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悪天候時の運行休止で判断基準策定へ=国交省

2019.11.14

国土交通省では、台風など悪天候時におけるトラックの運行休止に関し、判断基準の策定に向けた検討に入った。台風の大型化により強風でトラックが横転する事故が相次いでいることから、トラックドライバーの安全を確保するために、事業者が運行休止を判断する基準を示し、事業者が荷主に対して説明しやすくする狙いがある。一方で、運行休止の判断は各社の考え方や車種によっても異なるほか、最終的にはドライバーや運行管理者といった現場の判断が“基準”となるとの意見もある。

荷主の意向強く、オフィシャルな判断基準要望

近年、台風や豪雨等の自然災害が多発しており、鉄道や航空各社は安全に支障をきたすと判断した場合には、運行(運航)休止を決定し、公表している。一方で、トラックなど物流事業者は荷主との力関係もあって、運行可否の決定権がないことが問題視され、安全確保を最優先するために運行休止のガイドライン策定への要望も強まっていた。
トラック事業者が運行休止を申し入れても、発荷主だけでは決定できず、“お客様”である着荷主の了解を得る必要があり、判断までに時間がかかってしまう。また、歩合制のドライバーは運行休止で配達件数が減ることを嫌がるケースもある。オフィシャルな判断基準が求められるのには、こういった“事情”もある。

トラックの運行は荷主の意向が強く、業界が判断基準を求めることに国交省関係者も理解を示している。同省の一見勝之自動車局長は10月31日の専門紙記者会見で「航空輸送や海上輸送では、風速や波浪の大きさなど天候状態によって運行の可否を判断する基準を設けている。自動車でも同様の判断基準を設ける必要がある」と指摘。貨物課では判断基準について検討を開始し、他の輸送モードの事例等を収集している。

“輸送依頼”はイコール“輸送指示”ではない?

なお、7月からは、改正貨物自動車運送事業法における「荷主対策の深度化」の一環として、台風などの異常気象時に荷主が運行を強要する行為も荷主勧告の対象に追加された。運行可否の判断について荷主も関心を強めているが、実際に関与は難しく、基本的にはトラック事業者の判断に委ねているケースがほとんどだ。
トラック事業者からは「荷主からオーダーがあれば、走らざるを得ない。こちらから『今日は行けません』とは言えない」と荷主責任を問う声もあるが、荷主からすると「“輸送依頼”はイコール“輸送指示”ではない。輸送指示は運行責任者が行うもの。鉄道など他のキャリアと同様、運行させるかどうかの判断はトラック事業者の責任の範疇だ」という。
たとえば、ダンプアップのローリーでは、「風速10m」を運行休止の基準としている会社もある。ダンプアップして荷物を降ろす際、風速10mでも横転の危険があるため、納品先での荷下ろし作業を行うことができない。作業ができない以上、運んでも仕方がないため運行を休止するもので、こうした特殊な車両特有の判断基準もある。

「自分のことは自分で決めるのが原則」との声も

トラック事業者の中には、国として運行の判断基準をつくることを疑問視する意見もある。悪天候時には毎回、荷主に運行休止を申し入れているあるトラック事業者は、「業界は何でも国任せ。自分のことは自分で決めるのが原則。国としても責任を負うため、運行の判断基準をつくるのは難しいのでは」と話す。「国から運行の判断基準が出されたとしても、非常に曖昧な運用になるのではないか」とある荷主は指摘する。「出荷先からかなり離れている配送先エリアで大型台風の上陸が予想される場合、どの段階で運行をやめさせるべきなのか、どこまで行ってもらい、どこで待機させるのか――は自分たちで判断せざるを得ない」という。

ドライバーの「危険だ」という感覚が判断基準

なお、物流業界では、日本冷蔵倉庫協会が台風などの災害発生予測時に必要に応じて実施する臨時休業の基準を業界として6月に公表している。こうした“後ろ盾”があって、9月の台風19号では冷蔵倉庫事業者の臨時休業が見られた。また、コンテナターミナル(CT)も悪天候時には自らの判断で事前に作業休止を告知している。

冷蔵倉庫やCTは学校の「休校」と同様にエリアが特定されるため、臨時休業の運用がしやすい。トラックの場合、常に移動するため、危険を最も肌身でとらえられるのは、運行のフロントにいるドライバー。ドライバーの「危険だ」という感覚と運行管理者とのリアルタイムな情報共有にまさる判断基準はなさそうだ。
(2019年11月14日号)


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