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【ズームアップ】「TradeWaltz」に貿易・物流業界注目

2022.03.15

貿易・物流関係業界がいま最も注目しているのが、トレードワルツ(本社・東京都千代田区、小島裕久社長)が運営する“業界横断型”の貿易プラットフォーム「TradeWaltz」。ブロックチェーン技術を活用して貿易業務の完全電子化をめざしており、過去の実証結果から、44~60%の業務効率化を実現し、コスト削減や貿易実務者のリモートワークが可能になるなどのメリットがある。昨年には、大手物流会社がトレードワルツへの出資を発表、さらに、トレードワルツが事務局として貿易効率化を推進するコンソーシアムの参加企業は2月末時点で100社に到達した。4月にはいよいよ輸出機能、輸入機能を合わせた製品版がリリースされる予定で、貿易業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)に弾みがつきそうだ。

「業務イベント管理」が電子化の主軸に

日本の貿易が直面しつつある課題が「人手不足」と「非効率」。貿易量の増加に対し貿易実務者は減少傾向。一方で、日本の貿易実務は紙の書類やファクス、PDFなどによるアナログな情報のやり取りが多く、貿易取引に膨大な時間を要し、世界銀行の調査では、日本の貿易実務の効率性はOECD加盟国36ヵ国中31位となっている。

貿易実務の課題が浮き彫りになったのが、コロナ禍だ。貿易にかかわる国内の実務者同士では紙の書類のやり取りが多く、リモートワークを阻んでいる。感染を防ぐために在宅勤務がしたくても、貿易の書類が会社に届くため出社せざるを得ないなど、「働き方改革」の波に乗れず、従事者がさらに減少することも危惧される。

荷主、銀行、保険、物流など貿易業務に携わる各業界のリーディングカンパニーと、ITベンダーのNTTデータの計13社による「貿易コンソーシアム」が発足したのが、17年8月。実証実験やプラットフォームの試行運用を重ね、20年4月にコンソーシアムに参加する7社の共同出資でトレードワルツを設立、同11月から事業を正式に開始した。

「TradeWaltz」の開発運用では、21年3月にLC(信用状)通知機能の製品版をリリースし、一部の電子化をスタート。ただ、文書の共有だけでは取引の全体像が把握できず、企業間で情報伝達が発生する「業務イベント管理」の電子化に開発の軸足をシフト。新仕様では、ステータスの可視化やコミュニケーションの包括支援等を追加実現する。

昨年10月には、輸出機能のトライアル版をリリース。取引管理や物流会社への輸出通関依頼のほか、通知・メール・電子承認機能を活用した社内手続き等も可能で、対象業務で発生する書類の数が多いため、効率化の効果は大きい。1月には輸入機能のトライアル版、4月には、輸出・輸入機能ともに製品版をリリースする予定だ。

貿易DX、システム連携に物流会社も強い関心

昨年5月から一般公募している貿易コンソーシアムの参加企業も順調に増えている。商社、メーカー、銀行、保険会社、物流会社、船会社、ITベンダー、公的機関、物流プラットフォーマー、シンクタンクなど幅広い業態に拡大し、2月末時点で100社に到達。物流業界の参加企業も大手のみならず、中堅中小に広がりつつある。

貿易DXを「戦略」として位置付ける物流会社の「TradeWaltz」に対する関心は強い。昨年8月には、トレードワルツの既存株主である兼松が取引関係のある物流会社4社(川西倉庫、鈴江コーポレーション、大東港運、富士倉庫)と共同設立したジョイントベンチャー「TW Link」に加え、「三井倉庫ホールディングス」「日新」がトレードワルツに出資した。

佐川急便が昨年実施したアクセラレータープログラムでは、トレードワルツの提案、実証が成功し、最優秀賞を受賞。佐川急便のグループ会社が、鹿児島県の中小荷主クラインベストのユニークな新商品を台湾に輸出する際、貿易書類を「TradeWaltz」により電子化したほか、連携する京セラコミュニケーションシステムのトラッキングシステムIoT Trackerと連携し貨物の位置情報を把握する実証試験で、導入効果を実証した。

物流会社と「TradeWaltz」との距離が縮まった背景のひとつが、20年11月の輸出入・港湾関連情報処理システム「NACCS」との連携に関する覚書締結だ。NACCSは輸出入申告の約99%を処理する国際物流における基幹システムで、「TradeWaltz」と連携の方向性が打ち出されたことで物流会社の関心も強まった。

もうひとつは、国際物流分野でトップシェアを誇るシステムとのデータ連携。バイナルが提供する国際物流システム「TOSSシリーズ」と「TradeWaltz」のAPI連携を昨年10月に開始。「TOSSシリーズ」はユーザー数7400社で、同システムとの連携により、物流会社にとって「TradeWaltz」はより身近になった。

トレードワルツでは大手企業の自社システムだけでなく、「競合」と想定されるサービスや、国内外の他のプラットフォームとも積極的に「協業」していく方針。システム連携を通じて一貫して電子化されたデータがつながる「貿易エコシステム」をめざしている。現在、世界の30以上のプラットフォームから協業依頼があるという。

紙の書類の物流削減でCO2削減効果も

初期の貿易電子化、全体のステータス確認に加え、今後増やしていくサービスとして①B/Lの電子化②化学品輸出のコンプライアンスチェック③原産地証明書のオンライン自動発行④IoTセンサーを活用した貿易貨物の位置情報把握とリードタイム短縮(スマートコントラクトによる支払いの自動化)⑤デジタル通貨決済――などを想定。

貿易におけるデジタル通貨決済に関しては昨年8月から12月にかけ、東京海上日動火災保険、NTTデータ、スタンデージとともに実証実験を実施。貨物の代わりに用いる電子B/Lとデジタル通貨(または暗号資産)を同時に交換する、世界で初めての仕組みの実用化に向け、23年度中の事業化を目指している。

さらに、商品マスタに各国のHSコードを登録することによる関税計算の自動化や、取引データに基づく信用格付け、主要ECとの連携や商流マッチング、物流・カーゴマッチングや環境負荷の小さい物流手配なども機能として検討中。「TradeWaltz」を活用し、紙の書類の物流を減らすことによるCO2削減効果についても試算を進めている。
(2022年3月15日号)


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