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通関業者の立替払い、9割が荷主の要請

2022.09.06

通関業者の9割が荷主に代わって関税・消費税を立替える「立替払い」を行っており、その理由は荷主からの要請が9割を占めていることが、業界団体の調査でわかった。立替払いにより資金繰りが悪化したり、荷主が倒産して立替金を回収できなくなるリスクを通関業者が負っている実態がある。通関業者の立替払いをめぐっては、公正取引委員会が5月に、物流事業者との取引における「問題につながるおそれのある事例」として明示しており、政府の9月の「価格交渉促進月間」にあわせた実態調査を通じ、荷主と通関業者との不適正な取引にメスが入る可能性もある。

消費税増税で立替払いの経済的負担増

輸出入者の通関手続きを代理・代行する通関業者は、その商慣習から、輸入者に代わって輸入品にかかる関税、内国消費税等を対価を得ることなく立替払いしているケースがある。立替払いは、通関業者の経営判断により行われているものの、経済的な負担となっており、近年は消費税の増税により、さらに負担が増している。

中小通関業者が売上の倍に相当するような高額の立替払いをしている例もある。大手物流会社でも立替金の未回収を発生させてしまった「苦い経験」を持つ担当者もいる。「荷主からすると何度も銀行の支払いをするのが面倒」(地方の通関業者)で、本船入港時のチャージ類から立替えている通関業者もあるという。

荷主による「不当な経済上の利益の提供要請」

通関業者の立替払いに関しては、長年「民・民の契約の問題」とされてきたが、コロナ禍を受けて「官」の対応が変わり始めた。財務省関税局は昨年2月、日本貿易会あてに通関業者との取引に関する一層の配慮を求める依頼の文書を発出。通関業者による立替払いが「輸入者の優越的な地位を利用した不公正な取引となる場合がある」との考えを示した。

さらに公取委は今年5月25日、荷主と物流事業者との取引に関する調査の結果を公表した中で、「荷主が通関手続において発生する関税・消費税を荷主において直接支払わず、物流事業者に対し、立替払いをさせた」事案を、荷主による「不当な経済上の利益の提供要請」の事例として挙げ、「問題につながるおそれがある」との注意喚起を行った。

荷主からの要請だけでなく営業的な判断も

ただ、立替払いの解消には至っていないのが現状のようだ。東京通関業会が6月から7月に会員店社286者(回収率51・0%)向けに行ったアンケート調査では、90・4%が「関税・消費税等の立替払いを行っている」と回答。全輸入申告における立替払いの割合については、「3割以上5割未満」(37・1%)が最も多い回答だった。

立替払いを行っている理由(複数回答)を尋ねたところ、「荷主からの立替払いの要請」が92・4%で荷主からの要請が大多数を占める。一方で、「他社も行っているため」との回答も31・1%と3割にのぼる。同業他社との競争を背景に、通関業者の営業的な判断から、リスクを負って立替払いを行っている状況が浮かび上がってくる。

輸入者が税金を直接納付する「リアルタイム・オンライン口座振替方式」が浸透すれば、通関業者の立替払いは必要なくなるが「登録・稼働に時間がかかる」「個人の顧客は口座をつくれない」などの意見も寄せられる。そもそも通関業者による無償の立替払いは荷主には好都合で、「すべての輸入者にリアルタイム口座開設を義務付けない限り、立替払いはなくならない」との見方もある。

「荷主に代わり関税・消費税を納付し、貨物を引き渡すことに違和感がある」と物流会社の幹部は話す。政府は9月を「価格交渉促進月間」と位置づけ、重点ヒアリングを行い、問題のある事例を公表する。通関業者が価格交渉の一環として立替払いの要請を拒否した際、「他社は立替えてくれる」と取引停止をちらつかせたり、協議に応じなければ、問題となる行為に該当することが考えられる。
(2022年9月6日号)


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