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レポート ラストワンマイル、次の担い手は?

2018.07.31

「通販業界にとって非常にショッキングな年だった」――6月に開かれた日本通信販売協会の総会後懇親会で、阿部嘉文会長(オルビス)は2017年にかけて顕在化した “宅配危機”と通販業界への打撃をこう振り返った。EC市場の成長がなおも続く中、ラストワンマイルを誰が、いかにして届けるのか――主要プレイヤーの最新動向を追った。

大手通販は自社インフラの有無に差

今月17日に、保管から配送まで同社が一括で担う「ワンデリバリー」構想の本格展開を発表した楽天では、三木谷浩史社長の肝いりで独自のラストワンマイルインフラ「Rakuten EXPRESS」の構築を進める。“置き配”に対応するほか、早朝配達および深夜時間帯の再配達にも対応するなど、通販商品の配達に特化するがゆえの機能を強化し、足回りは軽貨物便に加えて、バイク便や自転車便など多様な選択肢を検証する。宅配運賃値上げで悩む「楽天市場」出店者への救済策としての保管・配送機能であり、物流機能のみの外販は基本的には行わないとしている。

対するアマゾン・ジャパンでは、通常配送で宅配便を活用するものの、ヤマト運輸が撤退した当日配送業務などでは複数社の軽貨物便会社をネットワーク化して運用している。大量の物量を持つが、配送委託会社への生産性管理と運賃交渉は厳しく、配送業務からの撤退を余儀なくされた会社もある。一方の米国本社ではドローンや自動運転を活用した新たな宅配の仕組みの研究が進み、最近では、専用の電子錠を利用した留守宅“内”への配達サービスの開始も発表。米国で実装されたアイデアが、いずれ日本に導入される可能性も少なくない。

強固な自社配送網を持つのが、BtoB通販最大手のアスクル。配送の6割を子会社ASKUL LOGISTが担い、全国当日・翌日配達サービスを安定的に供給している。同社事業で成長著しいのが、BtoC通販「LOHACO」。中でも即日配送「Happy On Time」では「1時間単位の指定・30分単位の配達予定・10分前の直前通知」の実装で不在率の大幅削減を達成した。今後も、リストセンサーを活用したドライバーの動態管理など高度な情報分析を行い、配送管理システムに落とし込みながら、最適なラストワンマイル体制を追求していく。同社では今月から、商品の配達先近くのオフィスビルなどに在庫を保管し、注文を受けて、同所から届けるモデルの実証実験も開始している。

受け皿としての軽貨物便輸送

こうした通販会社の新たなラストワンマイルネットワークの実働部隊として期待されているのが、軽貨物事業者だ。アマゾン・ジャパンからの業務受託で一躍注目を集めた丸和運輸機関では、約1500台の軽貨物車両を運行し、20年に1万台以上の稼働を目標に掲げる。ドライバーは大半を自社社員が占めるが、今後は起業家モデル「Quick Ace」や協力会社の担当分を増やす計画。ただ、受託料金は個建契約であり、委託先が「儲かる」ビジネスモデルにするには1台の1日当たり配達個数を増やす施策が必須となってくる。

SBSホールディングスでも大手通販会社の配送を担う軽貨物便事業の拡大を図る。すでにSBS即配サポートが約700台、外資系ECのデリバリー業務では約700台が稼働して、今期中には1000台規模へ増車する見通し。8月1日をメドにグループ入りするリコーロジスティクスも、関東で800台ほど「たのめーる」事業の軽貨物自動車を動かしており、グループ全体で2200~2500台に上る軽自動車の輸送力を持つことになる。今後はBtoB通販を中心に関東以外の大都市部にもネットワークを広げ、車両規模を全国で5000~1万台まで引き上げる考え。

軽貨物便事業者による大連合も生まれている。宅配大手の下請けなどを行ってきた中小運送事業者23社は今年4月、ラストワンマイル協同組合を発足。1日当たりの稼働台数は、約3100台で、協同組合として統一運賃を用意し、最も配送ニーズの高い1都3県からサービスを開始する計画にある。ただ、取扱個数の上限もあるため、中小通販会社などの配送業務を中心に受託する方針。当初は通販会社向けに事業説明会を開く予定だったが、想定以上の引き合いがあったためにその開催を取りやめたほど、通販業界からの注目度は高い。

外資系大手EC会社の当日便配達でシェアを持つウィルポートでは、軽貨物便事業に留まらず、狭小地域単位のオープンプラットフォーム型ラストワンマイル輸送網の構築をめざす。域内に宅配ロッカーを設置して不在再配達問題を解決した上で、軽貨物便事業者を組織化して、通販などの宅配荷物とスーパーマーケットやドラッグストアの買い物宅配便を組み合わせて運ぶもの。各地域のネットワークの拠点となる「まいどうもステーション」が今月、東京都中央区勝どきで第1号店としてオープンし、宅配ロッカーでの受け取りとカウンターでの宅配取次を開始。同様の仕組みを将来的には全国5000エリアへと水平展開させる方針にある。

こうした軽貨物車両とは、求荷求車サービスも比較的相性がいい。ヤマト運輸とも資本提携を締結するラクスルのマッチングシステム「ハコベル」では、大手宅配会社のラストワンマイル業務における軽貨物事業者のマッチングが主要利用シーンのひとつになっている。他方で、軽貨物便事業者にとっては安定的に車が満載になる仕事でないと生計は成り立たず、「都度スペースをマッチングするような需要はそれほど高くない」との指摘もある。

大手宅配会社のスタンスは?

「宅配クライシス」で大きく注目を集め、ほぼ横並びの形で運賃値上げに踏み切った宅配3社の現状はどうか。
最大手ヤマト運輸は、大口法人荷主との契約見直しで一旦は宅急便荷物を減らすものの、複合型ラストワンマイルネットワークをして集配キャパシティを拡大した上で、再び、EC貨物の物量増に応える計画にある。今は、夜間配達特化型ドライバー「アンカーキャスト」の雇用を進めながらオープン型宅配ロッカーの増設ややコンビニなどの受取タッチポイントの拡充に力を注ぐ。大口顧客の商材や大型の荷物を専門に扱う「域内ネットワーク」の構築も視野に入れつつ、自動運転技術など新技術の実用化に向けた研究も取り組む。

ヤマト運輸の運賃交渉と総量規制を受け、楽天をはじめとする通販会社の中には、配送会社を日本郵便へ切り替える動きもあった。同社では最大の山場であった昨年末の繁忙期も一部地域で遅延こそあったが、大きな混乱なく乗り越え、社員の自信と荷主業界からの信頼にもつながっている。ヤマトから流れる荷物を引き受ける形で取扱量を急拡大しており、この6月末には法人郵便物の集荷も廃止して、ゆうパックの成長へ経営資源を集中させている。さらに、9月には配達希望時間帯を6区分から7区分に拡充してとくに夜間帯の受け取り利便性を高めるほか、来春には荷主と利用者の同意を前提に置き配(指定場所配達サービス)を開始するなどのサービス改善を打ち出していく。

一方、佐川急便は、ヤマトや日本郵便とは一線を画し、BtoCからBtoB小口貨物に軸足をシフトしている。グループ横断の営業戦略チーム「GOAL」の案件に付随する小口商業貨物や、スマート納品サービスなどソリューション提案の中から輸送需要を掘り起していく戦略だ。また、適正運賃収受による単価改善にも引き続き注力し、デリバリー事業の利益率向上に大きく貢献している。ヤマトと同様、取扱個数の増加には距離を置いており、むしろ品質維持のための配達員の採用強化や委託先の確保など人材確保による安定化に力を入れていく。
(2018年7月31日号)


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