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ヤマトHDがHD制廃止し“ワンヤマト”体制へ

2020.01.28

ヤマトホールディングス(本社・東京都中央区、長尾裕社長)は23日、ヤマトグループの中長期的な経営のグランドデザインとして「YAMATO NEXT100」を発表した。その一環として、2021年4月にはヤマトHDがグループ8社を吸収してHD制を廃止。事業面でも、自前配送にこだわらないEC向けの新たな配達プラットフォームを構築するなど抜本的な改革を行う。中長期的な指標としては、24年3月期の売上高2兆円(19年3月期実績比23・0%増)、営業利益1200億円以上(同2・0倍)を目標に据えるほか、今後4年間でIT・デジタル投資に1000億円を見込む方針も示した。

新EC配送サービスでは宅配をパートナー会社も担当

「YAMATO NEXT100」では「3つの事業構造改革」として、①宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)、②ECエコシステムの確立、③法人向け物流事業の強化――を進めるとともに、それらによる事業成長を支える「3つの基盤構造改革」を推進する。全体のロードマップとしては、来期を経営体制の移行期間に据え、主要経営指標を含む詳細な中期経営計画(22年3月期~24年3月期)は21年1月に発表する予定にある。

事業構造改革においては、宅急便のDXで徹底したデータ分析とAI活用により需要・業務量予測の精度を向上させ、最適なリソース配置による集配の大幅な効率化を実現する。さらに21年以降は、従来宅急便センターで行っていた配達先別の仕分け業務をベース拠点へと移行する新たなソーティング・システムを導入して、仕分け生産性を4割上昇。一連の施策でSDの業務負荷を低減し、顧客とのコミュニケーション強化につなげる。

ECエコシステムの確立に向けては、新設するEC事業本部で「産業のEC化」に特化した物流サービスを創出。まずは今年4月から、ヤマト運輸の輸配送拠点を活用して法人や個人の配送パートナーがEC商品を配達する、新たな配送サービスを一部地域で開始する。置き配やまとめ配達などにも対応しながらECラストマイルサービスの最適解を模索。来年4月には、受発注や輸配送、在庫管理、決済などを一括管理するオープン型のデジタルプラットフォーム「ヤマトデジタルプラットフォーム(YDP)」も立ち上げる。

法人向け物流事業の強化としては、グループ各社に点在するノウハウと機能を結集することで、顧客への高度なアカウントマネジメントを展開。データをYDPへ集約し、精度の高いリアルタイム情報を軸とした法人向け物流ソリューションの提案を強め、物流に課題を持つ荷主企業の全体最適化に注力する。ヘルスケアや農産品流通では同様のソリューションを提供してきたが、強みの多頻度小口配送と、データ基盤の統合で他産業への展開を図る。

今後4年間でデジタル分野に1000億円を投資

基盤構造改革としては、ヤマトHDがグループ会社7社(ヤマト運輸、ヤマトグローバルエキスプレス、ヤマトロジスティクス、ヤマトグローバルロジスティクスジャパン、ヤマトパッキングサービス、ヤマト包装技術研究所、ヤマトフィナンシャル)と、ヤマトシステム開発の一部事業を吸収合併し、純粋持ち株会社から事業会社へと移行する。これにより、現在の機能単位の部分最適から顧客セグメント単位の全体最適化された組織へ変革するとともに、経営のスピードを速める。

その上で、新会社には「リテール」「地域法人」「グローバル法人」「EC」の4事業本部を組織化。リテール事業本部では現在SDが営業を担当している個人・法人客を対象とし、地域事業本部は各地方などに所在する中規模の法人荷主を想定する。グローバル事業本部はカスタマイズで物流を設計するような大規模顧客を想定しており、約200社をターゲット化。EC事業本部では大手のEC事業者をはじめとするEC専業者を対象に据える。これらに「輸送」「プラットフォーム」「IT」「プロフェッショナルサービス」の4機能本部を設置する。

あわせて、データ・ドリブン経営への転換を図り、デジタル分野への投資を積極化させるとともに、21年には社内外のデジタル・IT人材を集めて300人規模のデジタル専任組織を立ち上げる。まずは来期以降、データ予測に基づいた意思決定や顧客データの完全な統合、流動のリアルタイム把握、稼働および原価の見える化、YDPの構築と基幹システムの刷新などに取り組む。さらに、米国スタートアップ企業やテクノロジー大手との連携を拡大するほか、50億円規模のCVCファンドの準備も進め、オープンイノベーションを加速させる。
これらに加え、サステナビリティの取り組みとしてグリーン物流やフェアな事業、多様なパートナーとの協創などにも取り組み、2050年の二酸化炭素排出量“実質ゼロ”に挑戦する。

一丁目一番地は「お客様起点のヤマトを作ること」

23日に開かれた記者会見で、長尾社長(写真)は今回のグランドデザインについて、「現中期計画で『働き方改革』と『デリバリー事業の構造改革』は一定の成果を得たが、『非連続成長を実現するための収益・事業構造改革』と『持続的に成長していくためのグループ』にはさらなる抜本改革が必要と結論付けた」と説明。とくに、経営体制の刷新に関しては「今回の改革の一丁目一番地はお客様起点のヤマトを作ることであり、それを実現できる組織を考えた。近年のヤマトグループは会社や事業部ごとのサイロ化が否定できず、打破するために一旦“ワンヤマト”を作り、一人の社長で経営と現場の階層を簡素化する」と語った。
また、ECエコシステムについては「自らが運ぶだけでなく、オープンな物流インフラを作り上げる経営へ転換し、宅急便で蓄積したデータをデジタル化して外部のパートナーと協業して新たな輸配送網を作る」との考えを示す。CtoCを前提に設計された宅急便サービスは「優れたパッケージサービスだがECにはいろいろな意味で過剰な部分もたくさんある」(同氏)として、ECに特化した顧客満足度の高い仕組みを目指し、最適な輸配送方法や荷物の受け取り方、情報システムを構築する。
懸案だった海外事業は「まずは過去に展開してきた事業を年内にしっかり整理したい」とした上で「海外の適切なパートナーと組むことでよりスピーディに展開する。マレーシアやタイなどビジネスの形が見えてきているパートナーと連携し、アジアでの成長に力点を置きたい」とコメント。ホームコンビニエンス事業は単身引越が一部地域で再開し、拡大フェーズにあるものの、家族引越については「様々な技能を持った社員が必要であり、全国で再開するのは現状では難しく、引越事業の今後についてはまだ明確に話せない」と言葉を濁した。
(20年1月28日号)


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