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【レポート】越境EC拡大、輸入適正化へ制度見直し

2023.03.14

越境ECの拡大により、輸入小口急送貨物への対応が急務になっている。航空貨物などによる不正薬物や知的財産侵害物品等が摘発される事案が増加し、ECプラットフォーム事業者のフルフィルメントサービスを利用した貨物について不適切な課税価格で輸入申告が行われるケースもみられる。財務省関税局・税関では、EC関連の新たなビジネスモデルの台頭に適切な対応を図るため、通関業者、ECプラットフォーム事業者との連携・協力を強化。令和5年度関税改正において制度の見直しを実施し、NACCS(輸出入・港湾関連情報システム)の更改時期も踏まえて施行する予定だ。

航空貨物の輸入許可件数は19年比で倍

コロナ禍の巣ごもり需要などを背景とした越境ECの拡大に伴い、輸入申告件数が年々増加している。21年の航空貨物の輸入許可件数は19年比で約2倍に増えた。航空便の減便によるスペースひっ迫などを背景に、近隣アジア諸国からの通販貨物の一部は海上貨物にシフトし、海上貨物の輸入許可件数も前年比2倍の伸びを記録した。

輸入が急増しているのが、ECサイトを通じて海外の販売者等により販売され、国内の購入者に直接配送される「通販貨物」だ。ECプラットフォーム事業者が提供するフルフィルメントサービス(FS)を利用し、国内で販売することを“予定”して輸入される「FS利用貨物」も目立つ。

こうした中、航空貨物等による不正薬物や知的財産侵害物品の密輸が増加。FS利用貨物については、非居住者が輸入実績のある国内居住者の名義を勝手に使用する、いわゆる「なりすまし」により輸入を行う事案が発生。輸入時点で売買が成立しておらず、取引価格が存在していない中で不当に低い価格で輸入申告し、関税等をほ脱する事案もみられる。

不適切な輸入は虚偽申告輸入罪の対象に

財務省関税局では22年6月から「急増する輸入貨物への対応に関する研究会」を開催し、通販貨物およびFS利用貨物にかかる措置が円滑に実施されるための、SP業者、EC運営事業者との連携・協力、有用な情報の取得、必要な制度見直しについて議論。同研究会は、10月31日に対応の方向性と主な施策案をとりまとめた。

このうち令和5年度関税改正に盛り込まれたのが、輸入申告項目の追加だ。現行の輸入申告項目では、通販貨物やFS利用貨物であることが把握できず、審査・検査を行うべきハイリスク貨物の絞り込みに限界があることから、通販貨物やFS利用貨物であることを申告情報から特定できるようにする狙いがある。

具体的には、輸入申告項目に「通販貨物に該当するか否か(ECプラットフォームを利用した場合はその名称も含む)」と「国内配送先」を追加。また、現在は輸入申告書の「様式」で記載を求めている「輸入者の住所および氏名」を「政令上の輸入申告項目」に加える。これにより、「なりすまし」による不適切な輸入は虚偽申告輸入罪の対象となる。

税関事務管理人、税関長による指定が可能に

もうひとつが「税関事務管理人制度」の見直しだ。非居住者が自ら輸入者となって貨物を輸入する場合、輸入申告等の事務を処理させるため、国内に住所等を有する者を「税関事務管理人」として定め、税関長に届ける必要がある。しかし、非居住者が税関事務管理人を定めず、取引実態を把握していない国内居住者に輸入の代行を依頼しているケースがある。

税関が申告内容や取引の詳細を十分に確認できない事案が発生していることから、制度の見直しでは、税関が非居住者に連絡できるように、税関事務管理人の届出がない場合、税関長が非居住者に対し、期限を指定して届出を求められるようにする。また、非居住者が期限までに税関事務管理人を届け出ない場合は税関長が指定できるようにする。

税関長が指定する税関事務管理人の範囲は、①非居住者と資本関係があるなど特殊な関係を有する者②関税の税額等の計算の基礎となるべき事実について非居住者との契約により密接な関係を有する者③非居住者が利用するECプラットフォームを運営する事業者等――が想定される。また、届出の際には、委任関係を証明する書類の提出を求められるようにする。

なお、税関事務管理人が行う業務は、一般的には輸入許可書などの税関長と非居住者の間の書類の授受、関税納付や還付金の受け取り、輸入時や検査時の税関への対応などがあるが、税関長から指定を受ける税関事務管理人が行うべき業務は税関長と非居住者の間の書類の授受など一定の業務に限られることとなる予定。現在、税関事務管理人として500者程度が届け出されており、通関業者などの物流会社やコンサルタントが引き受けているケースが多いようだ。

このほか、急増する越境EC貨物に対しリスクに応じたメリハリのある対応を図るため、事業者との連携・協力も強化する。事前情報の提供が可能なSP業者を拡大。EC運営事業者とも模倣品の水際取り締まりに関する協力関係を進展させるとともに、海外の事例にみられるように輸入通関手続き全般にわたる情報提供に関する協力を模索する。
こうした取り組みの一環として昨年6月には、関税局とアマゾンジャパンが知的財産侵害物品等の国内流入防止を目的に、模倣品等の水際取締りに関する協力関係の強化についての覚書を締結した。関税局がEC事業者と覚書を締結するのは初めてで、販売者への啓蒙活動への協力にも期待を寄せる。
(2023年3月14日号)


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