【ズームアップ】テレワーク、物流業界の導入の課題は?
新型コロナウイルス感染拡大を受け、物流業界でも事務職を中心に「テレワーク」の導入が進みつつある。企業にとってテレワークの意義は「多様な働き方の実現」から「BCP(事業継続)」にシフトしつつあり、これまでテレワークに及び腰だった企業も非常時に尻に火が付いて導入に踏み切った格好だ。しかし、セキュリティや労務管理、業務の評価など前提となる制度やルールの整備が追い付かないまま見切り発車しているケースもあり、アフターコロナの、〝新常態〟における新しい働き方として定着させるには土台づくりが不可避だ。
「働き方改革」と「交通混雑対策」が取り組みを後押し
物流業界がテレワークに向き合うきっかけになったのが、「働き方改革」。労働人口の減少が深刻化する中、育児や介護を抱える女性が働きやすい環境を整え、「ワークライフバランス」を実現することは、女性も含めた多くの人材を業界に呼び込むことにつながる。物流業務の中にはドライバーや倉庫作業員などテレワークが適用不可能な職種も多いが、管理部門では導入可能性があることから、日本物流団体連合会(物流連)では18年6月に物流業におけるテレワークを導入するためのガイドラインを策定した。
テレワークの取り組みを後押しすることになったもうひとつのきっかけが、来年に開催延期が決まった東京オリンピック・パラリンピック。大会期間中の都心部の交通量を抑制するため、関係省庁と東京都が連携し、テレワークの普及拡大を目指す「テレワーク・デイズ」国民運動を展開。昨年は2887団体、約68万人が参加。交通混雑対策と関係の深い物流業界でも取り組み機運が高まった。
物流関係の実施率は全業種中最低の16%
新型コロナウイルスの感染拡大対策として政府の緊急事態宣言が発令され、テレワークを開始する企業は急速に増えている。パーソル総合研究所が行った4月の調査では、テレワーク実施率の全国平均は27・9%で3月の調査時の13・2%に比べて2倍以上となった。もはや「多様な働き方」として以上に、従業員への安全配慮や緊急事態宣言下での事業継続という観点で、テレワークと向き合わざるを得ない状況となっている。
物流業界でもテレワークを一部取り入れている企業が増えてはいるものの、東京商工会議所のアンケート調査によると、「交通運輸/物流/倉庫業」のテレワークの実施割合は全業種中最低の16・4%。国土交通省が毎年実施するテレワーク人口実態調査(19年度調査)では、「運輸業」の雇用型テレワーカーは10・3%とさらに低い。これはテレワークできない業務が多いことが要因と想定される。
しかし、テレワークができる環境にある事務職でもあえて導入していないケースもみられる。「テレワークできる部門とできない部門で社内の不公平が生まれるのは避けたい」、「こういう状況下で、自分はテレワークであとは現場任せ――というわけにはいかない」など、物流業界特有の現場を慮る“文化”もテレワークの壁となっているようだ。
テレワーク人口実態調査では、勤務先にテレワーク制度等が導入されている雇用型テレワーカーの割合はわずか19・6%。物流業界では必要に迫られ今回初めてテレワークを実施した企業も多く、社内にテレワーク制度がなく、労務管理やルール、テレワーク中の業務の評価もあいまいになっているケースもみられる。運送業者からは「テレワーク時の労務管理に関する法整備が必要」との声も上がっている。
パソコンなど機器の整備だけでなく、システム環境の整備も課題となる。とくに通関士の在宅勤務に関してはセキュリティに対する不安もよく聞かれる。コロナの影響の長期化を踏まえ、東商が出した緊急要望でも「テレワークはデータの秘匿性を守る、有事の際の一斉アクセスに耐えられるシステム構築が課題。政府にはインフラ整備のための資金支援を検討してほしい」といった物流業の声も紹介されている。
国交省の新型コロナウイルス感染症対策の調査では、テレワーク制度のある雇用型テレワーカーのうち、感染症対策の一環としてテレワークを実施した人は半数を超えた一方、勤務先にテレワーク制度がない場合は、実施割合は1割未満と少なく、制度の有無で実施程度に大きな落差が生じていた。アフターコロナを見据え、平常時でもテレワークを働き方のひとつとして定着させ、かつ緊急時にも有効に機能させるには制度的なバックボーンも必要になりそうだ。
(2020年5月19日号)