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アスクル/AVC関西 GTP、GTRで通販物流のバリューを創造

2022.06.30

EC通販大手のアスクル(本社・東京都江東区、吉岡晃社長)は、主力の事業所向け(BtoB)通販サービス「ASKUL(アスクル)」が毎年業績を伸ばしており、現在の取扱商品点数は1200万点にのぼる。一般消費者向け(BtoC)通販サービス「LOHACO(ロハコ)」も好調で、商品を迅速かつ高品質な物流で提供するため重要な役割を果たしているのが、全国に9拠点を構える物流センターだ。なかでも2018年に開所した「ASKUL Value Center関西」(AVC関西、大阪府吹田市)では、物流ロボットや先進的なマテハン機器及びシステムを積極的に導入し、激しい競争下にあるEC市場において「新たな価値の創造」の実現を目指している。

「うれしい」を届け続けるために

AVC関西(写真)は同社で8番目に誕生した物流センターで、最大級の規模を誇る。地上4階建て、敷地面積は約7万5000㎡、延床面積は約16万5000㎡で、在庫品のほかクロスドック商品も扱い、年間1000億円規模の出荷能力を有する。アスクルとロハコのサービスを取り扱い、大阪DMC(大阪市此花区)とともに近畿地区およびその周辺エリアをカバーしている。

同社では「仕事場とくらしと地球の明日(あす)に『うれしい』を届け続ける。」を掲げ、「可能な限りひとつの箱で当日・翌日配送」の完全遂行を目指している。物流スタッフはすべてグループ会社の従業員で構成し、自社配送網の構築を進めるなど「物流」を重視する同社では、長年に渡り「物流センターの進化」に注力してきた。

6年前に開所した「ASKUL Logi PARK 福岡」(ALP福岡、福岡市東区)では、デジタルピッキングシステム(DPS)を中心としたオペレーションを構築。その翌年に開所したALP横浜(横浜市鶴見区)では、「人が歩かない物流センター」の構築を目指し、ピッキング場所まで荷物を搬送する「Goods to Person(GTP)システム」を導入したほか、ピースピッキングロボットなど「Goods to Robot(GTR)システム」も採用し、生産性の向上を実現した。こうした実績を経て、AVC関西ではGTPの比率を大幅に引き上げ、生産性の向上と労働負荷低減を目指している。

同社ロジスティクス本部物流戦略企画統括部長の才田啓三氏は「AVC関西はアスクルのほか、近年急成長しているロハコも取り扱う施設とするため、受注波動の違いがある双方の特性を活かした効率的な運営が行える物流センターにする必要があった。さまざまな種類・特性の商品をひとつの梱包で出荷し、当日・翌日にお届けするサービスを提供するため、GTPの比率を高めた最新鋭の物流センターとした」と振り返る。また、ロジスティクス本部物流戦略企画物流企画部長の末吉賢次氏は「物流センターの設備設計時には、商品の出荷頻度やサイズ、受注の特性などをポイントとしているが、近年はDXも意識し、可用性の高さ、高密度保管、ロボットを含めた代替労働力の確保なども設計時から検討しており、AVC関西にも反映されている」と説明する。

GTPでスムーズな庫内作業を実現

こうして設備設計されたAVC関西には、物流センターの機能を最大限発揮できるマテハン機器や機能を多数導入している。

4階の入荷エリアにはギークプラス製の無人搬送車(AGV)を配置し、作業員がハンドフォークでパレタイズ荷物をAGVに搭載すると、ケース自動倉庫の投入口まで自動搬送する。従来、自動倉庫までの工程は作業員がハンドフォークで搬送していたため、作業時間の長さと作業負担がネックとなっていたが、搬送の自動化により、作業効率と生産性が格段にアップし、作業負担も大幅に軽減した。
商品はその後、折りたたみコンテナで入出庫シャトルシステムに移され、出荷指示に基づきピッキングステーションへ搬送される。

ピッキングは出荷頻度の高いA品、中頻度のB品、低頻度のC品のそれぞれを、GTPの定点ピッキングにて集品している。ピッキングが完了すると、荷合わせシャトルに格納し、梱包場所に払い出される流れとなる。なお、A品の小~中サイズの商品については、Mujin製の知能ロボットコントローラーを搭載したピースピッキングロボットがピッキングを行っている。人の生産性約7割程度のピッキング能力を持ち、折りたたみコンテナも数種類のサイズに対応している。現在2台を投入し、作業効率を高めている。

末吉氏は「従来の物流センターでは、オーダーが入るとピッカーがA品~B品~C品と、各ピックゾーンを歩いてピッキングする方法が主流だった。しかし、アスクルとロハコの双方を扱うAVC関西では望ましくなかった」と語る。加えて「特にロハコは季節波動やセールの時期、一時の流行などで商品の出荷頻度が大きく変わるため、従来型の一筆書きの作業導線ではいずれかのゾーンで必ず〝渋滞〟を起こしてしまう。そこで注目したのがこのGTPの定点ピッキングだった。A品からC品を別々に集品し、最後に荷合わせするこの方法なら〝渋滞〟を起こすこともない。ピッカーも広大な物流センターを歩き回らずにすむ」(末吉氏)と説明する。

こうして梱包場所に運ばれた商品は作業員が一つひとつ丁寧に箱詰めし、自動製封函システム・オートラベラーで封函、荷札を貼って出荷される。

構造的課題への対応

才田氏は「当社の物流モデルには解決すべき課題があった」と話す。「ひとつは、高頻度の商品を当日・翌日配送するため広大な在庫・保管スペースが必要となり、品揃えを拡大しづらかったこと。もうひとつは、メーカーや卸とのシステム連携に未成熟な部分があり、在庫していない商品の提供が難しかったこと」(才田氏)とし、AVC関西ではそうした課題は改善していると話す。そのひとつが自動倉庫の増設で、これまではケース商品や一部C品のみで活用していたが、AVC関西ではGTP化することで、ほぼすべての商品を自動倉庫で保管することとした。その結果、従来はデッドスペースとなっていた作業場の上部空間を活用し、高密度保管が可能となった。また人に依存しない商品収容も実現した。さらに、倉庫管理システムの高度化によりメーカーや卸との連携も図れるようになり、当日・翌日の配送商品が拡大したという。

一方、末吉氏は、「機械化や自動化で改善した物流の流れを止めないことが大切」として、機器メンテナンスの重要性を訴える。同社ではエンジニアが常駐し日々のメンテナンスに携わっているが、すべての点検箇所をエンジニアが巡回して目視で故障の予兆を見つけ出すのは容易ではない。そこで、作業の効率化と異常時の迅速な復旧の実現のため、機器の故障を予知して通知する仕組みを作り、巡回を効率化する取り組みを実施している。この仕組みを20の設備でトライアルしたところ、年間で300時間超もの削減効果が得られたという。また、物流センター内の設備エラーやピッキングロボットの稼働状況も見える化し、問題発生時には即時対応できる仕組みを整えている。

DX推進で物流モデルを進化させる

同社では、成長を続けるEC市場への対応と、それと反比例するように押し寄せる人材不足への危機感を念頭に、25年5月期までの中期経営計画における重要戦略としてプラットフォーム改革を掲げ、その実現のため「ECバリューチェーン全体のDX」を推進している。GTP、GTRによる物流センターのオペレーションの変革もその一環で、こうした取り組みが評価され、経済産業省と東京証券取引所が共同実施する「DX銘柄2022」の「DX注目企業2022」に選定された。

末吉氏は「バリューチェーンのさまざまなポイントにおいて顧客の価値、われわれの価値を上げていくような取り組みをDXで追求していきたい」と話しており、物流センター内の課題のみならずトラックドライバーに関係する課題にも着手している。そのひとつとして、トラックの長時間待機や車両混雑緩和を目的に、Hacobuが提供するトラック予約受付サービス「Movo Berth」をAVC関西に導入した。これによりAVC関西の平均待機時間は3分の1以下へと劇的に減り、入荷キャパシティの増加や生産性向上につながっている。こうした実績を踏まえ、現在では全拠点に「Movo Berth」を展開している。

人にやさしい物流センター

作業効率、生産性の向上を図りながら働く人にも配慮した設備設計で効果を上げているAVC関西。同社では、AVC関西のほかALP福岡、ALP横浜といった大規模センターで従業員に昼食を無料で提供している。栄養を考えた〝一汁三菜〟のメニューで従業員の健康に配慮しており、好評を得ているという。また、物流センターを構える地域との共生、協力にも積極的で、AVC関西のある大阪府吹田市のほか、埼玉県日高市、福岡市、東京都、千葉市といった各自治体との間で、災害時に物資・食料の提供や輸送協力に関する協定を締結している。緊急時には物流センターに保管している商品を提供するほか、物流センターを救援物資の集積、荷さばき、搬出などの輸送拠点として提供するなど、地域への貢献を惜しまない。才田氏は「地域に貢献できることは積極的に進めていきたい」としており、同社では今後も、顧客、従業員、地域と、人にやさしい物流センターの構築を進めていく。
(2022年6月30日号)


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