成田で「航空物流の未来」を討議=第5回「成田ビジネス講座」
新型コロナウイルス感染症の拡大による旅客事業の不振が続く航空業界において、輸送需要が大きく回復する貨物事業への関心はますます増している。20日に千葉県成田市で開かれた「第5回成田ビジネ講座」では、この「航空物流」にテーマが据えられ、定員の100人にほぼ達する参加者が集った。当日は、日本貨物航空(NCA)、全日本空輸(ANA)、日本航空(JAL)の航空大手3社と日本通運、そして成田国際空港(NAA)が、それぞれの立場から航空物流の現状と未来について語った。
アジア米州の中間にある成田、競争力強化へ貨物地区集約を
セミナーではまず、成田空港を主基地とする貨物専用航空会社のNCA、航空フォワーダー最大手の日本通運、そして空港会社であるNAAの代表者が各社の現状を報告した。
NCAの本間啓之常務は、コロナ前を上回る勢いで航空貨物が回復している状況に加え、半導体輸送需要の拡大などを背景に貨物専用機の役割がさらに増していくことを指摘。成田をハブとしたアジア~欧米ネットワークを強みとする同社だが、同空港の強みは高品質なサービスとわが国首都圏へのゲートウェイであること、そしてアジアと米州の中間に位置する地理的優位性にあるとした。成田のさらなる展開に向けては空港内外の貨物施設を集約して一体運用することで、国際競争力を高められると強調した。
日本通運関東甲信越ブロックフォワーディングビジネスユニット国際航空貨物統括部の金森祥之部長は、現在の航空貨物市況を「激動期」と表現。同社の航空貨物は7割が成田を経由することから同空港は「替えがきかない国際物流の重要拠点」であり、BCP対策を万全に備えるほか、成田・野毛平地区に構える総面積9万㎡の上屋施設では生鮮や梱包など多様な機能を備えることを紹介した。同社ではグローバル展開を進める中、成田をハブとしたアジア発欧米向けの貨物輸送サービスを構築していく。
NAA営業部門貨物営業部の宇野茂部長は、コロナ禍の今、貨物事業が同社唯一の収入源といえるほどの状況にあると説明。国内空港における成田の国際航空貨物取扱シェアも、コロナ前の55%程から62%へ上昇しており、空港の機能強化に向けて貨物地区の敷地および機能を拡大していく方針を示した。貨物地区におけるインナーブランディングにも取り組んでおり、動画およびポスターの制作や「フォークリフト&パレットビルディング競技会」なども紹介した。
「航空貨物増1~2年は続く」自動化への投資も必須
続いて行われたパネルディスカッションでは、ANA成田貨物郵便部長兼ANAcargo取締役の勝部昭男氏が司会を務め、先に登壇した3者にJALカーゴサービス社長兼JALカーゴハンドリング社長の森本義規氏が加わり、成田を取り巻く航空物流の情勢について意見を交換した。
コロナ後の航空物流業界の動向に関しては、勝部氏が「現場業務の自動化・機械化は難しい側面もあるが、定型の貨物を決まった形に組む作業であれば余地もあり、会社として投資していくべき」とし、森本氏は「IT化やe‐AWB化など業界が一丸となって取り組む必要があり、コロナ後に国際旅客便が戻っても成田が航空貨物の中心になるよう、付加価値や利便性をさらに高めるために皆の英知を集結するべき」と呼びかけた。
航空貨物物量の見通しは、本間氏が「今は異常な盛り上がりだが、この状況は1~2年は続く。国際旅客便が戻っても、コロナで人の考え方やモノの流れ方は変わっており、旅客航空会社との提携や空港会社、フォワーダーと一体となった取り組みで新常態をつくれる」とコメント。森本氏も「米国西海岸を含めた港湾機能のひっ迫や半導体不足などもあって、今年度中はもちろん、来年度いっぱいまでこの航空物量は続く」との見方を示した。
貨物地区の整備拡張へ期待、転送機能の強化も課題
話題は成田貨物地区の「課題」へと移り、金森氏は、「野毛平の物流施設から成田への横持ち時に渋滞が発生しており、成田貨物地区内の狭隘化も心配」とし、貨物地区の整備拡張を要望。これを受けて宇野氏は「環境の要求も非常に高まっており、現在分散して効率を悪化させている貨物地区の施設を一体化して全体の移動距離を短くするなど、短期・中期・長期でできることを社内で調整していく」とした。
また、同氏は「貨物には社内でもかなり注目が集まっていて、経営陣の考え方が変わっている。従来は旅客最優先だったが限られた土地を貨物に使う議論ができるようになっている」ことも報告。現在は中部空港にのみ確保されている「総合保税地域」の導入については「地元の人にも活用してもらえる良いアイディアであり十分検討したい」と応じた。
成田貨物地区では人手不足も課題のひとつとなっており、勝部氏が「貨物分野ではコロナ前より人手不足が顕在化しており、機械化が難しい中、外国人労働者などの話もある」とすると、森本氏は「旅客便が減っている今はグループの従業員の力を借りられるが、復便時にはコロナ前のように優秀な外国人労働者の活用や省力化が重要」とした上で、「特定技能外国人などは手続きが煩雑であり、例えば航空専門学校の成績優秀生には資格を与える――など踏み込んだ施策があってもいいのでは」と提案した。
事務作業の効率化にもつながるペーパーレス化に関しては、本間氏が「日本の取り組みはやや遅れている。JAL・ANAの2社に先行していただいていて、当社では現在60~70%の状況だが、これを100%にするには、個社だけでなくフォワーダーや空港会社、行政を含めて取り組む必要がある」とした。
最後に、成田空港の国際競争力強化に向けて、森本氏は「日本の消費者・企業へのサービスレベルをより磨くべき。具体的には搬出入で4~5時間も待たされ、航空便の“スピード”を奪っている。生鮮食料品や半導体、医薬品などにも耐えられるようにするべき」と指摘。金森氏は「アジア~北米の航空需要が増す中、アジアから揚がる貨物をいかに転送できるかが重要だが、仁川空港などに対し、成田では若干のハードルがある。加えて、マルチモーダル輸送が増える一方で、船便から航空便への経由も規制があって進められない」との現状を訴えた。本間氏は「国家戦略として貨物事業に力を入れているアジアの空港に負けている、というのが率直な感想。成田は非常に優位性のある空港であり、各者が連携して何ができるか考えていきたい」と展望した。
「成田ビジネス講座」は成田空港を軸とした地域振興を目的に企画され、今年4月に第1回の講座を開催。次回第6回は11月17日に「若人が語るこれからのナリタ」をテーマに実施される予定。主催は成田ビジネス講座実行委員会、後援は空港圏自治体連絡協議会、成田商工会議所、成田空港活用協議会。
(10月28日号)