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貨物事業で働き方改革が進展=ANAグループ

2019.08.08

ANAグループの貨物事業部門で働き方改革が進んでいる。ANA Cargo(本社・東京都港区、外山俊明社長)では昨年、独自の「働き方改革宣言」を策定し、業務の生産性向上と人材不足の解決に向けたデジタル化や荷役作業の省人化・省力化、“人財”の育成を推進。これに先駆け、全日本空輸(ANA、本社・東京都港区、平子裕志社長)も2016年に「働き方改革宣言」、翌17年に「働き方改革推進宣言」を提唱し、グループ全体の取り組みをけん引している。ANA広報部・貨物事業室・ANA Blue Base担当の國分裕之取締役常務執行役員は「今後は、航空貨物事業の流れをデジタル化し、人手不足の解決につなげる。また、従業員の普段の業務への認識とやりがいを高めることで“人財”の定着を図る」と話す。

デジタル化に対応した事業モデル構築へ

現在、日本の航空会社を利用したフォワーダー、荷主、キャリア間の貨物のやり取りは、紙ベースが主となっている。一方、欧州や香港などでは、他国に先駆けてデジタルによる事業モデルを取り入れ、作業の生産性アップや効率化を達成。従業員の労働負担の低減につなげている。
世界各地で進む航空貨物事業のデジタル化に対する日本の現況を危惧し、ANA Cargoは昨年から定期的に航空貨物運送協会(JAFA)と国際航空貨物航空会社委員会(BIAC)を主導し、ANA、日本航空、日本貨物航空の3社による共同プロジェクトとして、フォワーダーや荷主を対象とした航空貨物事業のデジタル化についての勉強会を開催。エアラインに限らず、荷主やフォワーダーを含めた業界全体の共通課題としての認識を周知した。

國分氏は「デジタル化が進んでいる発地国から、着地である日本に到着してもデジタルで貨物を捌けないため、世界と比べて利便性で劣ってしまう。このままでは、日本の航空貨物事業はガラパゴス化する」と訴える。また、デジタル化が進んでいる旅客事業と比較し、「旅客ではWeb上で航空券の予約が可能な上、購入した航空券をスマホに表示でき、グランドスタッフや客室乗務員の業務の簡素化につなげている。貨物でも一刻も早く、eブッキングや運送状の電子化で、従業員の労働負荷低減を目指す」と語る。

“匠”の負担軽減にもデジタル化は必須

航空貨物のパレタイズやバンニング自体は、担当従業員が機器などを活用して行うが、どの大きさの貨物をどこに、どの程度積載するかは、現状では多くの知識と経験を持つ“匠”ともいえる専門スタッフに頼る部分が多い。例えば、航空機への搭載時には、貨物の端と機体内部のカーブ部分との間にどの程度隙間が空いていれば機体が揺れても壁に当たらないか――などが肌感覚でわかるため、貨物を適切にパレットへ積みつけ、機体の積載効率を最大限に高めることができる。

「同じ貨物でも“匠”による積み付けではできあがりに差が出てくる」と國分氏は評価する一方、「“匠”がいなくなる時にどうするか。将来に向けて“匠”の知識とノウハウを共有する必要がある」と指摘する。今後は、荷役作業の8割を一般の担当従業員、残りの2割を“匠”が行い、最終的にはデジタル化や機械化により、荷役の最終チェックのみを“匠”が担当する体制をイメージする。

テレワークやフレックスで多様な働き方を支援

ANAによる働き方改革の取り組みは1992年まで遡る。当時は、勤労部に所属していた國分氏が、残業や手待ち時間の多かった情報システム部門にフレックスタイム制を採用し、従業員の労働環境の是正に取り組んだ。

現在は、フレックスタイム制の対象を貨物事業部門を含め、大幅に拡大した。さらに、16年からはテレワークを開始。貨物事業部門はまだトライアル段階だが、その他の対象部門では多くの従業員がテレワークを活用しており、中にはフレックスタイム制とテレワークを組み合わせた「テレワークフレックス」など、柔軟な勤務体制にも対応している。

「自由度の高い勤務体制により、従業員が自分の業務内容を把握し、必要な時間帯に必要な仕事を当てることで、作業の効率性が向上する。また、これらを有効に使うことで女性だけではなく、男性も幼稚園にお子さんを送ってから出社することも可能となっている」と成果を語る。

このほかの取り組みとしては、外部のツールを活用し、グループ内の従業員同士のコミュニケーションを深めると同時に、生産性の向上と効率化に寄与している。具体的には、Googleのクラウド型グループウェアサービス「G Suite」を利用することで、各部門の固定電話をなくし、ANAグループの全従業員を同じスマホに統一。グループ全従業員のスケジュールをスマホ内のG Suiteを通して“見える化”し、海外など離れた場所からでも会議の召集や部下・上司の予定をチェックすることができる。

ANA Cargoでも、情報共有ツールとして「Googoleプラス」を利用。従業員は各人が持っている仕事上の知識やノウハウなどを投稿・共有できる。

「G Suiteを使いこなしていない部門もあるが、貨物事業部門ではかなり使いこなしている。情報を簡単に共有、取得して、スケジュール調整にかけていた時間を削減することで、その分の時間を他の業務に回すことができる」と國分氏は語り、「昨年のANA Cargoの離職者はそれまでと比較して大幅に減少しており、これら組織内のコミュニケーションツールを使った取り組みの成果が出ているのではないか」と予想する。

総合トレーニング施設「ANA Blue Base」が稼働

ANAホールディングスは、今年4月から総合トレーニングセンター「ANA Blue Base」(東京都大田区羽田)の運用を開始した。同施設は、ANAグループの数ヵ所に点在していた研修および訓練施設を1ヵ所に集約した大型の研修訓練施設で、延床面積は6万500㎡の地上8階建て。

来年6月に予定している全面稼動後は、貨物取扱係員やグランドハンドリング係員、整備士、グランドスタッフ、客室乗務員、パイロットなどANAグループの様々な部門の研修と訓練が可能となる。グループ内で業務が異なる他部門の研修と訓練を1ヵ所に集めることで、旅客および貨物全体の流れが把握でき、他職種への理解度が深まることが期待される。また、普段関わることのない他職種の従業員同士がコミュニケーションをとることで、従業員の質の向上につなげる。

國分氏は「当社グループでは、ES(従業員満足度)を前提に、CS(顧客満足度)がある。グループ全体のパフォーマンスを向上させるためには、従業員自身の仕事レベルを上げつつ他職種への相互理解を深めることが大切だ」と語る。
(2019年8月8日号)


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