長距離フェリー協会、「24年問題」でシンポジウム開催
日本長距離フェリー協会(尾本直俊会長)は11日、東京都千代田区の海運ビルで「2024年問題・物流危機への提言」と題するシンポジウムを開催した。第1部はフェリーを活用したモーダルシフトの実態や効果に関する基調講演の後、荷主と物流事業者の立場から東京エレクトロンBP、F―LINE、佐川急便、ランテックの担当者がフェリーを活用した長距離輸送の事例を発表した。第2部はパネルディスカッションを開催。尾本会長と登壇した4社の担当者がパネラーとなり、根本敏則・敬愛大学教授がコーディネーターを務め、モーダルシフト実現のための課題をテーマに話し合った。
目の前の課題をロジスティクスを見直す好機に
開会冒頭、挨拶に立った尾本会長(写真)は「『2024年問題』など大きな課題が目の前に控えているが、ここでしっかりと対応することで、従来のロジスティクスのあり方を見直す好機が生じているのではないか」と問いかけ、「今回のシンポジウムを通じて、輸送モードの転換や多様化を実現する可能性としてフェリーの利用を検討していただくためのヒントを提供したい」と述べた。
第1部の皮切りに、復建調査設計執行役員技師長で流通経済大学客員講師を務める加藤博敏氏が長距離フェリー利用の実態や課題をテーマに講演した。加藤氏は長距離フェリーを利用した場合のコストについて「全産業並みのドライバー時間給など人件費や、車両損料などを参入すれば、10tトラックよりも運行コストが安くなり、20tトレーラとほぼ同等になる」と指摘。CO2排出量の削減などSDGsの観点も合わせ、長距離フェリーを利用するメリットを強調した。
続いて、東京エレクトロンBP物流戦略企画担当ディレクターの村冨真治氏が半導体製造装置の輸送の一部をフェリー利用に転換した事例を紹介。ドライバーの走行時間を40%削減、CO2排出量を44・8%削減した成果を報告した。
F―LINE南関東支店マルチモーダルサービスセンター長の棚村隆蔵氏はトラック・鉄道・船舶など複数の輸送モードを活用して幹線輸送を行う「マルチモーダルサービスセンター」の取り組みを紹介。顧客の工場再編に伴う新たな輸送経路の構築時にモーダルシフトを考慮した経路設計を行うとともに、リードタイムを3日に延長することで名古屋から仙台への輸送でモーダルシフトを実現した。なお、この取り組みは今年5月に国土交通省と長距離フェリー協会が主催する「海運モーダルシフト大賞」を受賞した。
佐川急便輸送ネットワーク部部長の西井茂氏は同社と日本郵便が連携し、東京九州フェリーを利用して昨年8月から開始した関東から九州への共同幹線輸送の取り組みを紹介。佐川急便・Xフロンティアとその近隣に位置する日本郵便・新東京郵便局の荷物を混載したトレーラが横須賀港を出発し、新門司港に到着。車両は同港から日本郵便・新福岡郵便局と佐川急便・福岡センターで荷降ろしするスキームでドライバーの時短とCO2排出量削減を実現。この取り組みにより佐川急便、日本郵便、東京九州フェリーは今年6月、第24回物流環境大賞特別賞(日本物流団体連合会主催)を共同受賞した。
ランテック常務取締役の原弘規氏は、冷凍・冷蔵小口混載便の「フレッシュ便」の関東・九州間の幹線輸送で大型トラックの長距離輸送から、横須賀港と新門司港を結ぶフェリーを利用した20tセミトレーラの無人航送に転換した取り組みを紹介。従来の運行と比べ78%の省人化とCO2排出量54%削減を実現した。このほかにも大阪南港と新門司港を結ぶフェリーによるセミトレーラの無人航送など、積極的なフェリーの活用事例を説明した。
政府の支援と業界の努力が不可欠
シンポジウムではモーダルシフト実現のための課題について各社が意見交換を行った。コーディネーターの根本教授は「今月6日に政府が取りまとめた『物流革新緊急パッケージ』では、フェリーとRORO船による貨物輸送量と輸送分担率を今後10年程度で2倍にする高い目標を掲げた。その実現にはかなりの困難が予想されるものの、政府は必要な予算措置や規制緩和など支援の取り組みを実施すると思われる。実際に船を運航する事業者の方々も、輸送力増強に向けた設備投資やサービスの拡充など、様々な努力を行っていただきたい。荷主・物流事業者・行政など関係者全体が連携し、実現に向けて頑張っていきましょう」と締めくくった。
(2023年10月17日号)