【レポート】地域に根ざす有力倉庫会社の最新動向
◆食品共配の拡大に注力=拓洋◆
拓洋(本社・埼玉県八潮市、鈴木裕司社長)は食品共配事業の拡大に注力している。2021年5月に竣工を予定している野村不動産の「Landport越谷」(埼玉県越谷市)を1棟借りし、食品のドライ倉庫として開設するとともに、サブリースとして顧客への転貸も視野に入れている。今後は、サブリース部門の物件の仕入れをさらに増強するとともに、食品共配の事業エリアを拡大し、22年度に売上高150億円を目指す。
「Landport越谷」を食品共配で活用
拓洋は関東1都6県を中心に物流事業、建設事業、トランスロジ事業(オフィス移転作業や特殊貨物の保管・流通加工・輸配送を組み合わせたサービス)の3本柱を展開。売上高に占める割合は物流事業が約8割で、このうちサブリース部門が約6割、営業倉庫・運送部門が約4割で構成されている。中核のサブリース部門では、関東と大阪で500棟を超える物件を管理・運営し、営業倉庫・運送部門では主に関東圏で食品の共配をはじめ、アパレルや家電、日雑品を取り扱っている。
その中で、食品共配事業の東北への進出を目指し、「Landport越谷」にドライ倉庫を開設する。同施設は東北・常磐自動車道に直結する東京外環自動車道「草加IC」まで約7・7㎞と至近で、敷地面積は1万2999㎡。庫内作業の効率化や労働環境、立地条件の面でも好物件だったため、「Landport越谷」を選定した。同社ではすでに、食品共配のエリア拡大に向けた検討が進んでおり、来年6月から東北進出のプロジェクトを始動する。
共同物流、倉庫のシェアリングも
共同物流にも積極的に取り組んでいく。千葉県の房総半島における過疎地域では、同社の食品と、他社の家電やスポーツ用品、衣料品などを混載し、小規模の家電量販店やスポーツショップ向けに共同配送する計画を進めている。物流事業本部の山口智之本部長は「小さい町には個人経営しているスポーツショップや家電小売店が点在しており、そのような過疎地への輸送は1社単独では積載率が低く非効率になっている。同じような課題を抱える他社と協働することで、課題の解決につなげていきたい」と説明する。
このほかの取り組みでは、家電やアパレルなど倉庫を保管品目別に統一し、同じ品目を取り扱う他社と倉庫スペースを共有するシェアリングによって効率化を実現している。
顧客要望に応じて臨機応変に対応
サブリース部門では一般的な不動産会社と異なり、物流事業者目線からの物件の仕入れに強みを持つほか、倉庫事業のアセットやノウハウを活用することで、顧客の要望に合わせた柔軟なサービスの提供を可能にしている。
例えば、顧客の荷主の都合などで一定期間、賃借する倉庫スペース3万㎡のうち、2万㎡しか貨物が埋まらない場合、本来なら残り1万㎡分の賃料も発生する。しかし、拓洋では1万㎡の空スペースを自社で運営することにより、顧客はその分の賃料を払うことなく利用できる。山口氏は「物流事業者のお客様は荷主ごとで貨物の状況が異なる場合が多い。使用しない空スペースには当社の季節波動に合わせた貨物を保管することで、一定期間後は再びスムーズに顧客に転貸できる仕組みになっている」と説明する。
23年9月には、伊藤忠都市開発が建設を予定している「(仮称)アイミッションズパーク吉川美南」(埼玉県吉川市)に「吉川市美南物流センター」を開設する。同センターは生鮮品を扱う物流事業者にサブリースする予定。今後は毎年約3万3000㎡の倉庫スペースを確保するなど大阪をはじめとした関東以西の仕入れをさらに増強していくとしている。
長期で売上高200億円を目指す
同社は近年、毎年売上高を拡大させており、19年度は売上高137億円を達成した。今年度の上期実績は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、アパレルや家電は低調に推移したものの、食品の好調が全体の業績を下支えし、前年同期比では横ばいを維持した。山口氏は「社会インフラとしての責任をより一層実感した」と振り返り、今後については「食品や日用雑貨をさらに拡大する」と方針を示す。18~22年度の中期経営計画(5ヵ年)の最終年度では、売上高150億円の達成を掲げており、長期的なビジョンとして売上高200億円を目指している。
そのためには、人材教育と労働環境の整備に注力していく。山口氏は「将来的に自動化の波が押し寄せても人の力は必ず必要になると感じている。今の若手が活躍できるよう体制を整備していくことが重要だ」とし、「事業者の多くは中間層の人材が空洞化しているため、そこを埋めていきたい」と強調する。
昨今では、採用強化にも積極的に取り組んでおり、庫内従業員やトラックドライバーの女性比率が向上している。自社車両も事業規模拡大に向け、6台増車した。山口氏は「拓洋は埼玉における認知度が非常に高いため、(車両の増強は)人材採用に向けたアピールポイントになる。今後も引き続き採用活動を実践し、事業拡大につなげていく」と語る。
◆茨城を中心とした拠点戦略を推進=沼尻産業◆
沼尻産業(本社・茨城県つくば市、沼尻年正社長)は茨城県の物流における立地優位性を活かし、首都圏への物流ネットワークの構築に取り組んでいる。とくにここ7、8年は拠点の増設を積極的に実施し、事業基盤を拡大。今後も引き続き、茨城県を中心とした拠点戦略を推進し、顧客の物流合理化と効率化につなげていく。
倉庫事業は売上高の8割を占める
同社は1962年につくば市で創業し、運送事業からスタート。85年の「国際科学技術博覧会(つくば万博)」を契機に、つくば市での保管ニーズが高まったことから倉庫事業に本格参入した。2000年頃からは、米国から帰任した沼尻社長が社内の構造改革に着手。現在は食品や精密機器、アパレル、重量物、医薬品関連、危険物など多様な商品を取り扱っており、物流拠点は23拠点、総延床面積は16万㎡へと拡大。倉庫事業はグループ売上高の約8割を占める中核事業へと成長した。
近年はつくばエクスプレスや圏央道の開通により、つくば市に多くの物流不動産ファンド系企業が進出。首都圏に向けた物流拠点の立地優位性が高まる中、同社は長年に渡り、茨城県を中心とした拠点戦略を掲げ、顧客ニーズに対応している。来年3月には茨城県つくば市に1万8857㎡規模の飲料品専用倉庫を開設する。平屋構造とし、上層階への往来に伴う時間ロスを削減したほか、有効天井高7mを確保することで、高い保管効率を実現。ドライバーや庫内従業員の労働環境にも配慮し、女性パウダールームやシャワールーム、靴を脱いでくつろげる「寝ころびスペース」を完備する。立地は常磐自動車道「谷田部IC」から至近で、首都圏から50㎞圏内とアクセス利便性に優れた物流適地となっている。
同年10月には危険物の取扱量の増加に伴い、茨城県阿見町の工業団地内に「稲敷第一危険物倉庫」を開設する。危険物倉庫3棟(A棟560㎡、B棟996㎡、C棟478㎡)から構成され、総延床面積は約2000㎡。敷地内には常温倉庫(360㎡)も併設する。このほか、医薬品関連倉庫など22年までの物流施設新設の計画が決定しているという。
沼尻氏は「茨城県は道路の面積が北海道に次いで2位と広く、平坦な地形のため道路付けがしやすいことも物流面では大きなメリット。つくば市をはじめ、茨城県における物流拠点の重要性が改めて認知されているため、今後も取扱品目を増やしつつ、それぞれの領域でセグメントの専門性を高め、顧客ニーズに対応していく」と方針を示す。
シンガポールからASEAN進出を視野に
海外では01年にシンガポール法人を設立。主に食品と電子部品の3PL事業を展開している。食品物流では、300店舗ほどの現地の小売店向けに商品の保管・配送から実店舗での陳列までのサービスを提供している。
その中で、同社では17年から茨城県と連携し、県内からシンガポールへの食品輸出の拡大に向けた取り組みを官民一体で展開。また、日本の中小食品メーカー向けに、シンガポールへの輸出と現地での保管・配送から販路拡大までをトータルで支援するサービス「シンガポールディストリビューションプラットホーム(SDP)」を構築している。サービス開始当初は茨城県で製造された日本酒から始まり、現在は加工食品や県内産の青果物の取り扱いも増えている。
沼尻氏は「県内生産者への営業活動を積極的に行っているほか、サービス利用に向けた調整も実施している。事業規模は小規模だが、茨城県の地域貢献にもつながるため、今後も引き続き事業として成長させ、将来的には製造・物流・販売の一気通貫型のビジネスとして、食品など特定の分野に特化し、中核事業のひとつとして確立したい」と展望する。このほか、長期戦略としてシンガポール近隣のマレーシア、インドネシア、タイへの事業拡大も視野に入れている。
5年後に売上高100億円へ
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多くの業界で荷動きが停滞している中、食品物流を核とする同社では好調を維持している。国内の輸出入はメーカーの製造ラインがストップし、精密機器やアパレルが低調に推移した一方、今年3月頃から外出自粛に伴う食品の買い溜めが発生。7月まで消費が高止まりしていたことが食品を多く扱う同社では総体的にプラスに作用し、トータルでは増収増益となった。沼尻氏は「20年前から構造改革を継続して実践していたからこそ、現在の緊急事態でもお客様の物流を止めることなく対応できている。リーマンショックや東日本大震災での経験が現在に活かせている」と振り返る。
19年9月期業績は増収増益となり、今期も倉庫拡充による物量の増加で引き続き好調に推移する見通し。その中で、今期からスタートした5ヵ年の中期経営計画(20~25年度)の最終年度では、売上高100億円の達成を目指している。
社員の「物心両面の幸福」を実現する
物流業界における人手不足対応として、社員の「物心両面の幸福」の実現を図っている。17年から沼尻氏をはじめとした社内管理職が社員に対する賃金・評価制度の見直しに向けた検討を実施しており、等級や評価基準の内容を大幅に改定。18年には賃金のベースアップを行い、人材教育では2000年頃から毎年多額の予算を投じている。
沼尻氏は「改定を行った瞬間から陳腐化が始まるため、評価基準を都度見直していくことが重要だ」と語り、「社員の満足なしに顧客の満足はあり得ない。待遇改善や労働環境の整備には引き続き積極的に取り組んでいき、物流業界全体の永続的な発展に寄与したい」と強調する
(2020年11月26日号)