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来年2月から医薬品物流を本格スタート=日本通運

2020.09.08

日本通運(本社・東京都港区、齋藤充社長)は、医薬品の安定供給を実現するプラットフォーム(PF)サービスを来年から順次開始する。GDP(Good Distribution Practice=医薬品の適正流通基準)をハード・ソフト両面でクリアしたサプライチェーンネットワークをグローバルで構築。国内では核となる医薬品専用センター4拠点でのサービスを来年2月から開始するほか、独自に開発した医薬品専用車両を導入する。また、来年4月にはIoTデバイスとブロックチェーン技術を活用したデジタルPFの提供もスタート。物流情報を活用した商流でのサービス展開も計画するほか、医薬品関係者が共同利用できるオープンプラットフォーム化も検討している。

初期投資だけで650億円の巨大プロジェクト

日通は「日通グループ経営計画2023」で、医薬品物流を重点産業のひとつに位置付け、グローバルレベルでのサプライチェーンネットワークの構築を推進。社内に横断的なプロジェクト「Pharma2020」を立ち上げ、倉庫・IT・オペレーション・品質・営業・車両のカテゴリーごとに取り組みを進めている。投資額は土地や建物、マテハン、車両、ITなどの初期投資だけで約650億円にのぼっており、「将来的には最大1000億円規模の投資を想定している」(同社)という。今年7月には本社内に医薬品事業部および医薬品物流品質保証室を新設し、オペレーション、人材育成、品質保証体制などを全社統一基準で進めていく体制を整えた。

その中で、まず国内でのサービスが来年2月から開始される。現在4ヵ所(埼玉、大阪、福岡、富山)で建設中の医薬品専用センターが年内にも完成し、成田空港、関西空港にある既存のメディカルハブを含めた国内サプライネットワークが完成する。BCPに対応した医薬品供給を実現し、これまで製薬メーカーごとに実施されてきた倉庫保管や輸送を共同化するほか、車両のラウンドユースによるドライバー不足への対応など大幅な業務効率化が可能なPFサービスを提供する。

医薬品専用センター(完成イメージ)は、日本版GDPガイドラインをクリア。入庫エリア、保管エリア、出荷エリアを明確に区分するほか、トラックドック(格納型接車バース)や前室、シートシャッター、エアシャワーなどの導入により入出庫時の防塵・防虫とセキュリティを確保。定温・保冷の温度管理に加え、輸出入用の保税エリア、特殊医薬品エリアなどサプライチェーンのあらゆるニーズに対応する。また、建物は免震構造の採用や非常用発電設備の設置でBCP対応に万全を期しており、自動化設備の導入で庫内オペレーションも高度化する。

独自開発の専用車、23年までの150台導入へ

医薬品の幹線輸送、拠点間輸送、卸向け配送には自社開発の専用車両を使用する。サービス開始当初は4拠点で52台を導入。23年頃までに150台程度まで増やしていく計画だという。
「日通独自の検討を重ねて開発した世界最高水準の仕様」という専用車両は、温度管理に加え、輸送中の動態管理を含めた監視システムを導入。複数温度帯に対応した空調設備を完備し、夏季や冬季の厳しい環境下におけるバリデーション(妥当性検証)も実施する。このほか、各種セキュリティシステムによる安全・確実なオペレーションを担保しており、具体的には「中長距離の走行を前提とした大型車両には、エンジンや空調設備のトラブルに備え、サブエンジンを搭載している」という。

海外ではGDP準拠のCFS開設を加速、M&Aも

海外での医薬品物流のグローバルネットワーク構築にも注力する。各種インフラとフォワーディング機能を連携させ、GDPの要求事項に適合した安全性を保証する供給網を世界規模で整備する。
具体的には、海外の主要拠点にGDPに準拠したCFSの建設を進めており、新薬メーカーが集積する欧州ではロンドンやミラノで、またジェネリックを中心に高い市場成長が続くインドではGDP認証済みのCFSをすでに開設している。CFSでは現地に品質保証チームを配置し、本社の医薬品物流品質保証室と連携してグローバルでの品質管理システムを構築している。
このほか、米国ではシカゴでGDP認証を取得したほか、医薬品物流を得意とするMD社(MD LogisticsおよびMD Express)を子会社化し、ネットワークを拡充した。

ブロックチェーン活用したデジタルPFも構築

医薬品産業向けに、温度管理などの物流情報をサプライチェーン全体で可視化するデジタルPFの構築も進めており、21年4月から一部サービスの提供を開始する。米インテル社と共同開発したIoTデバイスを活用して、モノの動きと物流品質をリアルタイムで可視化できるPFを構築し、メーカーや卸などサプライチェーンの構成者がトレーサビリティデータを共有できる仕組みをつくる。デジタルPFはブロックチェーン技術を活用することで、関係者が安全に共同利用できる形にしていく。

また、物流情報に加えて、商流におけるサービス展開も計画しており、将来的には業界横断型のオープンPFにしていきたい考え。

コロナ禍で、医薬品分野の拡大がさらに重要に

「日通グループ経営計画2023」では、医薬品産業を電機・電子、自動車などと並ぶ重点産業分野に位置付けており、同分野での大幅な収入拡大を計画。国内では19年3月期に160億円だった売上高を24年3月期に360億円に、海外では100億円を400億円にそれぞれ引き上げる計画。

新型コロナウイルスの感染拡大によって荷動きが大きく停滞する中でも、医薬品分野はその影響を受けにくく、継続的な成長が期待される分野。同社の堀切智副社長は21年3月期第1四半期決算の会見時に「医薬品物流などの新たな事業領域を拡大することが経営の最重要課題」と述べ、コロナ禍において医薬品分野の拡販の重要性がさらに増していることを示唆した。
(2020年9月8日号)


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