。20年度は、他のフォワーダーとも連携し、電動工具のほか、化学品、日用品など7案件、コンテナ9本をオランダやベルギー、ドイツ、ポーランド、オーストリアに輸送し、すべての案件で20日を切って現地に到着した。しかし、これはウラジオストク港にコンテナ船が到着した翌日に駅を出発し、経由地であるベラルーシ・ブレストとポーランド・マラシェビチェでも列車が停まらなかったためで、通常は3日間ほどかかるウラジオストク港での積み替え作業を含むと、輸送日数は25日ほどかかる。それでも、リードタイムは海上輸送のみと比較して約半分、運賃は航空と比べて10分の1と海上と航空の中間に位置する “第3の輸送手段”として、実証に参画した荷主からは好評だったという。
新型コロナウイルスの感染拡大で欧州各国がロックダウンに陥った際は、トラックによるクロスボーダー輸送は検疫のため、国境間で大渋滞が発生。サプライチェーンが完全に停止したものの、鉄道はその横をスムーズに通過できた。また、欧州企業を中心に、カーボンニュートラルの観点から環境に優しい鉄道輸送にシフトする動きが活発化。各企業はモーダルシフトや新たな輸送手段の開発に積極的に取り組んでいる。
日本発欧州向けLCLサービスを開始
これらの結果に加えて、昨今需要が高まる日本発欧州向けの輸送ニーズを取り込むため、東洋トランスは今年1月から、SLBを活用した日本発欧州向けLCLサービスを開始。協力会社とも連携し、従来取り扱いがなかった自動車や機械メーカーなど新規荷主の開拓にも努めた結果、サービス開始前から200件を超える引き合いがあったという。
運航スケジュールは隔週に1度の定期便。第1便は予定していた本船の到着が2週間遅延したことから、2月2日に富山港を出発し、同月28日にポーランド・ポズナンCFSに到着した。その後、パートナーの欧州域内における輸送ネットワークを活用し、各最終仕向地にトラック輸送した。
直近の計画について髙橋社長は、「物量が多い仕向地の近隣にCFSを設置することで、トランジットタイムのさらなる短縮につながる」とし、荷主の利用状況などに応じて、ドイツやチェコ、オーストリアなどにCFSを設置することも検討していく。
課題は今後の運賃動向
一方、課題として挙がるのは今後の運賃動向だ。ロシア政府は昨年12月の段階で、鉄道輸送運賃の一部を負担する助成金をストップ。現在、高騰している海上輸送運賃と同程度に引き上がる懸念があり、その場合、旧ソ連時代のブラックボックス化していたシベリア鉄道の輸送環境を経験した日本の荷主は、利用を敬遠する可能性があるほか、コロナ後、海上運賃が通常に戻った際は、荷主の取り込みが困難になる。他方、中国側の荷主は旧ソ連時代におけるSLBでの苦い経験がなく、輸送品質が改善された後に利用が開始されたため、中欧班列や航空、海上などの貨物スペースがひっ迫している状況下において、中国側からのSLBへの引き合いは大幅に拡大している。
髙橋氏は「過去の経験から、日本の荷主に1度使用していただかないとSLBの品質やリードタイムなどのメリットを理解してもらうことは難しい。海上運賃が高騰している今だからこそ、鉄道運賃を適正な基準まで引き下げ、SLBを経験してもらうことが重要だ」と指摘する。
英国、北欧など新規輸送ルートの構築へ
今後は、デンマークを含む北欧・英国への新規輸送ルートの開拓やロシアの飛地領であるカリーニングラード経由欧州向けルートの構築にも注力していく。カリーニングラードを経由するルートは、今年度のパイロット実証で経由したブレストやマラシェビチェの貨物駅が混雑していた場合のバッファルートとしても活用できるため、現在ロシア鉄道と協議を重ねている。
また、オーストリアやチェコ、ハンガリー方面は現在、ブレスト・マラシェビチェを経由しているが、旧ソ連時代では輸送日数が短いウクライナ経由のルートも利用。ブレスト・マラシェビチェの貨物駅での混雑も避けられるため、ウクライナ問題の早期解決に期待を寄せる。
英国方面へはロシア・サンクトペテルブルクやバルト三国の港を経由し、海上輸送するルートを模索。スカンディナヴィア半島やデンマークも経由できるため、現地船会社の動向を注視しているという。
(2021年3月16日号)