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ユーラシア大陸の鉄道輸送に各社が注目=東洋トランス

2019.03.14

長年にわたり日本を含むアジアと欧州、中東をシベリアランドブリッジ(SLB)で結び、その経験や知識を活かしてシベリア鉄道ルートの再構築に注力している東洋トランス(本社・東京都中央区、髙橋勲社長)。現在は、自動車部品をはじめ、建設機械、化学品、食品等をロシア・CIS(独立国家共同体)へ輸送しているほか、ロシア現地法人では、通関・倉庫業務も手掛けている。昨年8月に始まった国土交通省によるシベリア鉄道の貨物輸送実証実験を通して荷主のシベリア鉄道利用を促進し、事業の拡大を目指す。

豊富な輸送網でロシア内陸向け輸送を拡充

東洋トランスの前身は1980年に発足した「ジューロコンテナー航空輸送貨物」。同社はSLB輸送のパイオニアであったジューロコンテナートランスポートの子会社だったが、93年に東洋埠頭が100%子会社化し、翌年、現社名に変更した。
欧州船社同盟により海上輸送の運賃が高騰していた80年代は、料金が約2分の1のシベリア鉄道を利用したSLBが最盛期を迎えており、その中で、ジューロ社もソ連を経由しヨーロッパやイランへの鉄道輸送事業を展開。

当時は、ソ連の軍事政策上、ロシア~ヨーロッパ間の国境に到着するまでの鉄道輸送スケジュールが公開されず、輸送日数も不安定なルートだった。そこで、ジューロ社はボストチヌイ港から欧州・ロシア国境までの編成を替えずに走る列車「ブロックトレイン構想」を実現。貨車の輸送日数の短縮と安定性を向上させた。
91年のソ連崩壊により、ロシア鉄道による一貫した輸送機関の体制が崩れてからは、日欧間のSLBは料金的なメリットを失い、多くの日欧フォワーダーが撤退を余儀なくされたが、東洋トランスはロシア国内およびCIS地域への輸送事業を継続した。

2003年1月にはロシアに現地法人TOYO TRANSを設立。現在までに、モスクワ・シェレメチェボ空港近郊をはじめ、ハバロフスク等で倉庫を運営し、保管・輸送業務を行っている。日系企業だけではなく、ロシア国内からの引き合いも多い。また、05年にはロシア国内での通関・輸送事業を行う現地法人TB TOYO TRANSを設立。日系物流企業の中でもいち早く通関ライセンスを取得し、ロシアでの通関や運送輸送を一括してサポートしている。現在、日系物流企業で通関ライセンスを保有しているのは東洋トランスを含めて4社のみだ。

一方、中国鉄道やモンゴル鉄道を利用したロシア向けの輸送事業も拡大。中国に進出している日系企業に対し中国発ロシア向け、もしくは中国発モンゴル経由でロシア着というルートを利用し、様々な顧客の需要に応えている。

シベリア鉄道輸送の魅力を広め、荷主にPR

シベリア鉄道の輸送は、ソ連崩壊後の輸送品質の低下とコスト高により、多くの荷主が欧州経由の海上輸送に軸足を置いている。このような状況の中、ロシア政府は多額の国家予算を投入し、鉄道輸送網の改善を進めているという。

髙橋社長は「運行管理の電子化やICタグの導入などによりトレーサビリティは大きく改善してきている。輸送中のセキュリティの面でも徹底した管理体制を構築しており、以前に比べてSLBのルート環境は格段に上がっている」と語る。
また、モスクワまでの鉄道運賃は、海上輸送に比べてやや高い程度でリードタイムは約3分の1。海上ルートでは到着まで約60日かかるところが20日前後まで短縮できる。

これにより、例えば、ロシア国内で日本メーカーとヨーロッパメーカーが競合した際、ヨーロッパ側の2週間という納入期間に対抗できることで、ビジネスチャンスの拡大が期待できる。しかし、ソ連時代の鉄道貨物輸送へのマイナスイメージにより、荷主の信頼は完全には回復されていない。「シベリア鉄道を利用する上でのメリットを荷主に積極的にアピールする必要がある」と髙橋氏は強調する。
こうした中、東洋トランスは国交省によるシベリア鉄道の利用促進を目的とした貨物輸送実証実験「パイロット事業」に参加。同事業を通し、シベリア鉄道の魅力が発信されることに期待を寄せる。

実証実験は100点満点の大成功

東洋トランスは今回の実証実験で、精米を積んだコンテナと電子楽器・音響機器と電動工具を積載した混載コンテナの2件の輸送を実施し、コストやリードタイム、税関手続き、輸送中の振動、温湿度を検証した。これについて「結果は大成功。当社はロシアで種々雑多な商品を扱っているほか、長年培ったノウハウがあり、それを十分に活かすことが出来た」と髙橋氏は自信を覗かせるが、鉄道を利用する上での課題も指摘。「ロシアでは、貨物の積みつけのレギュレーションが日本や他の国に比べて制限されている。特に、重量が1・5t以上ある貨物のルールが厳しい。世界基準との整合性を期待したい」と話す。

実証実験を活かし、東欧市場への進出を目指す

髙橋氏はシベリア鉄道について「中欧班列(中国とヨーロッパを結ぶ貨物鉄道網)が注目されていることもあって、鉄道輸送の存在が見直されている。運賃は、ロシア東部までなら海上輸送に比べて安価な上、モスクワまででも若干高い程度。加えて、リードタイムは3分の1と短く、鉄道を利用するメリットは確実にある」と訴える。

今後の展望については、「パイロット事業の実績を基に、今まで扱っていなかったお客様をシベリア鉄道に誘致する。また、80年代のようにヨーロッパ市場を視野に入れ、事業を拡大したい」と抱負を述べる。

一方、ヨーロッパのメインポートへの海上輸送は鉄道に比べて安価であるため「東欧や欧州内陸部の国々(オーストリア、スイスなど)までなら運賃・リードタイムでメリットを出せる。まずはそのエリアを中心に見据えていく」とし、中東エリアでの需要もあることから、イランへの輸送再開に向け、経済制裁解除など環境が整うことを期待するという。
(2019年3月14日号)


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