メニュー

日新がシベリア、中国とも輸送量大幅増加

2021.03.16

1965年に日系物流会社として初めてシベリアランドブリッジ(SLB)による輸送サービスを開始した、日新(本社・横浜市中区、筒井雅洋社長)。中国横断鉄道(CLB)でも、92年にいち早くカザフスタン向けコンテナ輸送「チャイナランドブリッジサービス」をスタートさせ、2018年には日本企業初となる中欧班列のコンテナを使用した日中欧鉄道輸送を実施するなど、業界を先導する形でユーラシア大陸鉄道の利用を進めてきた。20年の下期にはSLBとCLBの輸送本数が大幅に増加して計640TEUに達し、今後、鉄道輸送事業のさらなる拡大が見込まれている。

国交省のSLB事業、荷主からも高評価

日新のユーラシア大陸鉄道利用サービスは、SLBによる日欧鉄道輸送「ユーロシアエクスプレス」と、CLBを利用した中国~欧州間鉄道輸送サービス「中欧特快」、日本~欧州を結ぶ「日中欧Sea&Railサービス」、および日本発中央アジア・モンゴル向け「中央アジア特快」が主要ラインナップとなっている。昨今では、航空・海上輸送の運賃高騰とスペースひっ迫から各サービスとも需要は非常に旺盛で、中でも「中欧特快」は取扱いが堅調に増加。また、中欧班列の混雑などを背景にSLBの利用も引き合いが拡大しているという。

SLBについては国交省としても17年度以降、4年連続で貨物輸送パイロット事業を展開。日新では、1975年に発足した「日本トランスシベリヤ複合輸送業者協会」などを通じて長年、欧州・中東向けトランジット輸送の発展に寄与してきた経緯もあり、同パイロット事業には毎年参画している。直近の2020年度は神戸港発ポーランド・ワルシャワ向けの化学製品を40ftコンテナ10本、博多港発ベルギー・ゲント向けの二輪完成車を40ft3本輸送し、参加会社の中で最も多くの貨物を発送した。

今回のパイロット事業ではコストとリードタイムで優位性を持つ「ブロックトレイン」を日本発の貨物のみで編成したことが特徴。詳細な費用と所要時間、トランジットにかかる手続きなどを検証したが、「概ね問題なかった」と国際営業第一部ロシア・CIS室の尾関誠室長は振り返る。日新の発送貨物は、神戸港と博多港を出港後、釜山港・富山新港を経由して、ウラジオストクからベラルーシ・ブレストまでSLBにて輸送。その後は各納品先へトラックなどで届けられた。

結果としては、富山~ポーランドを14日間という “猛スピード”で運ばれ、とくにロシア側の事前通関が可能だったことから、11月15日に富山新港を出港したコンテナ船は17日にウラジオストク港(写真)へ入港し、18日には鉄道への積み替えが完了する――という非常にスピーディなオペレーションが実現した。今回のパイロット事業に限らず、ウラジオストク港でのハンドリングは入港から3日あれば鉄道で出荷され、「かなりのリードタイム短縮が見込まれる」(同)という。

パイロット事業に参加した荷主企業からは「思ったよりも使い勝手がよかった」との感想も寄せられ、各荷主とも欧州への鉄道輸送は初めての試みだったものの、「SLBの “遅い・危ない・(運賃が)高い”イメージが払しょくできた」として継続利用が期待される。パイロット事業では欧州赴任者の海外引越荷物もコンテナに積載したが、海上輸送では既に年内の配送を諦めていたところ、SLBを利用して12月上旬には無事に届き、赴任者からも歓迎されたという。

一方で、荒天の影響から富山新港の出港は予定を3日ほど遅れ、「航空便と異なり、海上輸送貨物はサプライチェーンが完成されていることから、予定の前倒しや遅れは荷主企業の負担になる」と尾関氏は課題を指摘する。さらに、旺盛な需要を受けて、富山~ウラジオストク港を結ぶ定期船は既にフルブッキング状態にあり、「今後の船舶大型化にも期待したい」と話す。

BCPやSDGsを受け鉄道は「世界的トレンド」に

国交省のパイロット事業の成果もあって、日新の20年下期(7~12月)におけるSLB・CLBでの輸送貨物は計640TEUに上り、月間換算では約100TEUを取り扱ったことになる。前年(19年)実績が数十本ほどの取り扱いに留まったことを考えると、20年はレギュラー貨物の獲得を含めて大幅な躍進となった。内容としては極東から欧州への発送が中心だが、ワインなど一部、欧州発の荷物も輸送。21年も引き続き鉄道輸送サービスの提案と周知を進め、20年と同程度の取扱量を目指す考えだ。

「鉄道輸送は世界的なトレンドとなっている」と国際営業第一部の桜井正応部長は強調する。昨今の海上輸送におけるスペース不足をはじめ、グローバルサプライチェーンの維持安定に向けたリスク回避策として注目が集まる上、全世界的なSDGsへの関心の高まりから鉄道輸送の環境優位性にも高い関心が寄せられている。とくにCO2排出量は、航空輸送比で95%減、海上輸送比でも40~50%減と大幅な削減効果が試算されている。

海上輸送に対してはリードタイムの短縮が可能となり、航空便との比較ではコスト面で有利となる鉄道輸送だが、仕向け地によっては航空便でもリードタイムに大差は出ないという。中東欧など主要ハブ空港から距離があり、貨物量の少ない地域向けの輸送はトラック便の手配が難しく、陸送に1週間以上かかることもあるためだ。NVOCC事業室の松本善之助室長は「海上も航空もコロナ禍で混乱する中で、鉄道の魅力は大きい」と強調する。

日新の鉄道輸送サービスはSLBやCLBに限らず、北米やアジアなど各極でも積極的に展開されている。北米ではカナディアン・ナショナル鉄道の代理店業務を約30年に渡って受託していた。また米国向け発送貨物のうち9割で鉄道を利用。日新が扱うNVOCC案件全体から見ても、その3分の1が鉄道輸送を使っており、「当社の国際物流事業と鉄道は切っても切れない関係にある」と桜井氏は話す。

同社最大の強みはこの豊富な実績にあり、各極での経験を活かすことで日本の荷主企業を力強くサポートする。日系フォワーダーとしてトラブル発生時なども基本的には日本の国内法で対処できる上、各国には鉄道輸送専任のスタッフが常駐し、有事にも迅速に対応できる。桜井氏は「海上・航空・鉄道輸送を状況に応じて使い分けることで、より最適なサプライチェーンの構築とSDGsへの対応が可能となる。鉄道が第3の輸送手段として選択肢のひとつに常に並べてもらえるよう、今後も荷主企業に提案していきたい」と展望する。
(2021年3月16日号)


関連記事一覧