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【行政インタビュー】国交省 自動車局貨物課長 日野祥英氏

2022.07.28

働き方改革関連法がトラック運転者に適用されるまで2年を切った。5年間の施行猶予後、2024年4月から年間960時間の時間外労働上限規制が罰則付きで施行される。トラックの輸送供給量は10年以降、減少基調に転じているが、働く時間の減少によって輸送力がさらに制限され〝運べなくなる危機〟が迫る。国土交通省でトラック運送事業を所管する自動車局の日野祥英貨物課長に「2024年問題」への所見を聞いた。(インタビュアー/吉野俊彦)

長時間労働、低賃金で担い手不足に

――いよいよ2024年4月から罰則付きの時間外労働上限規制がトラック運転者にも適用されます。「2024年問題」が目前に迫ってきましたが、足元の状況をどのように見ていますか。

日野 トラック運送業界は深刻な人手不足に直面しています。コロナ禍によって物流を担う人材はエッセンシャルワーカーであるとの認識が社会的に定着したと思いますが、一方で長時間労働、低賃金がネックとなり、特に若年層をはじめ将来的な担い手不足が懸念されます。直近の数字でトラック運送業と他産業を比べてみると、21年度では、年間労働時間は全産業平均の2112時間に対し、トラックは大型が2544時間、中小型が2484時間と約2割長くなっています。年間賃金も、全産業平均の489万円に対し、大型が463万円、中小型が431万円です。従来よりも差が縮まってきましたが、それでも全産業平均より5~10%低い賃金です。

人手不足についても他産業とのギャップは顕著です。有効求人倍率の推移をみると今年2月は全職業の1・14倍に対し、トラックドライバー(パート含む)は1・97倍と約2倍高くなっています。また、年齢構成をみると全産業平均よりも若年層(概ね29歳以下)と高齢層(65歳以上)の割合が低い一方、中年層(概ね40~54歳)の割合が高いという特徴があります。全産業平均の中年層が34・7%であるのに対し、道路貨物運送業は45・2%と10%ほど高くなっています。将来、現在の中年層は高齢層に移行するわけですが、高齢者にとって働きづらい職場のままであれば、ドライバー不足はさらに深刻化が進むことが予測されます。

「魅力ある職場づくり」が急務

――少子高齢化の構造は変わらず、若年層に限らずドライバー全体の絶対数が足りなくなることも想定されます。

日野 もはや〝待ったなし〟の状況です。国内貨物輸送量の大部分を占めるトラック運送業の人手不足を解消することが物流を安定的に維持することにつながります。運送業の職場環境や労働条件の改善を図り、「魅力ある職場づくり」を進めることが急務です。そのためには、トラック事業者自身の努力はもちろんですが、ドライバーの労働条件は、荷主との取引条件に依拠している部分が多いので、荷主の協力なしには達成できません。トラック事業者と荷主との取引環境を改善し、適正な運賃・料金の収受や附帯作業、荷待ちなどに関わる取引条件の見直しを行うことが重要です。

――国交省でも課題解決に向けた施策を次々に打ち出して対応を図っていますね。

日野 ドライバー不足が深刻であり、物流の持続可能性が危ぶまれる可能性がある現状を荷主にしっかり理解していただき、荷主と事業者とが一体となって改善に取り組むことが重要です。ドライバーの長時間労働の要因のひとつは長時間の荷待ちです。ところが調査によると荷待ちが発生していることを認識している荷主は発・着荷主ともに約2割で、発生していないと思っている荷主が約6割を占めています。こうした状況を鑑み、荷主に向けてリーフレットを発出したほか、各種セミナーを通じて周知・啓発を行っています。

18年に公布された改正貨物自動車運送事業法の柱として「荷主対策の深度化」と「標準的な運賃」があります。荷主対策については、取引環境の改善を図るため、トラック事業者が法令を遵守した運行を行えるように荷主が配慮する義務や、国土交通大臣による荷主への働きかけの規定が新設されました。事業者の違反の原因となるおそれのある行為(違反原因行為)を荷主がしている疑いがあると認められる場合、働きかけを行うことで改善を促します。荷主が違反原因行為をしていることを疑う相当な理由がある場合は改善するよう国交省本省が要請を行います。要請をしてもなお改善されない場合は勧告を行い、荷主名を公表することとなります。この間、当該荷主に独占禁止法違反の疑いがある場合は公正取引委員会へ通知するなど関係する行政機関と連携しながら対応を図っていきます。

荷主とのコミュニケーションを緊密に

――いわゆる荷主対策の「ホップ・ステップ・ジャンプ」ですね。これまでに「ホップ」にあたる「働きかけ」については約60件実施し、対象となった荷主すべてが改善に取り組むことを表明するなど一定の効果が見受けられます。

日野 今後も荷主に対して必要な働きかけを継続し、取引環境の改善につなげていく考えです。ただ、行政が荷主に対して働きかけを行うよりも前に重要なことがあります。それは事業者と荷主とがコミュニケーションを緊密に行うということです。事業者と荷主が同じテーブルに着き、お互いの課題を相談できる環境をつくることです。その上で運賃・料金の交渉や、現在では燃油費高騰に伴うサーチャージ料金の収受について相談することが必要です。実際に交渉の成功事例をみると、普段から荷主とのコミュニケーションをしっかり行っている事業者ほど、運賃アップやサーチャージ導入を実現しているようです。

――普段からのコミュニケーションが有効であり、逆に言えばコミュニケーション不足は経営にとって損ですね。

日野 荷主対策の制度を運用する以前に、そもそも事業者と荷主はビジネス上の関係を築いているわけです。確かにビジネスである以上、できる限り自社に有利な条件で取引をしたい、交渉では「高めのボール」を投げてみよう、という気持ちはわかりますが、荷主と事業者は必ずしも対等な関係ではありませんので、事業者は荷主の言うことを真に受けて何でも受け入れてしまいがちです。運送会社は顧客にサービスを提供し、その物流を担うという重要なビジネスパートナーであるわけですから、強い立場にある荷主の側で、ドライバーの労働に関するルールや運送事業の原価などに配慮することで自社にとって持続的な物流が可能となるように、適切なパートナーシップを構築していただきたいと思います。

取引の適正化や生産性向上は一過性でなく継続的課題

――「標準的な運賃」の普及についてはいかがでしょうか。

日野 20年4月に改正事業法に基づいて告示した「標準的な運賃」は自社の経営を見直すためのツールでもあります。全日本トラック協会と共同で「標準的な運賃」の主旨・目的から活用にあたって必要な諸手続までをわかりやすくまとめた解説書を作成しています。そうしたガイドブックなどを参照しながら、自社の経営を分析した上で積極的な交渉に取り組んでいただきたいと考えています。国交省もさらなる浸透に向けた周知活動などを行っていきます。

改正事業法に基づく取り組み以外に荷主に対して物流改善を促す取り組みとして政府全体で「ホワイト物流」推進運動を展開しています。トラック運送業が若者、女性、高齢者も含めたすべての人にとって魅力ある「よりホワイト」な職場とすることが狙いです。ここに参画した荷主はドライバー時短などに取り組むことを「自主行動宣言」で表明し、改善活動を進めています。4月末時点で1402社が「自主行動宣言」を提出しています。

最後にもうひとつ申し上げたいことがあります。「2024年問題」と言われていますが、トラック運送業の抱える課題は2024年だけを乗り切ればいいというものではありません。かつてのコンピュータの「2000年問題」は、2000年だけを乗り切ればよかったのですが、それとは異なります。2024年からの労働時間に関するルールは、当然ですが、25年以降も適用されますし、今後ずっと生産年齢人口が減少していくわけですから、労働条件の改善や取引の適正化、生産性向上のための努力は、一過性の取り組みではなく継続的に行っていく必要があります。その意味で「2024年問題」を契機として、トラック事業者と荷主が適切な関係を築いて、我が国の物流全体をより良い方向に舵を切ることになればいいと考えています。

(ひの・しょうえい)1995年東京大学法学部卒、同年運輸省(現・国土交通省)入省。鉄道局都市鉄道政策課駅機能高度化推進室長、大臣官房危機管理官、内閣府カジノ管理委員会事務局企画課長などを経て2021年7月貨物課長に就任。
(2022年7月28日号)


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