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【ズームアップ】物流現場が「出向先」として注目

2021.01.21

新型コロナウイルス感染症拡大の影響で業務量が減っている業種の企業からの出向受け入れ先として、物流現場が注目されている。EC需要の増大などで一部の物流現場では人手不足が慢性化しており、旅客需要が激減した航空分野などの従業員の受け入れが始まっている。政府は出向によって労働者の雇用を維持する「在籍型出向」(雇用シェア)に対し、出向元と出向先の双方を支援する新たな助成金を創設する方針で、物流業界でも活用される可能性がある。

「産業雇用安定助成金」を創設

政府はコロナ禍で事業活動の一時的な縮小を余儀なくされ、労働者の雇用を「在籍型出向」により維持するため、労働者を送り出す事業主および当該労働者を受け入れる事業主に対して、一定期間の助成を行うことを決めた。まもなく始まる通常国会での第3次補正予算の成立や厚生労働省の省令改正を経て「産業雇用安定助成金」(仮称)として創設する。

出向元事業主と出向先事業主とが「共同事業主」として支給申請を行い、対象労働者の賃金や教育費、労務管理費に関する調整費など出向中に要する経費の一部について1日あたり1万2000円を上限に助成する。初期経費の助成額は1人あたり10万円、加算額は5万円となっている。
雇用の維持に関しては、休業手当を支給して従業員を休ませた場合に政府が費用の一部を補填する「雇用調整助成金」があり、コロナ対応のための特例措置は2月末の期限の再延長が検討されている。雇調金でも出向への助成はあるが、助成率・助成額が少ないために休業を選ぶケースが多く、出向は進んでいなかった。

省人化・省力化も進み受け入れニーズは?

物流業界は慢性的な人手不足が課題とされ、とくにコロナ禍で需要が拡大したECの物流現場ではその傾向が強い。一部の物流センターなどではワークライフバランス重視やコロナ感染リスク回避のため、人手の確保に苦慮している。コロナ不況業種からの出向の受け入れが進めば、一時的に人手不足の解消に寄与する可能性もある。

産業雇用安定センターでは、コロナの影響を受け、「従業員に余剰感があるが雇用を維持したい企業」と、物流関連など「人材不足が顕在化した企業」の出向マッチングを無料で行っている。関東経産業局は同センターと連携し、ポータルサイトを昨年10月から期間限定で開設しているが、「運輸・物流」分野での出向受け入れ希望登録企業は4社にとどまっている。

従来から物流現場は雇用の受け皿として機能してきた面があるが、一方では、近年、生産性の向上や人手不足解消に向けて省力化・省人化機器の導入も進んでいる。倉庫作業員などを含む「運搬・清掃・包装等の職業」の11月の有効求人倍率は0・62倍となっており、出向受け入れのニーズは限定的とも考えられる。
(2021年1月21日号)


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